キヲクどろぼう
短い作品を一つにまとめたものです。昔書いて色々したものをここに埋葬。
わたしのあるときのどうしようもなさ。悲しいけど確かに現実だった。
最初はキヲクどろぼうというタイトルのもの。
ではでは。。。
「残念ながら泥棒の行方は知らずとなりました。すみません。ではさよなら」
けいさつさん すたこらさっさ。
どろぼう。わたしに。盗まれしはキヲク。わたしのキヲク。おかげでわたしきえちゃいました。まあ大変。もうだめわたし。いろいろからほったらかし。とはいってもわたしはわたしの端くれ。そんなわけにいかない。だれもわすれていくどろぼうさんをとっちめるのだ。
さあどろぼうさんは? いきなり難題。どろぼうさんとは? なにもわかんない。まったく暗礁だ。乗り上げだ。
とりあえず地道。聞き込みだ。
「どろぼうさんしってる? キヲクどろぼう」
しらない。
なにそれ?
パンならとっていくやつがいたわ。
あっちの方角にいそうとこのビー玉が示しておる。
成果なし。次だ次。ポスターをはろう。指名手配。賞もつけるぞ。
「指名手配!! キヲクどろぼう。わたしのキヲクをうばったわるいひと。しってることあったらおしえてくださいな。みかえりはパスタ。とってもおいしいカルボナーラ」
情報がきた。
おなかへった。
おいしいカルボナーラならおしえるよ
パスタよりうどん派
カルボナーラ? カルボナーラ! カルボナーラ!!
パスタの情報がいっぱいきた。
てがみをかこう。
「キヲクどろぼうさんへ
わたしのキヲクをうばってもなにもいいことないよ。だからキヲクかえしてね。べつにおこってないから。ゆっくりでもいいからもってきてね。絶対だよ? それにねもってきてくれたらいいことあるかもよ? なんといってもわたしはパスタをつくるのが得意なのです。おいしいパスタのひとつやふたつあっという間ですよ。ねっ、いいでしょ。だからね、おなかがすいたときでもいいからもってきてよ。お願いね。
わたしのはしくれより
ポストにいれてっと。これでOK。
〔住所わかんないしかえすね〕
かえってきた。
なかなかみつかりません。キヲクどろぼうなんてきのせい? うーん…。でもたしか。そのはず。わたしはねころがっているんだし。どろぼうにちがいないのだ。
メディアさんに売り込みだ。
[号外 わたしの記憶をうばったキヲクどろぼう。わたしのはしくれは語る。「とても悲しくパスタも食べられない」]
…
あ!? あやしいひと。 キヲクどろぼうだー!! …あれ? ご、ごめんなさい。 ひとちがい…
あ、あっちだ、あのひとあやしい。
「あなた、キヲクどろぼうでしょ。わたししっているよ」
「す、す、すみません。ほんとにすみません」
「ほんとにキヲクどろぼう?」
「すみませんすみません」
「キヲクどろぼうさん大丈夫だよ。おこってないよ。だからね、顔あげて。パスタもあるかもだしね」
「このたびはすみません」
「いいってこと。それよりききたいことあるの」
「なんでしょう」
「わたしのキヲクは?」
「すみませんすみません、ほしいっていうひとにわたしました」
「えっ!? わたした…。そんな…」
「すみませんすみません」
「もうやっちゃったもんは仕方ないよ。それよりさだれにわたしたの?」
「う、うちゅうじんです…」
「宇宙人!?」
「そうです、宇宙人、ufoです」
「なかなかなところへ…」
「すみませんすみません」
「まあ仕方ないね。いっちょいってくるよ」
「すみませんすみません」
「宇宙船 宇宙船は?」
どろぼうさんによるとうちゅうじんはたまたま不時着してうろうろしていたらしい。気さくなうちゅうじんでたのしかったそうだ。
「うちゅうじんなんてはじめてあうよ」
なんてはなせばいいんだろ? まずはこんにちはからかな?
ここが不時着現場。でも宇宙船ないよ。一足遅し。いやもっと? 宇宙船はもうないよ。ミステリーサークルその証。まったく粋なうちゅうじん。
「どうしようキヲク」
「宇宙船の行方ならしっているよ?」
!? あんただれ?
