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「い、いや言ってねぇし、編集動画なんて……」
「いーや! 私には聞こえたわ! 確実に言ってたわ!」
「言ってないですぅー! 編集動画なんて言ってないですぅ~!」
「何度でも言うわ。りっくんあなた、編集動画って言ってたわよね? 隊員のくせに編集動画なんて言ってたわよね?」
「い、いい、いつ言ったんですかぁ? 何月何日何曜日? 何時何分何秒? 地球が何回回った時ぃ?」
往生際が悪い。みんな思わず口に出して笑ってしまう。
「あははは! りっくんさん、ちゃんと自分の非くらい認めましょうよ」
落ちていく。夢に落ちていく。
今、一番欲しかったもの。あの陽だまりに、落ちていく。
優太の首は、一本の縄で絞められていた。
「……かわいそうに。恐怖のあまり幻覚でも見ているのか」
優太の耳には届かない声量で、誰かが言った。後ろ手に手錠がかけられ、目隠しをされて、暴れられないよう両足首も縛られる。
五人の執行人が同時にボタンを押し、床が開くと、勢いよく弾けるような縄の音が聞こえてくる。
「幻覚中に死ねて、幸せだったと思うぞ」
「……そうかもな」
優太の首は、体重の重さで鈍い音と共に曲がり、鼻と口からは大量の血液を吐いて激しく痙攣していた。揺れる足から、彼の吐いた血液が四方八方飛び散っていく。
三十分もの間、宙に吊るされたまま彼は人生に幕を閉じる。
こうして優太は、仲間の元への片道切符を手に入れる事となったのだった。
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優太たちがこの世を去って、どれくらい経っただろうか。自然発火のような燃え方だったとしても、リフォームはやらないといけない。そしてまたも姿を変えた。
どれくらい安くなったのかというと、安くはなっていなかった。むしろ一泊の値段は明らかに上がっていた。霊保の隊員ではなくとも、一日に絶対、怪奇現象が起こる物件として、人気を博していたのだ。
首を吊った男の霊、腕や足のない霊、生首、焼死体が一般人にも見れる。たちまち都市伝説となり、やがては明るみに出て都市伝説ではなくなり、半年先まで予約がいっぱいの人気物件になっていた。
『売れない物件を宿泊施設にした、凄腕の営業マン』という名目でテレビ出演した担当者はインタビューでこう答えていた。
「ここに入居する事? それは、絶対にお勧め出来ません。あくまで、一日だからいいのです。ここに十五日以上入居された方は、誰一人として存在しません」
『Q、十五日以上住んだら、どうなる?』
「ここには、誰が住んでいますか? そう、お友達同士の幽霊ですよね。あなたも幽霊になりたかったら、試しに十五日以上住んでみるといい。お勧めは出来ませんが、幽霊とお友達になれるかもしれませんよ。仮に三十日間住んだ場合、賞金として三十万円出したいくらいですね」
『Q、もし、宿泊客が危険に晒された場合、どうする?』
「実は、このアパートにはお札を隠してあります。ぶっちゃけると、それで霊を制御していたんです」
テレビの後ろの壁を指さし、担当者は、
「まぁ、そのお札が無くなったところで、あの霊たちが一般の方に危害を加えるとは思えませんけどね」
とコメント。テロップに映し出された担当者の名字は、三島だった。
「押すなと言われているボタンがあったら、あなたは押してみますか?」
了




