第五話
〈聖女〉と〈真竜〉は病にならない。
そしてもちろん、他の生物の大半はそうじゃない。
バカ「あーもう!弓くらい作っとくんだった!!」
マジ「オーバーテク伝わらねぇ様にっつって舐めプしてゲームオーバーとか笑えるな。
・・・〈ブルルガウル〉もいるじゃん。」
崖に口を開けた〈ダンジョン〉からは、陸を這うシャチの様な生物〈エバンミィア〉、両腕の発達したヒト程の大きさの恐竜の様な生物〈ワリンバァン〉、巨大な牛の様な猪の様な生物〈ブルルガウル〉。
そして人型の、病を媒介する生物〈ディブリン〉。
いや、この場合は〈ゴブリン〉と呼ぶべきであろうか。
間違い無く全てが〈迷宮クローン〉だろう。
〈ブルルガウル〉といえばケッカ科の中でも最も雑食性が強く積極的に肉も狩る。
突進して額をぶつけ、ケッカ科特有の下顎の発達した犬歯でかちあげる。
何よりもサイズが体感、サイ程もある。
これが百程。
殺傷能力が最も高いのは〈エバンミィア〉であろう。
見た目は前肢が発達した大蛇であるが、基本的には水生生物であり、硬い表皮と両腕を持って陸上も這いまわるシャチといったイメージから、私達は〈陸鯱〉などと呼んでいる。
こちらも五十程確認出来る。
素早く鋭い攻撃を得意とする〈ワリンバァン〉が目算百五十。
そして、病をばら撒く〈ゴブリン〉。
これはほぼ全てが、歩き慣れ始めた子供程度に見える。
見た目に惑わされず、感情に流されず、これを仕留め切らねば、多くの住人が病に汚染されるだろう。
これが七百強。
戦力が〈ニゲン〉の少年ほどしかない〈ゴブリン〉がほとんどとはいえ、数の暴力には絶望しかない。
マジ「エリア毎計算で総数千近くって所だね。」
マリ「ねぇあれ!リケイおじさんじゃないの?!」
迷わず立ち向かうリケイの姿がそこにあった。
バカ「迷い無ぇな!ダーツパチンコと双剣でどこまでやれるかな!
マリはタチアナと合流!
出来るだけ〈ペット〉集めとけ!」
マリ「ああ!なるほど!わかった!」
バカとマジも戦線へと走る。
バカ「リケイさん!デケェ奴ら優先で頼む!」
バカはニヤリと笑みを浮かべながら叫ぶ。
まるで何か策でもあるかのように。
リケイは一瞬立ち止まった後、頷く。
そして、無反応で歩くだけの〈ゴブリン〉を無視し、好戦的な〈ワリンバァン〉と〈エバンミィア〉の相手を始めた。
バカとマジは躊躇う事なく〈ゴブリン〉の確殺を開始した。
マジ「武器持ち居ないね!しかもこのゴブ共、意識あるのか?全く無反応?〈迷宮クローン〉のくせに酔っ払ってんのか?」
マジは逆手に持った小太刀で、鎖骨の隙間を上から狙い、〈ゴブリン〉の心臓を切り裂く。
これにより、敵の体外への出血を少なく仕留められる。
バカ「言いたかねぇが!コイツ等全部!多分ガキだ!
なんも分かんねえで歩かされてんだろうよ!」
バカは、〈ゴブリン〉の耳の穴へと短い金属製の矢の様な物を突き立て、脳へと貫通させて確殺する。
この方法でも相手の出血を少なく仕留める事が出来る。
そしてこの矢はスリングショットで使う物であり、浪費は好ましくない。
二人共出来る限り素早く、そして〈ゴブリン〉の血を浴びない為の工夫をしながら戦線を捌き始めた。
そして、普段から住民も利用する、崖に囲まれた幾重にも並ぶ漏斗状の通路。
〈地獄の蓋〉から〈アルビオン台地〉に到達する為には、点在するこれらを抜けなければならない。
〈迷宮クローン〉達はこれを進軍して来る。
これにより一度に相対する数を相当数減らせていた。
総数約千に対して立ち向かうのは三人。
彼等はこの複雑な岩場の隙間を利用し、あっという間に百程を撃破した。
私は主に、崖を登り越えようとする〈ワリンバァン〉と〈ゴブリン〉の対応に終始した。
バカ「あー!〈ブルルガウル〉クソウゼェ!
コレはスタミナ持たねぇぞ!」
マジ「ゴブが飛び道具持ってたら即死してたな!