「科学者さ。宇宙人に頼まれてガッポリさ」
そらあよかった。
「あんたあれだろ、わたしとかいう泥棒にあった…、そうパスタ、パスタだ!! わたしはパスタに目がなくてねパスタをくれるならね教えてあげるよ」
「キヲクがもどったらパスタなんていくらでもだよ」
「あっちの方角さ。ところでそのパスタはカルボナーラ?」
「そうだよ」
「よし。ついでもついであんたにも宇宙船作ってあげるよ」
「やったー」
ガチャガチャガチャガチャッ
「完成だ。うまくできたぞ」
「ありがとうです。ではいってきます」
「たっしゃでな」
ぷるぷるぷるっ 宇宙船は揺られて宇宙へと
宇宙はわかんないでいっぱい。ふしぎだらけ。たこになりそう。なんていっているうちにあわわわ。ふひゃー。
…イタタ…。不時着。でもここが目的地。別のほし。でもそんな感じしないかんじ。
「なんかさびれてるなー」
「そうでしょー。あんたの星とはあんまり変わんないどころか少し劣化した感じがこの星の売りでね~」
この星の人。
「こんにちは」
「こんにちは、わたし入国審査官。あなた入国してよろし」
わたしって不法侵入じゃないの?
「いいってことよ」
「はあ…」
「ところであんた暇? 暇ならお茶でもしませんか? あそこの喫茶店で」
あわわ、積極的。もう歩き出しているし。手ひっぱられるし。
コーヒー にがい
「この星はなんでも薄くみたいなモットーをもっているのですよ」
「わたし甘いほうがいいな」
「そんなあなたにホットケーキ」
なんとも客ころがしのうまい。
「あのー。すみません」
「どうしたの」
「わたしこんなところでお茶なんてしている場合じゃないの。用があってこのほしにきたの。だからいかないと」
「まあまあそういうときこそゆったりする時間が必要なものです。それにわたしもあなたのお手伝いができればっておもってここにさそったのですよ」
えっ、そうなの。
「そうですよ、あなたがキヲクをおっているのはこの星でも有名なのです」
どんな情報網?
「まあそういうことでね、わたしがおもうにもうこの星には残念ながらそのわたしさんのキヲクはないようにおもうのです」
え、なんで?
「いやあなんといってもこの星ではねそのキヲクというものにね大きな価値をもてるものがいないのですよ。単純な話」
えっそうなの?
「そうなんですよ。かくいうわたしもそのひとりですが、まあそういう感じでまあまたべつの星のものへ渡っていっているはずなのです」
そんなー
「まあ安心してください、わたしが調べてみますよ」
えっほんと?
「さっきもいった通りわたしはあなたに協力したいのです」
宇宙船プルプル。不時着もなんのその宇宙船プルプルGO―GO― …あれ?あれまのま?うわわわ
またまた不時着。宇宙船って不時着するもの?
「侵略者 侵略者ダー」
え? なになに?
「侵略者 侵略者 倒スベシ」
なんだー なんだー?
