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私は見守り型βと申します

作者: 山鳥
掲載日:2026/04/15

短いです。

オメガバースというものを知っているだろうか。

性別である男・女以外に「バース性」と呼ばれるものがある。このバース性には3種類あり、全体の2%程度と言われるαとΩ、人口のほとんどを占めているβに分かれている。

αはカリスマ性に優れ見目麗しく、大変優秀な遺伝子を持っている。社会的地位も高い。

Ωはヒートと呼ばれる発情期があり、男性でも妊娠する体のつくりをしている。

また、ヒート期にαがΩのうなじを噛むことで「番契約」が成立する。

中には「運命の番」と呼ばれる存在もいるらしく、その存在に出会ったら最後、人生が180度変わるらしい。

そして、人口のほとんどを占めているβは、ありていに言えば「一般人」。

特に変わったことがなく、分かりやすく言えば「その他大勢」といった立ち位置である。


私の名前は大椿聡子。その他大勢のβである。

運命的な出会い?いやいや……。そんなもの望んでいない。

私が望んでいるのは学園内にいるαとΩのラブロマンスを見守ることである。

そうそう、本日も気になるカップルが一組……。


「なんでアイツとあんなに距離が近いんだよ!」


ほうほう、あれは1年5組の東野君。彼はサッカーのスポーツ推薦で学園に入学した注目株。

見目麗しいその姿から分かるように、α様である。


「だって、委員会の仕事で一緒になっただけなんだから仕方ないじゃないか!」


可愛い顔しながら噛みつくように言い返しているのは2年1組の南郷先輩。

気の強いΩとして隠れファンが多い子犬系男子。

あの大きな瞳で見つめられて勘違いする男女続出の罪作りな男。

フフフ……大好物です。


「肩が触れ合ってた!そんなのも分からないのか!?」

「なっ……たまたまだろ!気にし過ぎなんだよ!」

「何だと!?」

「僕の事なんか興味あるのは東野だけだよ!意味わかんない!」

「なら分からせてやるよ……!」


そういったが最後、2人は体育館倉庫の中へ消えて行った……。

ごちそうさまです。


「ふぅ……」


一通り見守りを終え、オペラグラスから顔を離す。

本日も尊い時間を過ごせて良かったと心の底から思う。

私の通っている【晨星学園高等部】は国内屈指のバース校。

国内にいる年頃のαとΩが多数在籍し、ヒート欠席OK、学生結婚サポート、学生番のためのヒート用シェルター完備と、かなり突き抜けた教育方針を持った学校である。

まぁ、世間では【お見合い学園】とか言われているが……βには関係ない。我々βはモブとして、彼等の学園生活に花をそえ続けるだけでなのである。


「もう終わった?」


つまらなそうに声を掛けてきたのは3年生の大椿雅。私の兄だ。

兄と言っても血は繋がっていない。母親の再婚によって数年前に出来た兄である。

とはいっても兄弟仲は良く、本日は学校帰りに親の結婚記念日3周年のプレゼントを買いに行くため待ち合わせしていたのだ。因みにバース性はα。

雅を待っている間に、面白い痴話喧嘩が始まってしまい、そちらに夢中になってしまったの仕方のない話である。


「残念ながら終わったよぉ。もうちょっと見ていたかったんだけど……。あっ!ちょっと体育館倉庫の横通って来てみようかな!続き気になるし!学校内で痴話喧嘩しているなんて、見て欲しいって言ってるようなもんだもんね!」

「やめなさい。それは意地悪すぎる。さっさと帰るぞ。買い物するんだろ?」

「そうだけどさぁ……。私みたいなβにはたまらないシチュエーションなんだよ!ちょっとだけ!」

「だめだよ。はい、立って。お兄ちゃんと買い物行こうね?」

「雅!ちょっとだけ!」

「だめだめ。いつからこんな好奇心旺盛になったんだろうか。はい、行くよ」


ブーブー文句を言う私の手を優しく引きながら雅が少し前を歩く。

放課後ということもあり、人通りもまばらの校舎内を気にする事無く突き進む。


「あっ……あの!大椿君ちょっといい?」


そんな私達の背後から、女子の声が聞こえる。これは……メシウマなのでは!?

嬉々として立ち止まって振り返ろうとすると、グイっと力強く引っ張られる。

聞こえていないのか、雅は歩き進めるスピードを緩めない。


「あの……!大椿君!あの!ちょっとでいいの!話を……」


いつのまに4階から1階に到着。女の子は息を切らせながら追いかけてくる。兄無言。静けさが恐い。


「聡子。靴履いて。お兄ちゃんすぐに上履き履き替えて来るから待っててね」

「あの……!だから、大椿君!話を……」


兄は笑顔で華麗にスルー。しかし、女の子、ガッツがあるのかこの状況でもめげない。

めちゃくちゃ綺麗な女の子なので周囲の視線が痛い。

私は悪くないのになんか居た堪れない。


「聡子、僕の鞄持ってて。先にバス停に行っててね」

「あの……大椿君!」


真後ろで話しかけ続ける女子生徒。それをずっとスルーする我が兄。

あまりの容赦にないその様子に妹の私でも冷気を感じる。

なぜ女の子はこの空気を読めないのか……。

これが選ばれたバース性の人間が持つ「スルースキル」なのか?

