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「それにしても、ホント福岡の隊員は……。先生以外、一人も特級クラスはいないのかしら」
晶の父も一級で、特級ではなかった。
こんな時は、散歩に限る。千菜津の番号は、すでに美香に伝えてあるので、もし宿舎に問題があった場合はすぐに電話がかかってくるだろう。
美香の職場に電話を入れつつ、慌ただしい戦場をとぼとぼと歩く。そして、電話を切ったあたりで掲示板に目が行った。
懸賞金で、除霊でも浄化でも構わない最新の懸賞金リストだ。早い話が、賞金首。
全世界の霊保に通達された悪霊や悪魔版の国際指名手配のようなものだ。千菜津の目がそこに止まった。
五千万円。あの例の部屋だ。他の賞金首リストを確認してみると、安くて二十万円。高くて五百万円だったりする。文字は似ていても、桁は全然違う。日霊保の本部が決定したので間違いはないだろう。
自分の目を疑いながら、指で金額を再確認していく。
金銭面からではない。いかに、今自分たちが桁違いの化け物を相手にしているのかが分かる数値で身体が震える。
だが、それならたしかにこの懸賞金の額も頷けるかもしれない。晶の父は、全国ランキングに載るほどの戦績を残していた。それでもあっさりやられてしまうのだから。
このままここに美香を置いていくべきか非常に迷ったところで、決断を下した。もし戻るなら美香も一緒に。あの絵の存在が気になる。美香がいる事で、何か分かる事もあるだろう。協力して彼女を護る。それが今回の任務になりそうだ。特に頼まれてもいないのだが。
神通力の通った窓をぶち破り、何者かが千菜津の前に立ちはだかった。
『し、支部に侵入!? 何やってる! 結界を急げ!』
「邪魔よ」
『え……』
眩い光と共に即時装備した箒は、目にも映らぬ速さで振り抜かれていた。刹那に、別の窓を貫き、外に張られた応戦用都市の結界に背中からバウンドして地面を舐めている。今まで派手に暴れていた悪魔は、たった三文字の言葉と共に千菜津の前から消え去った。
震える腕で何とか立ちあがろうとしていたが、一撃で心ごと折れてしまったらしい。そのまま倒れ込んでいる。
『ご、五百万の賞金首を、こうもいとも簡単に……!』
館内を録画しているカメラに向かって、千菜津は「準備運動にもならなかったわ」と鼻を鳴らすのだった。
* * * * * *
「ここね、あの動画に映っていた家は」
表札には、三島という文字が。この名前、どこかで見た事がある。一体どこだっただろう。