「攻撃 捕獲 生ケ捕リダー」
うわー
…いたたっ しばられている
「なにこれ?」
「ヨウヤク起キタナ? 侵略者」
「わたし侵略者じゃないよ」
「侵略者ハヨクソレイウ」
そうなんだ
「というよりほどいてよ。窮屈だよ」
「ダイジョブ。血止マルマエニ祭リアル。ソノトキマデノ辛抱」
えー
「オ祭リタノシイネ。キタイスルガイイネ」
それよりほどいてくれたほうがうれしいな…
テクテクテク。このほしのひとあつまってくる。ありさんみたい。
「祭壇ノ供物メイヨアルネ、オマエ」
いやだよそんな
「メグミアレ メグミアレ ワレラニメグミアレ」
「メグミアリ メグミアリ ワレラニメグミアリ」
「ヨロコビ ヨロコビ ワレラニヨロコビアリ」
キヲク… キヲク! ありさん キヲク メグミだと
「そのキヲクわたしの!!」
「侵略者何ヲイウ! 祭リノ邪魔スルナ!!」
「でもわたしのだもの、正確にはわたしのじゃないけれど…。でも大事なものなの。わたしも同じキヲクもってる。みてみるわたしのキヲク」
「オマエモキヲク持ッテイル?」
「そうもっているの大事なわたしだけのキヲク」
「ワタシタチ悪イコトシタ。スマナイ」
「いいってこと。終わったことだから」
不時着したのも悪いしね
「オマエメグミクレタ、ヨロコビノモト」
「まだあげてないよ パスタ」
「イヤ、キヲク 大事ナキヲク。触レタワタシタチヨロコビダッタ」
「それは嬉しいよ」
「オマエココニイナイカ? ワタシタチオマエイルトヨロコビ」
「ごめんなさいわたしキヲクを取り戻さなくちゃいけないの。だから、ね」
「ソウカ、ソレハイザ仕方ナシ」
「でも、でもね」
「うむ?」
「絶対、絶対くるよ。また。今度はキヲクがいっぱい詰まったパスタを持ってね」
ブーブーブー。へなへな宇宙船GOGOGO―
ホットケーキーは冷えるとおいしい
「やっぱりですね」
「なにがー」
「キヲクですよ。一筋縄ではいきませんよ」
「というのは?」
「複数の星、今回は二つですね、ふたつの星の元へと渡ったわけですが、ひとつの星はなんとかなりそうですがもうひとつの星はなかなか」
「なかなかというと」
「キヲクに溢れた星というわけですよ」
「それが?」
「なかなか手放しませんし」
「し?」
「どんどん拡がり混ざりあっていく」
「く?」
「回収するのはなかなか」
「厳しい?」
「そう」
「そう…」
「まあそう気を落とすもんではありません」
そうはいっても
「確かになかなかに過酷です。ですがまだひとつ希望はあります」
希望?
「自らのキヲクに人は敏感ということです。幸いにもあなたはわたしの端くれ、わたしさんの記憶をもっている。これは勝算あり、ですよ」
「そう…」
「ありがとうでした」
「いえいえわたしは少しでもあなたの助けになればって思ってのものですから。なんてことありません。それより…」
それより?
「またいつかこの星にきてくれないでしょうか? 今度はあなたご自慢のパスタをもって」
「わたしのじゃないよ。わたしだよ」
「いえあなたのパスタがいいのです」
「そこまでいうなら…」
「ありがとうございます。ではいい旅になることを」
またまた不時着 なんとも不器用宇宙船
キヲクに溢れた街 溢れるってどういうこと? こういうことらしい
もの ことば おと くうき ち なみだ なにもかもが溢れている
溢れすぎてなにもみえない わかんない
しらないばしょ ここは
「――ということですね?」
「そうです。あのほしからきました」
「まあそういう事情ならまあいろいろあるだろうがまあ通るだろう」
「すみません」
「今度は正規のルートできなよ」
「はい」
宇宙船は没収。当分の間はこの星で滞在しなさいって。すこしのあいだ。そのあいだにみつけないと。
「わたしのキヲクしりませんか?」
しらない
「大事なキヲクしりませんか?」
しらない
「わたしのキヲクとおなじなんです。だれか知りませんか?」
しらない
「教えてくれたらパスタいっぱいあげるよ とてもおいしいよ」
しらない
「キヲクしりませんか?」
しらない
キヲクキヲクキヲク どこもかしも溢れている。目にもとまらぬものがすぎゆく。なんでこんなに。わからなくなる。
「ではどうしてきたの?」
「わたしのキヲク知りませんか?」
「記憶? それはあんたが一番知っているんじゃないのかい? それにそんなことは交番の専門外だ。ほかをあたってくれ」
「でも」
