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こうして、俺たちの冒険は幕を開けた

気軽に読んでください

  太平洋に浮かぶこの島の夏は厳しい暑さに見舞われる。それは今日とて例外ではない。身体中から汗が吹き出てくる。


  しかし、街に一歩足を踏み入れたこの瞬間、暑さなんてどこかに吹き飛んだ。


「うわーすげえ。日本街って言うだけあって、本物の日本みたいだな。歩いてる人もみんな日本人だし」


  久々に味わう日本の雰囲気。それに初めて味わうこの街の独特の雰囲気が混ざって、懐かしいのか新鮮なのかわからなくなってくる。


  とりあえず何か言葉を発したい衝動にかられ、独り言を並べる。


「この島での日本の立場はあまり高くないって聞いてたからな。まさかこんなに栄えてると思わなかったぜ」


「ほんと。なんだか日本人として誇らしいわね」


  俺の独り言に誰かが反応した。俺は顔を横に向け、声の主の頭と顔を順番に見る。


「おいルーシア=リフレット、お前のどこに日本人要素があるんだ。金髪だし、片方の目青いし」


「うるさいわね! ママが日本人なんだから私も日本人よ! それに、こういう時だけフルネームで呼ぶのやめてよね」


「ああ、そうだな。悪かったよ。ルー」


「そのあだ名もなんとなく嫌って言ってるでしょ!」

 

  せっかくの整った顔をひきつらせて怒っている幼なじみの声は、心なしか弾んでいるように思える。


「あっ、ほらシュウ! あれ! あれ見て!」


「え? どれだよ」


「変な旗が飾ってあるわ! 白地の真ん中に赤い丸がポーンよ。マヨネーズの容器でもイメージしたのかしら。街の人って意外とセンスがないのね」


「……お前には二度と日本人を名乗って欲しくないものだな」


「あら? どうして?」


「なんでもねーよ」


「ねえ! なーんーでー! 教えてくれたっていいじゃないケチ! シュウのケチ!」


  こいつ、いつにもましてうるさい。街に来れたからってはしゃぎすぎだ。


  日本人しかいないはずの街に外国人がいるというので、ただ歩いているだけで視線を集めるというのに、騒ぐと余計に周りの注目を浴びる。


  初めての街で俺まで悪目立ちはしたくない。早く黙らせなければ。


「あっ! そうだわ。早く教えてくれないと3、2、1でシュウの秘密を大声でばらすわよ! はいサーン! ニー!」


「1で黙らないと、お前が寝てる間に大量の納豆を口に突っ込んでやる。はいイーチ!」


「な、納豆は卑きょ……………………」


「よろしい」


「くっ……後で覚えておきなさいよ」

 

  よし、やっと静かになった。だてに小学生の頃から一緒にいるわけじゃない。


  それにしても、落ち着きないなあ。静かになった今でも辺りをキョロキョロしているし、街に入ってから俺の服を掴みっぱなしだ。はぐれる心配が無くなってこれはこれでいいのだが。


  だがお察しの通り、俺だって興奮を押さえるのに必死なんだ。いや、変な意味じゃなくてだな。憧れの場所に来れて感動しているって意味の興奮だ。


  でも、少しぐらい浮き足立つのも許しほしい。何てったって、俺らにとって今日は特別な日。寮の外に出ることを許された最初の日なんだから。


  まあそれは置いといて、ルーの奴、さっき俺の秘密がどうとか言ってたけど、何を知ってるんだろう。まさか……。


「うーん……。あのダサい旗、日本と何か関係があったのかしら……」

 

  いや、こいつのことだ。心配する必要は無さそうだな。どうせ出任せだろう。


「おい眼鏡」

 

「なんでありますか」


  ルーがようやく落ち着いて余裕ができたところで、もう一人の連れに話しかける。

 

  こいつは鏡。本当に鏡って名字だ。その名にふさわしく、いつも眼鏡をかけている。ちなみに俺とルーと鏡は、同じ寮で暮らす仲間の中でも一番付き合いが長く、普段から行動を共にしている。


「いや、さっきから静かだったから様子が気になっただけだ」


「心配ご無用であります。リフレットと千喰ちぐろくんのあつぅーい夫婦喧嘩を見物していただけでありますから」

 

