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その日、美香は疲れのためか早めに就寝していた。しばらくずーっと確認していたが、なんにも異常はない。はたして本当に事故物件なのか、怪しくなってきた。
……と思っていたその時。時刻は深夜三時五十分くらいだろうか。急に布団の立ち上がった美香。トイレかな、とも思ったが、様子が明らかに変だ。電気をつけず、定点カメラの前に立ち尽くし、窓の外を見つめながら動かなくなっている。
位置がおかしい。あの距離からだと、空の様子くらいしか見れないはずだが。
そのまま十五分ほどフラフラと立っている。美香はこんな奴ったのか。否。何かが違う。見ているこっちの気が変になりそうだ。
そんな時、突然ピコピコと鳴り響く。晶からの連絡だ。心臓を激しくダンスさせながらスマホをお手玉のように躍動させ、ラインへと画面を切り替える。
『どうですか? 異常はありませんか?』
『いや、それがもうすでに異常が……』
「異常? そうですか」
「うぉッ!? お前、どこから現れた!?」
「入口から」
ピンポーンとインターホンが鳴るファミレス。
到着が早すぎる。中学からの親友の危機とあれば、ここまで急げる人間だったなんて。優太はちょっと見直しながら晶へと定点カメラの映像を見せた。
「――? どこに異常が……?」
「あれ……? 普通に寝てる?」
確かに、先ほどまで目を見開き窓の外を覗いていた彼女だったが、今ではそれが幻だったかのように眠っている。
「……やっぱり不気味ですね、この部屋」
「どこらへんで分かるんだ?」
「二か所にお札が隠されてあります。壁の中とクローゼットから、それらしき気を感じますが……気付いてますか?」
素直に首を横に振る優太。
「そうですか。では朝一番に、美香の部屋へ行きましょう。彼女が心配です」
さっきのが見間違いでなければ、ちゃんと録画されているはずだ。録画ボタンを押したのを優太は明確に覚えている。
スマホの画面を見ながら、優太は晶に積もる話をしていた。
次第に話に熱が入り、舌を振るっていた時、ふと画面を見やる。すると、今度は定点カメラを食い入る様に見つめているではないか。
これにはさすがに晶も小さな悲鳴を上げた。彼女が悲鳴を上げるのは珍しい。なぜなら、明らかに顔が変わっていたからだ。『メイクが落ちちゃった!』とかそういう問題ではなく、カメラ越しにぐにゃりと顔が曲がっている。編集された心霊動画のように。