表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/12

激励

剛紀の開幕一軍が決まってからというもの、世間は剛紀の話題をひっきりなしに持ち出した。



スポーツ面では剛紀を大きく取り上げ、練習では毎日のように報道陣が押し掛け、寮に帰れば大量のファンレターが待っていた。



そんな、どこへ行っても注目される生活に、剛紀は精神的に参ってきていた。





その日も、報道陣に囲まれての練習を終えた剛紀。



寮でグッタリと体を横にしていたときだった。



<ピリリリ!ピリリリ!>



夜中の10時過ぎだったが、剛紀の携帯が鳴った。



携帯を手に取り画面を見ると、着信の相手は剛紀の母だった。



「(お袋……)」



実家には既に開幕一軍の報告をしていた剛紀は、何の用なのか疑問を抱きながら、電話に出た。



「もしもし、お袋?」



するとすぐに、電話を通して剛紀母の元気な声が聞こえる。



「もしもし、剛紀?」



いや、この時は元気だけではなく怒気も伝わってきたのだった。



剛紀母は続ける。



「あんた、最近よくテレビで見るけど、自惚れてんじゃないの?」



藪から棒にそう言われるも、剛紀には何も思い当たる節がなかった。



癒やしを求めていた剛紀は、苛立ち反論するも、次の母の言葉に沈黙させられる。



「今日のスポーツニュース見たわよ!あんた、リポーターさんの質問に適当に返したり、無愛想に振る舞って、失礼でしょ!」



違うのだ、心身とも疲労がピークに達していたため、それどころではなかったのだ。



というのは、言い訳に過ぎないことを悟った剛紀は、口を閉じた。



それから、しばらく母の説教を聞いていた。



すると、あるとき思い出したように、剛紀母はこう言った。



「そうだ、浩くんは二軍に落ちちゃったんでしょ?」



浩くんとは、剛紀母が小島(浩介)のことを呼ぶときの略称である。



「この前、小島さんにバッタリ会ってね。浩くんの話になったのよ」



今まで母に叱られ、気を落としていた剛紀は、小島の話になった途端、母の話に集中した。




「浩くんも、二軍に落ちてすぐに実家に連絡したんだって。その時に、あんたの話になったらしいのよ。」



「浩くん、とにかく悔しいって言ってて、小島さんも聞いてて凄く胸が痛んだって」



「でも浩くんね、『あいつは俺のライバルだから。俺がリベンジするのを、一軍で待ってるから。今は前だけ見て、二軍でも腐らず頑張る』って言ってるんだって」



「剛紀。あんた、浩くんの気持ち踏みにじるつもり?今、あんたがどんなに辛くても、浩くんはそれ以上辛い状態で、もがいているのよ」



「こんなことで押しつぶされるほど、柔な男じゃないでしょ剛紀は」



「せっかく勝ち取った一軍なんだから、あんたも最後までもがきなさい!いいわね!?」




まるで、背中を叩かれたかのような衝撃を感じた。



剛紀は、母の激励に鼓舞されて、気力を取り戻していた。



小島の存在、そしてこの母の存在がなければ開幕一軍なんて、ましてやプロなんて夢のまた夢だった。



剛紀は、感謝しつつ電話を切った。



母は最後に「お父さんには今日電話したことは内緒ね!剛紀の問題だから、口を出すなって言われてたのよ!」と言って、剛紀を笑わせた。



剛紀は、両親の優しさに心が安らいだ。







それからというもの、剛紀は全く弱みを見せなかった。



その代わり、寮に帰っても活動はせず、寮はただ食べて寝るだけの場所になってしまった。



まぁ、寮というのはそういうものなのだろうと開き直って、剛紀は開幕まで走り続けた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