第九話
私の名は見郷弓流。
おもむろに女友達の胸を掴んで肘打ちを喰らうタイプの女だ。
ニャフンと共に〈原初の島〉の〈原初の樹〉より産まれた。
ニャフンは翼の生えた白猫の様な姿であり、普段はほとんどただの猫である。
私の自己評価イメージは、超強いカカポである。トリコと呼ばれている。
ニャフンと共にタチアナにより名付けられた。不満しかない。
マルキド歴321年に産まれている為、そろそろ九歳になろうというところであろうか。
文献から推測するに、ニャフンは幼体のまま産まれた〈グレムリン〉、つまり〈聖女〉であり、私はその守護獣たる〈ドラゴン〉の幼体であろう。
同じく〈聖女守護獣〉であろうヨシミとトウジは十歳前後で身体が急成長したとの事。
私もそろそろなのだろうか。
〈ゴブリン大侵攻〉の後処理も一段落し、書庫の調査が始められていた。
かと言って私とニャフンは戦力外と認識されているだろうから、特に役割があるわけではない。
私は〈ヘプバァン〉について調べる事にした。ニャフンに関わる事であるからだ。
〈ヘプバァン〉の特徴として、体毛は金、銀、白等。色素が薄いのだろうか。
体毛と皮膚はやや構造色を示す。
手の平と足の裏に肉球の様な器官を持つ。
背骨を守るかの様に、爪の様な質感の外殻があり、眠っている間その隙間から睡眠を誘発するもしくは麻痺弛緩作用のあるやや甘い香りのガスを分泌する。
足長が長く、歩行時は足底を着けて歩行する。疾走時は爪先で走るのだが、人型としてはとても速い。
外見の雌雄差が大きく、男性は猫や狐の獣人といったイメージの外見。
女性は手足が細く長く、顎の小さな人の顔、少女漫画に出てくる女性キャラクターの様なイメージ。
これを基本として、女性的な男性、男性的な女性も極めて稀に存在する。
ずっと感じていた事がある。
〈ヘプバァン〉の女性と〈グレムリン〉は、翼の有無と体毛の色以外の特徴があまりにも似すぎている。
〈グレムリン〉であるタチアナとマリも、髪と肌に構造色を示し、背に外殻を持ち、手足に肉球を持ち、足長が長い。(タチアナの運動神経はやや難ありだが。身体の操縦が上手くいっていないのではないだろうか。)
〈ファントム〉や〈フェンネル〉のオスが寄生した〈ヘプバァン〉を〈グレムリン〉と呼んでいるのではないか、というものが私の仮説だ。
更に気になる事がある。
〈クロアシ〉(日本語?)と呼ばれている、肘先と膝下を黒い鱗で覆われた猫の様な生物が、〈ヘプバァン〉の周囲に集まっている様をよく見かけるのだが、その〈クロアシ〉の中に二足歩行を行う個体を確認出来る。明らかに他と違うのだ。
そしてニャフンに似ている。
観察期間が短すぎる為まだなんとも言えないが、これは〈クロアシ〉ではなく、〈ヘプバァン〉の幼体なのではないか?
聞き込みをしたいが私はまだ発話出来ない。ヨシミとトウジは六歳程度で普通に発話出来ていた様だが。
今は観察を続けるしか無い。
〈原初の樹〉について。
〈マルキド歴330年〉現在、存在が確認されている〈原初の樹〉は五柱。
現在地〈アルビオン・シリコニア〉、〈白台地シリコニア〉に存在する〈トライ・マルキド・シリコア〉、〈原初の樹シリコア〉。
歴代〈グランマリア〉とその守護獣。
そして〈マルキド歴320年〉、マリとトウジもこの巨大樹の樹洞、〈ルリンクドーラ〉、〈聖者の祠〉内部に存在する卵の様なモノより産まれた。
ここから遠く海を越え北東、〈エイグレア・マルキド〉、〈原初の島〉。
そこに存在する〈原初の島の原初の樹〉。
〈マルキド歴元年〉に〈ハウルの一団〉の三名。
そして〈マルキド歴312年〉、ノボル、リュウ、ヨシミ、タチアナが、〈マルキド歴321年〉、ニャフンと私が、〈マルキド歴327年〉リケイが、やはり〈聖者の祠〉にある卵より産まれている。
ここから南西、これもまた遠く海を超える。〈アスマキオ〉なる孤島にある〈原初の樹〉。
ここは情報が少なすぎる。何もわからない。
〈南大陸の西にある北海道の倍程あろうかという孤島〉と日本語で書いてある。
そこには〈原初の樹ナリア〉なる巨大樹があるという。
この島では〈原初の樹〉を巡って島を二分する大戦が起こったとの事。
〈ニゲン〉の宗教と〈ハイエルフ〉の国家集団である帝国の対立であった様だ。文献の順序から開戦時期を予測すると、〈マルキド歴150年〉前後であろうか。
・・・〈南大陸〉では現在、〈国家〉の概念は感じられないのだが。ここにはあったのか。
これに対しての文書は、おそらくほとんどが意図的に抜き取られている。
最後のページに走り書きで、〈あなたのせいじゃない。〉と記されていた。
何があったのだろう。
そして次の目的地となるであろう、〈トライ・マルキド・リィンリア〉、〈原初の樹リィンリア〉。
場所は遥か西。〈イーズ湖〉に浮かぶ〈ゴクラ島〉。
ここも情報が少ない。これも意図的に隠されている節がある。
〈七人の神獣〉、〈ハクロ号の一団〉、〈センカ〉、〈剣鬼姫〉、〈百鬼夜行〉等々の日本語での走り書き。おそらく歴史を記すためのメモであろう。
・・・剣なんてあんのか?これまで見てねぇけど。
〈リィンリア〉には文明があり、ここにも巨大な書庫があるという。
急ぎ行く必要がある。
最近になってやっと〈見郷弓流〉としての自我?や記憶が定着したからだろうか。
私もマリやタチアナの様に、〈原初の樹〉に夢を見せられた。
ヨシミとトウジは映像しか見たことが無いと話していたが、私はハッキリと言葉を聞いた。
昨日の出来事だ。
私は〈ルリンクドーラ〉に用意されたケージ?檻?に、あちこち歩き回るニャフンを入れて鍵をかけ、そのままそこで眠った。
〈ナキは海から現れる。
青いデバイスを隠しなさい。
これはナキに力を与える。
ナキはリィンリアに向かうだろう。
あの地には大量の青が眠っている。
ナキは聖女を喰らうだろう。
理由は私に似ているから。
ナキに力を与えてはならない。
聖女を守りたいのならば。〉
日本語だった。
青い〈デバイス〉。本当にここは未来なのかもしれない。
・・・そろそろ私の正体を仲間達に明かさなければならない様だ。これを伝えなければならない。
筆談になってしまうな。多少面倒だ。事前に文書にしておこう。
机の上に紙の束が置かれている。
これを使うか・・・メモ帳的なものかと思ったら、これリケイの手記じゃねぇか。
ゴメン〈リケイおじさん〉、覗いてしまった。
・・・いや、私は〈原初の島〉からここに至るまでの記憶に自信が無い。
〈リケイおじさん〉の目の前に持って行って堂々と読もう。
情報が欲しい。