  この瞬間、俺の服を握っていた手がやっと離れた。


「ばっ……! な、何言ってるのよ死になさい地味腐れ眼鏡! こんな前向きなことだけが取り柄のバカなんかとそんな……なんてありえないんだからね!」


「なあルー、すごい勢いで言葉のナイフを振り回すのはやめような……」


「もう二度とこのネタでからかわないであります……」


  思わぬカウンターを食らって凹む鏡と、とばっちりを食らって凹む俺。


「わかればいいのよ」

 

  うんうん、と満足そうな顔でうなずくルー。言いたい放題言ってスッキリしたらしい。

 

「千喰くん、そろそろ中心街に向かう時間でありますよ」


「……あ、ああ。そうだな」


「ん? どうかしたでありますか?」


「中心街って、どっち?」




「まったく、地図くらい持ち歩くのが当然であります」


「おお、持ってるのか。さすが眼鏡キャラだな。用意が周到だ」


「ふふっ、そんなに誉めても何も出ないでありますよ」


  変なアニメに影響され、眼鏡キャラに異常なこだわりと誇りを持っている変わった奴だが、こういう時は頼りになる。


  情けない話、俺もルーもその場の流れで生きているような人間なので、鏡のような一般人はとてもありがたい。


  だから鏡は、先生の話を聞いたり、俺たちの行動のつじつまを合わせる大事な役を担っている。


「え? ちょっと二人とも私をどこに連れていくつもりなの? まさか危ないところじゃないわよね? ついに私への欲望を抑えきれなくなったとかじゃないわよね? ねえ!?」


  だが、この問題児の面倒をみるのは主に俺の仕事だ。


  見てろ。鮮やかにベイビーをクワイエットしてやるぜ。


「…………」


「ちょっとシュウ! なんで答えないの! まさか本当に……!」


「安心しろ。お前の胸の辺りを見てみれば自ずと答えは見えてくるはず……痛っ! 痛い痛い足踏まないで!」


  俺の左足は犠牲になったが、一応静かになったので俺は俺の役目を果たしたと言えるだろう。


「相変わらずおアツいでありますね……い、痛いであります」


  鏡の地図を頼りに街の奥に進むにつれ、ますます辺りが賑やかになっていくのがわかった。


「だいぶ近づいてきたんじゃないのか」

 

「そうでありますね。あ、ちょうどこの石垣で囲まれたところが特別区でありますよ。あそこの門から入るであります」


「たっかい石垣ねー。まるでなにかを守ってるみたい」


「そうか!」


「ど、どうしたのよ。急に大きな声出して」


「ルーの言葉で思い出したんだ。この石垣、何かに似てると思ったら、城だ!」


  小さい頃、親に連れられて見に行ったな。幼稚園に入ったばかりの時だっけ。記憶はほとんど残っていないが、城壁を登ろうとしたら降りられなくなって泣きわめいたのは覚えている。


「シロ……?」


「ああ、確かに言われてみればお城にも見えるでありますね。できたのはずっと昔だと思うでありますが」


  冷静に分析する鏡。そうか、だからこの石垣は所々えぐれてたり黒ずんでいる部分があるのか。


「……あれ?」

 

「ん? 何でありますか?」


「この島が出現したのは最近だろ? この壁に歴史があるのはおかしくないか?」

 

  俺が疑問を口にすると、鏡のにやけ顔が心底呆れたような顔になった。


「はぁ、千喰くんは本当に授業を聞いてないでありますね」


「余計なお世話じゃボケ」


「いいでありますか? 確かにこの大陸、アトランティアが太平洋に突然浮かび上がったのは三十年ほど前のことでありますが、遥か昔、この島では独自の文明が発達していたのがわかっているのであります。おそらくこの石垣もその名残でありましょう。ちなみに、能力結晶についてもーーー」


「あれ? おーい! どこだー! ルー!」


「ぶち殺されたいでありますか?……今いいところだったでありますのに」


「いや悪い。気付いたらルーがいなくてな。……あ、いた。おーい! そんなところで何やって……って見ろよ眼鏡! あいつ知らないおっさんと話してるぞ! もしかしてこれヤバいやつなんじゃないのか?」