小市民βには無縁な世界だ。


「あの……おおつば」

「五月蠅いんだけど?君さぁ、何回も話す事ないって断っているよね?予定あるのも分からない?」

「でも、大椿君と一回ちゃんと話をしてみて……」

「だから、話す事ないって言ってるよね?」

「でも、大椿君私の事知らないでしょ?だから、話してみたら興味持つかもよ?ね?テスト明けだし、何処かに寄ってお喋りしようよ。妹さん、お兄さん借りてもいいかな?家でも一緒なんだしいいよね?」


グイグイくるな……。そして、「はい」としか言えないような圧がある。

きっと彼女はαだろう。自身満々のオーラを感じるから間違いない。

答えようと口を開こうとした瞬間、ブレザーにすっぽり包まれるような形で雅に抱きしめられる。

少し汗ばんだ雅のカッターシャツからいい香りがして、頭がぼんやりしてくる。

雅の香りはムスクの様な甘くて濃厚な香りで、いつもこの匂いを嗅ぐと力が抜けてきてしまう。

身体から力が抜けてくると、雅がさらにグッと強く抱きしめてくれる。

安心感半端ない。

どのくらいそうしていたのだろうか……。


「聡子、お待たせ。靴持って3年生の下駄箱方向から出ようか」


気が付くと、笑顔の雅がこちらを見つめている。


「……うん」


ふわふわした気分で返事をする。周囲を見渡すと、私たち以外誰も居なくなっていた。

あの女の子はいつの間にかどこかへ行ったようだ。


「危ないから、お兄ちゃんと手を繋ごうね」

「うん。雅、おんなのこ……」

「はい。こっちだよ。バスがもうすぐ来るから急ごっか」

「あの……みやび?」

「今日は疲れちゃったね。テスト明けだし、明日は休みだし、買い物は明日にして今日は家に帰ろうか?」


優しく頭を撫でるその姿から、少しだけピリピリした空気を感じる。

軽く頷くと、雅は上機嫌に手を握り直し、バス停に到着したバスに乗り込んだ。


「そうだ!今日は親が居ないから、何処かでデリでも買って、サブスク映画大会でもする?」

「雅……それならプレゼント買いに行こうよ」

「うーん。でも、帰る方向のバスに乗っちゃったから仕方ないよね。聡子、ロウショップヤスイのデリ好きでしょ?帰り寄って行こ?」

「なら、デザートも買って行こうよ。今は抹茶フェアしてるからさ」

「いいねぇ!楽しみだ」


その夜から月曜日の朝まで、なんやかんやあり、最終的に雅の抱き枕状態だったことは親にも内緒だ。


************



(side:とあるモブβ男子)


目の前が一瞬で真っ暗になった。

重力に押し付けられるような感覚に息苦しさを感じていると、目の前にいた女子生徒が口から泡を吹いて倒れた。

息も絶え絶えにその様子を見ていると目の前にいた男子生徒が短く言う。


「そのゴミ、片付けて」と。


その瞬間。何人かの生徒が彼女と荷物を抱えてその場からあっという間にいなくなってしまった。

どうしていいのか分からず混乱していると、また男子生徒が短く言う。


「いいから消えろ」と。


そこから記憶が曖昧だが、気が付くと自宅のベッドの上で三角座りをしていた。


週明けの月曜日。登校すると泡を吹いて倒れた女子生徒とバッタリ会った。

しかし、その姿はどこか不安そうで、警戒しながら廊下を歩いている。

気になったので話しかけると「とにかくしばらくは1人にして」と言われる。

が、あまりの不安げな様子が気になって何度か話しかけているうちに、いつの間にか付き合うことになっていた。


彼女は言う。

「αの中のカーストは絶対なんだ」と。


βの自分にはピンとこなかったが、彼女はそんな僕に癒しを感じたらしい。そういえば、最初見た時と比べて幾分か棘が抜けた様にもみえる。


彼女は言う。

「あのβの女の子……。そのうち180度人生変わっちゃうわよ」と。


どういうことか聞くと、何やら上位αの執着は、誰かの人生を変えてしまうくらい強烈なモノらしい。そして、捕まったら最後、ゆっくりとその毒によって変化していくんだそうだ。


「そもそも、この学校はその事も織り込み済みの学校だからね。他のαやΩで彼を狙っている子はこの先、こないだの私より痛い目見るかもしれないわね」


そんなことを苦笑いしながら話していた。バース性の呪縛は少数派の方が大変なんだと何となく理解した。


その話の数日後。あのβ女子がオペラグラスを片手に小走りで屋上へ向っている姿をみた。

横を通り過ぎる時、数名のαがビックリした顔をしながら仰け反り、Ωは顔を青くしていたのだが、あれは何だったのだろうか?

そして、彼女が通り過ぎた後をゆっくりと歩くあの男子生徒は、宝探しでもしているかのように楽しそうに屋上へと向かって行ったのだった。


稚拙な文章にお付き合いいただきありがとうございました。

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