「でもじゃない。ここは交番。なにか悪いことがあったり道を聞きたいとき利用する場所だ」
「でもわたしのほしじゃいろいろおはなしきいてくれたよ」
「それはあんたの星のはなしだろ。ここは違う」
「はい…」
「では帰りなさい。用がないんだったら」
こうえん ベンチ 冷たい 冷えちゃうよ
「なにかお悩みかい?」
しらないおじさんたっている
「いやいやすまない。びっくりさせて。わたしはここの常連さ。いま丁度あんたが座っているところのね」
「す、すみません。すぐにどけます」
「いやいやそういう意味あいではないよ。それにあんた疲れているときはこのベンチが一番さ」
「でも…」
「いいってことよ」
「はあ…」
「ただすまんが横に失礼していいかね? わしもここがいいんだよ」
「いいものってなかなかないものだとおもわんかね」
「はあ…」
「それにいいものっていうのはそれをしった瞬間飛んで行っちまう貞操なもんさ」
「ところであんたどうしたんだい?」
「…特に」
「そうか…」
「てな塩梅が乙なもんだがそういうわけにはいかんじゃろ。まあここはひとつあんたの独り言をききたいわい」
「わたし キヲクを探してて…」
「このほしにあるってもんですからきたんですけど…」
「このほしはとても溢れていて…」
「わからなくなったんです わたし」
「みえなくなったんです なにもかも」
「そうか…」
「確かにこの星はブツで溢れておるわい。嫌になるほどじゃ」
「そのなかに紛れたこんでいってしまったもんを探そうなんて無理難題」
「じゃがなそう匙を投げるもんでもあるまい」
「幸い探しもんはあんた自身みたいなもんじゃろ?」
「それなら心配するもんでもない。簡単じゃ」
「どうしてですか」
「うん?」
「どうしてそう楽観的なんですか? わたしには無理です。こんな訳の分からないところで探し続けるなんて…」
「あんたはなんでここに座っておる?」
「はい?」
「あんたはなんでここに座っておる?」
「たまたまよ」
「たまたま。そうじゃ。それでしかない。出会いなんて」
「それがどうしたっていうのよ?」
「ここにあんたがきたのはたまたまじゃ。たまたま通りすがった。でもじゃなぜここをみてここをはいろうとしはいってここにいつづけているのじゃ。変なおっさんまで話しかけるほどの状況にまで陥っているのに」
「それは…」
「そういうことじゃ。このほしではな」
「そろそろ時分か… ではあんた達者でな」
「…あの!」
「…なんじゃ」
「パスタ」
「?」
「こんどあったときはパスタつくりますから よかったら」
「うん 気長にまっておるよ」
歩け歩け 走れ走れ とまれとまれ
勝手勝手よ てきとうね
わたしはわたし わたしにあうの しらずのうちに
いけいけわたし いつのひか
それそれわたし かってにね
「わたし」
「わっ!?」
キヲク 溢れている でも惑わしはきのせい 実在はなんでもないただのそれ 難しいけど だからこそ
「あんまりなにもかわんないね。にたようなもんだ」
「あんた勝手にはいってきてなんのつもりだ」
「キヲクほんのすこしの」
「はあなにいってんだ」
「頂いていくよ」
「なに?」
「かいとうですから」
キヲクはいろいろぐっちゃぐっちゃ
まみれている
でも大切
ひとつずつ すこしずつ
ひろいあげるの
わたしだから わたしですから
しっかりね
「よっひさしぶりだねはしくれさん」
「ひさしぶりだね交番さん」
「ところでみつかったのかね …その記憶は?」
「はいみつかりました」
「そりゃあよかった。ところで今日は?」
「宇宙港はどこかなって」
「宇宙港かい。それならあっちいてそっちいってほいだ」
「ありがとうございます。ところで交番さん、おなかへっていません」
「あ? ああそういえばそういう時分だな、もう」
「パスタ カルボナーラいかが?」
わたしのほし
ひさしぶり あまりなにもかわっていないね
そんなところ
…んん ふ、ふわあ
「あ、おきたの」
えっと
「ひさしぶりだね わたし」
あなた だれ?
「えっ わたしだよ わたし」
わたし… えっ!? わたしなの!
「そうだよ なにとぼけているのさ」
うそ ほんとにわたし? ぜんぜんまえとちがう
「えっ?」
かわったねわたし
「ほ、ほんと?」
うん わたしじゃないみたい
そのあとのおはなし
わたしのはしくれことわたしはさまざまへとパスタをもっていくためパスタ作りを精進
わたしのパスタまだ遠し でもいつの日か必ずね
次は別の作品