  後ろ姿しか見えないので表情までは見ることができないが、ルーの動きが固まっていることはわかる。一刻も早く状況を確認しなければ。

 

「フンッであります」


  拗ね方うぜえ……。まあ、今はこいつをなだめるよりルーのところへ行くことの方が先決だ。


「おいルー、どうしたんだ? 大丈夫か?」


「……シュウ! ちょっと聞いてよ。このおっさんがね」


  そう言って目の前のおっさんを指差した。差されたおっさんの方はと言えば、困った顔で額の汗を拭っている。


  なるほど、だいたい事情は掴めた。とりあえず、ルーの話を聞こう。


「おう、このおっさんがお前に何かしたのか?」


  おっさんには悪いが、今はこいつに合わせよう。でないと話が進まない。


「このおっさんが私の年齢と住所をニヤニヤしながら聞いてきたのよ! これが噂のナンパってやつだわ。まあ私ならされるのも当然よね」


  なぜか嬉しそうに話すルー。それとは逆に、おっさんの方はと言えばますます困り果てた顔になっていた。


「おっさん、正気なのか?」


「ちょっとどういう意味よ!」


「いやー、俺はただ日本寮の新期生かって聞いただけなんだが」


  ……なるほど、住所と年齢だ。


「それだけ?」


「おうよ。ねーちゃんキョロキョロしてたからな。何か困ってると思ったんだ」


  やっぱり。そういうことだろうと思った。ルーは昔から人見知りしがちで、他人と話すことを苦手としているのだが、なぜかとりわけ大人の男の人をすごく怖がるのだ。


「迷惑かけてすいません。こいつ、寮暮らしが長いから知らない人と話すのに慣れてなくて」


「……なんでシュウが謝るのよ」


「いやいや、迷惑かけたのはこっちだ。こちらこそすまんな」

 

  ルーは納得していないようだが、おっさんはわかってくれたようだった。やっぱりいい人だったな。


「そうそう、おめえら、やっぱり新期生だろ? 日本寮の」


「そうだけど」


  おっさんの言う新期生とは、日本寮におけるエクストラスクール、言うなれば高校みたいなものの新入生のことだ。


「それなら話が早い。ほれ」


  おっさんから一枚の紙を渡される。


「横山結晶店……? これ、おっさんの店?」


「ああ、そうだ。ここに行き方書いてあんだろ。後で来てくれよ。おめえらが新期生ってんだったらサービスするぜ。この詫びも兼ねてな」


  丁度いい。能力結晶を買うのは今日街に来た目的の1つだし、おっさんに色々教えてもらおう。それに先生からもらった小遣いはそれほど多くないので、サービスしてくれるのであれば助かる。

 

「サンキューおっさん。じゃ、後で行きますわ」


「おう! 待ってるぜ」


  去り際、おっさんは俺に耳打ちしてこんなことを言った。


「おいあんちゃん、もう一押しでもしたらイケるぞ」


「へ?」


「はっはっは、いいなー。若者は」


  おっさんは謎のハイテンションで門を通っていった。最後、何を言いたかったんだろうか。


「おいルー、戻ろう。眼鏡が待ってる」


  声をかけたのに、その場に立ち尽くしたまま動かない。


「……見直したわ」


「え?」


「初対面の人とあんなに親しげに話せるなんてすごい。私を助けてくれてありがとうって言ったのよ!」


「そんな長いセリフは言ってなかったと思うんだが」


「っ……! うるさいわよバカ! シュウのシュークリーム!」


「あ、ありがとうございます」


「誉めてないわよ!」

 

  まったく、わかりやすいなあ。


  この金髪娘は感情表現が正直なくせに、出た本音をすぐに他の言葉で隠してしまうのだが、このように顔を赤くして罵倒してくる時は大抵照れ隠しだ。


  こういうふとした瞬間、不覚にもこいつを可愛いと思ってしまうことがたまにある。


「……自分、帰った方がいいでありますかね」


「おお、いたのか眼鏡。悪い、今一件落着した所だったんだ」


「自分、『シュウ! ちょっと聞いてよ』と言っていた辺りからしか聞いていないのでよくわからないでありますが、丸く収まったのならよかったであります」


「ほぼ全部聞いてんじゃねえか」


  やれやれ、素直じゃない奴だ。結局お前も心配だったんだじゃないか。


「千喰くん、なにニヤニヤしているでありますか」


「いや、眼鏡くんは何気に優しいなーと思ってな」


「何気にとはどういうことでありますか。自分のサポート眼鏡キャラに不足はないはずでありますよ」


「ねえねえ、いつまで需要のない男同士の華のない会話を続けるつもりなのかしら? 早くお店を見て回りましょうよ! ずっと楽しみにしてたんだから! ねえシュウ、私可愛いお洋服が欲しいわ」


