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生徒会に巣食う者共との邂逅・前夜

 久遠学園高等学校の最上階にあたる五階に位置しているのが生徒会室だった。

 生徒会室といえば普通はフロアの一角に据えられているものだが、久遠学園高等学校ではなぜか五階まるごと生徒会室として使用されている。

 教室十個分ほどの規模になるが、そんなスペースを生徒会室としてあてがうなどもはや尋常ではない。


(そんな大きな生徒会室で俺、一体なにやらされるんだろ……)


 静かは五階への駆け上りながら改めて思わずにはいられない。

 というのもこの学園の生徒会室というのは全く謎に包まれているのである。


 そもそも入学式、始業式・終業式、そして卒業式においてしか、生徒会役員が生徒会の人間として動いている姿を見たことがない。

 それも生徒会長のみであり、生徒会長以外の役員、つまり副会長や書記といった人間はそれこそ形ばかりのようで、噂によれば生徒会室への入室さえ許されていないようなのである。


 新入生への言葉や、式の始まりと終わりの言葉、教師やPTAへの挨拶といったことを生徒会長が行う以外には、生徒会の仕事はないように見えて仕方がないのである。


 たとえば文化祭や体育祭など、通常であれば生徒会の腕の見せ所といった類のイベントでさえも、まとめるのは教師であって生徒会自体はその運営に携わっていない。

 進学校ゆえに生徒を学業に専念させるためなのだろうが、しかしそれでは生徒会室にあれだけのスペースをあてがう必要もないだろう。


(なんていうか……生徒会もよくわからないよなあ。まあ俺が生徒会長になったからには……そうだなあ、よし、大きな生徒会室のいたるところに俺の自画像を飾ろう)


 最悪だった。

 そんな考えを巡らしながら静はようやく階段を上りきり、五階フロアに立つ。


 目の前に広がる光景は、同じ学園内とは思われぬ不自然な光景だった。


 窓が一切なく太陽の光が遮断された空間の、その天井には、目がちかちかするほどに眩い蛍光灯の電球が等間隔にはめ込まれている。

 壁面は病的な潔癖ささえ思わせる白色をしていて、一点の汚れも許されないような印象を受ける。

 全く人気のない廊下の、その五メートルほど先に生徒会室の扉が見えた。たった数メートルの距離が、妙に遠くに感じられる。


(相変わらず気味の悪い場所だよなあ……)


 静が五階に足を踏み入れるのはこれが二回目だった。

 入学して間もない頃に学内探検と称して、クラスメイトたちと学園の中を歩き回った時以来である。

 当時はこの空間の妙な圧迫感に気圧されて、すぐに四階へと戻ってしまっていた。


(って立ち止まってる場合じゃない! さっさと生徒会室に行かないと)


 静はようやく我に返ると、急いで生徒会室へと歩みを進めた。

 ひっそり静まり返った廊下に、静の足音だけが響く。

 すでに四階の喧騒も聞こえてこない。

 これほど簡単に音というのは遮断されてしまうものだろうかなどと、なんとなしに不可解に感じながら、静は生徒会室の扉の前に立った。


 扉は分厚い磨りガラスで出来ており、その向こうを窺い知ることはできない。

 また、扉には取っ手らしきものもなく、どのように開けば良いのか、静には見当も付かなかった。

 自動ドアかとも思ったが、扉の前に立っている今でも全く反応がないことを考えるとそういうわけでもないようである。


(とりあえずノックでもしてみるかあ……)


 扉に手を伸ばして指先が揺れた、その時だった。


《学籍番号ヲ入力シテクダサイ》


 突然、そんな電子的な音声が廊下に響き渡る。


「わ!?」


 静がぎょっとして声を上げる間に、扉のガラス上にゼロから九までの文字盤が浮かび上がっていた。

 キーボードのテンキーのようなそれには薄い橙色の光が点っている。


「な、なんだ……?」


 わけがわからず眉をひそめる静を急かすように、再び、人の声を模した電子音が発せられる。


《学籍番号ヲ入力シテクダサイ》


 静が言われるがままに慌てて人差し指でキーに触れると、ピッ、という小さな音が廊下に響く。

 そのまま十二桁の学籍番号を入力した。

 数字の羅列がテンキーのちょうど上に浮かび上がっている。


《学籍番号ちぇっく中……指紋トノ照合完了。──生徒会長ニヨル入室許可ヲ確認シマシタ。生徒会室ヘヨウコソ》


 ぴっ!!


 一際甲高い電子音が静の耳を打つ。


《ドウゾ、ソノママ入室シテクダサイ》


「そのまま入室っつったって……?」


 戸惑うばかりである。扉が自動的に開いたわけでもないのだ。

 それでもロックか何かが外れたということなのだろうかと、静は確かめるように扉に触れてみた。

 すると──指先が、するり、とガラス扉を通り抜けたのである。


 指の第一関節くらいまでが扉の向こうへと消えている。

 水に触れた時のように指先がひやりとした。


「うわ……!!」


 思わず自分の手を引っ込めた。

 自分の指先を見つめても特にどうということもない。


「手品……? にしては凄すぎるけど……」


 扉に目を凝らせば、先ほど指先で触れた場所を中心に、小さな波紋が広がっていた。

 そのわずかな揺れに静は息を呑む。


「な、何なんだよ……?」


 恐る恐る、もう一度扉に触れてみた。


 すうっ


 指先は扉をすり抜ける。

 まるで水面に触れた時のように、ゆっくりと波紋が生まれていく。


 そのまま手を奥へと進め、ちょうど手首あたりまでが扉の向こうへと消えて──だが、そこで静はやはり気味が悪くなって、瞬間的に手を引こうとする。

 しかし、


 がし!!


 扉の向こうで何者かに手首を掴まれた。

 強引に、ぐい、と手を引っ張られる。

 静は一気に体勢を崩した。


「……!!」


 体ごと扉へと倒れ込む。

 恐怖心から思わず目を閉じた。ひやりとした感覚が全身を包み込む。


 そして静の体は吸い込まれるように扉の奥へと消えていった。

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