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初夢

作者: 望月愛


―――夢を見た。



幸せな夢。―――




「美羽、そろそろ起きて降りてきなさい。」


階段に響く母親の声で幸福の余韻から放たれ、現に呼び戻される。


もうちょっとこの幸せを感じていたいから聞こえていないふりをする。


「早く降りて来ないとお年玉あげないわよ。」



… それは困る。


ので、しぶしぶ起き上がり大きく伸びをした。


「あけましておめでとうございます。」


居間には父、母、小四の弟、祖母‥‥家族全員が集まっていた。


テーブルの上には湯気をあげるお雑煮が人数分置かれている。


「美羽、あけましておめでとう。」


「おめでとうございます。」


新年の挨拶が交わされる。


「さ、食べましょう。」


母が言った。


ご飯中テレビから芸人の騒がしい笑い声が聞こえてくる。


さっきまでの幸せな気持ちはどんどん不確かなものになっていく。



「美羽、元気無いわねぇ?」


祖母が心配そうに言う。


「そんな事無いよ。」


急な問いかけに声が少し裏返った。


「そうだ、お年玉あげなきゃね。」


そう言って祖母はポケットから2つのポチ袋を取り出した。


「わーい、ありがとう!」


弟の勝幸が言った後、私もお礼を言った。


父親からもお年玉を貰う。すると母親が言った。


「美羽はもうすぐ就職だから今年が最後のお年玉だね。」


そう。私は今一年制の調理師専門学校に通う19歳。

4月からはこの家の近くの病院で働く。

楽しい学生生活もあと僅か‥‥



「ねぇお母さん、僕初夢見たよ。」


10歳離れた弟が嬉しそうに言う。


「勝幸、初夢っていうのは1月1日から2日にかけて見るものよ。だから、今朝見た夢は違うのよ。」


「そうなの!?すっごく楽しい夢だったのに。」


勝幸が寂しそうにうつむく。


「どんな夢だったの?」


祖母が優しく問う。


「じゅん君とひろと君と僕がね、魔法を使えて宿題をすぐ終わらせてたくさん遊んだり、空を飛べて、富士山の上を飛ぶ夢みたの。富士山を初夢で見ると良いんでしょ?だから僕嬉しかったのに。」


「そうね、今夜見れたら良かったのにね。でも楽しい夢見れて良かったじゃない。」


母が言う。しかし弟は残念そうだ。

すると祖母が言った。


「その夢は去年の一番最後に見たんだから、去年一年が楽しかったっていう証拠よ。」


「じゅん君とひろと君と仲良く過ごせたんだな。」


父が言うと勝幸は大きく頷いた。



この会話に胸を打たれた。

‥‥私の夢…私が今朝見た夢もそういう意味なの?


新しい年に向けられたものでなく、去年、あなたと過ごした時間が幸せだったねって、…思い出にする為の夢だったのかな?


そうなら虚しいよ。




幸せな夢を見た。



あなたと二人、付き合い出したばっかりに戻れた夢。


夢の中の私は大喜びであなたの腕にしがみついて町中を歩いてた。

あなたも笑顔いっぱいだったの。


ただ、それだけの夢。


それだけの夢で私はすっごく嬉しくて、幸せだったの。


あなたから告白してきたのにさ、

気付いたら、私はどんどんあなたを好きになっていて、

あなたが私を好きって気持ちより大きくなっていって、

まるで抱き合う度、あなたの熱を奪ってしまっていたかのようで‥‥


私はそれに気付けなかったね。



もういい加減ふっきらなきゃ。


この夢と共に終わりにしよう。

『幸せな思い出』として‥‥



「さて、初詣行くぞ。」


「僕、また富士山の夢見れるようにお願いしよー。」


祖母が優しく笑う。


「何言ってるの。勉強のお願いしなさい。」


母が叱るがその口調は柔らかい。




初詣で今年一年の幸せを祈ろう。

今夜の夢にあなたが出ませんように。



そして、12月31日、今年の最後の夢に、あなたが出なくても素敵な夢が見れるように。




あなたはどんな初夢をみましたか?

    

読んで頂けたら是非評価してください!!

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― 新着の感想 ―
[一言] 「夢への階段」を読んだ後、この作品を読ませて頂きました。文章は「夢への階段」の方が良かったのですが、初夢と感じて残念な気持ちを持った美羽の心情に面白みがありました。
[一言] 私的には、こういう感じの小説好きです♪ とっても個性さが分かりますし、いい感じ☆☆☆ 最後に、この作品に出会えたこと、深く感謝申し上げます 。 by,岡本ゆう。
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