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「あ、亜歌音……いるの?」
返事はない。一歩も動けなかった。進む事も、この部屋から出る事すらも。
「ね、ねぇ、亜歌音……?」
携帯電話を鳴らしてみる。着うたが辺りに響いた。アイドル歌手たちが盛大に盛り上げてくれているのに、この部屋の静けさは異常すぎる。
勇気を振り絞り、一歩、また一歩と友人の部屋を歩く相坂。床が抜けそうだ。そういう物理的な恐怖もあり、もしかしたら一万円未満の物件なのかもしれない。
短い廊下の奥には、一つの部屋。そこに、布団が敷かれてある。テレビは砂嵐が流れていて音声はない。
しなる木の廊下。
首を覗かせると、亜歌音の姿があった。ただその顔は、何か恐ろしい物でも見たかのように大きく歪んでいる。
死んでいた。
隣で小さく笑っている男の子の人形は、当時の相坂に気付かれる事はなかった。