「ふーん、そうか、おめでとう。じゃあ、とりあえずそれぞれ見て回ることにするか。ここら辺にはあいつらもいるだろうしな」


「ねえシュウ、私今傷ついたわ! 乙女の心が傷ついたわ!」


「自分はちょっと探し物があるであります。待ち合わせ場所はこの門の前でよろしくであります」

 

「承知した。じゃあ俺も一回りしてこようかな」


「ちょっとシュウ! 責任とりなさいよね!」


  ……面倒なのに絡まれてしまった。


「パンパカパーン! ここで、優しい私は挽回の機会をあげるわ。そうね、お洋服をーーー」


  お前の心傷ついてるどころかノーダメージじゃねえか。


「あーもう! 買っといてやるから。それでいいだろ」


「あら、わかってるじゃない。そうだわ。ご褒美に私が肩を組んで歩いてあげてもいいわよ」

 

  おいルーよ、お前に聞きたい。誰がお前と肩を組んで歩きたいと思うのだ。


「……いや、遠慮ーーー」


「遠慮しなくていいのよ。これはご褒美なんだからね」


  こいつ、本気で言ってるのか。それとも腕と間違えているのか。……それだ! きっとそうにちがいない。俺は幼なじみの脳細胞を信じることにした。


「いやいや、だってカップルでもないのに……」


「シュウ、あんたそういう知識が小学生並みなの? 肩を組むくらい友達同士でもやるわよ」


  確かめようとした俺がバカだった……。残念だが、小学生のころからずっと一緒だった幼なじみはもう手遅れらしい。


「ほら、いいから!」


  騒がしいけど、一緒にいて楽しかったなぁ。怒るときも、喜ぶときも全力で。すぐに照れるのがたまに可愛いかったりして。


  でも、そんな関係ももう終わりなのか……。


「ルー、お前はもう……」


「ごちゃごちゃ言ってないで、私と肩を組みなさいよ!」


  その時、俺は気付いた。


  この押しきろうとする口調、他意があるな。


「あ、お前もしかして俺と一緒に回りたいのか?」


「…………」

 

  図星だったようだ。やけに突っかかってくると思ったらそういうことか。


  あーよかった。幼なじみが自分と肩を組むことがご褒美とか言い出すちょっとイタい、というかだいぶイタい人になっていなくて本当によかった。


「そ、そうよ。わ、悪いかしら」


「くっ……くくっ……」


「な、何がおかしいのよ! 私はただ、またナンパみたいなことをされたらシュウが困ると思っただけよ……」


  要するに、一人だと不安らしい。そうならそうと言ってくれればいいのにな。


「ルー、お前はやっぱりお前だよ」


  幼なじみの手を握り、歩幅を広げて少し先を歩く


「よし、まずはお前の服から見に行くか」


「うん!」


  やれやれ、今日は疲れる一日になりそうだ。

どうも。この作品が初投稿となります、サケビクニンです。


ズバリ、いかがだったでしょうか。

まだ序盤ということで、読みやすさを重視しました。

この作品のノリに少しでも好意を持ってくれたら幸いです。


なんと、これでも異能力バトルなんです。主人公もルーちゃんも眼鏡くんも、ちゃんとバトルします。お楽しみに。そして、キャラも続々登場させる予定です。


最後に謝辞を。僕の作品を誰かが読んでくれる、そんなに嬉しいことはなかなかありません。読んでくださった方、本当にありがとうございます。


まだ至らない点も多々あるとは思いますが、これから破竹の勢いで成長していく予定ですので、どうかこれからもこの作品を、作者をよろしくお願いいたします






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