お前ブルルやれ!手ぇ空いたらゴブな!」
マジは、聴覚に優れるバカに〈ブルルガウル〉の相手を任せ、率先して〈ゴブリン〉を狩り続けた。
二人共気を付けてはいた、ずっと気を配ってはいたのだ。
だがスタミナが削られれば思う通りには行かず精度は落ちる。
いつのまにか二人は、刃物を手に〈ゴブリン〉の首を切り裂く様になっていた。
結果、マジとバカはかなりの量の〈ゴブリン〉の返り血を浴びてしまっていた。
「避難完了!加勢する!」
ヨシミとトウジが戦線に入った。
〈ハイエルフ〉を中心とした戦士団が戦線に出ようとしていたが、〈ゴブリン〉の感染症に感染されては後々面倒である為、これを説得していたら遅くなってしまったのだ。
バカ「〈ゴブ〉は無反応だから斬り放題だ!
〈ブルル〉が嫌な突進してくるからソイツ等頼む!」
血に塗れたバカとマジを確認したヨシミとトウジは一瞬、目を強張らせた。
トウジ「・・・了解!」
ヨシミ「・・・なら私は〈蛇〉いくわ!」
トウジは〈ブルルガウル〉を、私は崖の間を素早く跳ねる〈ワリンバァン〉に標的を絞り制圧、そこから〈ゴブリン〉の数を減らし押し返す。
この時点で、バカとトウジ、そして私は〈ブルルガウル〉を全滅させていた。
残り総数は三百から四百程だろう。
だが〈竜〉とはいえまだ若いトウジと私、そして〈ハイエルフ〉の二人はスタミナ切れ寸前である。
一歩間違えれば〈エバンミィア〉や〈ワリンバァン〉の爪に牙に裂かれかねない。
バカ「地面が血まみれだ!戦線後退させてここに誘い込むぞ!
血脂足払いだ!」
トウジ「良いっすねそれ!お二人は囮って事で!
周り狩ります!」
バカ「おー!どうせもうあんま動けねぇしな!」
バカとマジは血脂で足を滑らせた〈ゴブリン〉の留めに集中した。
残りの〈迷宮クローン〉は三百程になっていた。
バカ「そろそろ・・・動けんぞ・・・!」
マジ「もう三十分以上?動きっぱなしだしね。
〈蛇〉とかこっち来たら、終わるね。」
リケイとヨシミは大型の〈エバンミィア〉こと〈陸鯱〉を、そしてトウジも多数の〈ワリンバァン〉を撃破していたが、それでも何体も背後に通してしまっていた。
間もなくその危険がバカとマジの所まで、更には〈アルビオン・シリコニア〉の地上の入り口まで到達しようとしていた。
中に居る者達により閉鎖、補強されてはいたが、多数の〈エバンミィア〉の質量には耐えられないだろう。
〈ワリンバァン〉は台地を登り、壁を超え、多くの皮膚を、肉を、切り裂くだろう。
そこに〈ゴブリン〉がただ歩き回るだけで、多くを汚染するだろう。
リケイもバカもマジも理解していた。
だからこそより深くで立て籠もる、もしくは多くの者が避難出来るだけの時間を稼ぐ為に立ち向かったのだ。
そして今、驚異が迫る最中、バカとマジは傷こそ受けていないが、完全にスタミナ切れである。
〈エバンミィア〉などに襲われたらひとたまりもない。
そんな二人の前に〈ワリンバァン〉十数体が現れる。
バカ「・・・ちっと、マズいか・・・?」
マジ「・・・よくやった方だろ・・・ハハッ!」
二人は最後の特攻、一匹でも多くの敵を殺すのだと、防御を捨て、双剣に持ち替え、構えた。
私もそこに加わった。
さぁ、覚悟を決めようか。
その時黒が、空を覆った。
総数百程の〈ファントム〉が戦場に向かい飛んでいた。
タチアナの〈ファントム〉だ。
バカ「キター!スーパーヒーロー!」
マジ「相当広く散ってたハズなのに。
よく集めたね。ハハハッッ!」
二人は崩れ落ちる。
完全にスタミナ切れだ。
タチアナが白い台地の上で拳を上げている。かなり怒っている様だ。
次の瞬間拳を振り下ろした。
同時に〈ファントム〉達は〈迷宮クローン〉に襲いかかり、強力な握力で握り潰し、爪で切り裂き、顎で噛み砕いた。
マジ「オイ!あれ!」
戦線真っ只中の崖の上をマリが駆け、それに〈ワリンバァン〉が襲いかかる。
バカ「クソッ!間に合わねぇ!」
マリ「〈カイホウ〉」
〈ワリンバァン〉は電撃を受けて倒れる。
そこに六頭の〈フェンネル〉達が舞い降り、その爪でその首を切り裂いた。
周辺の〈ワリンバァン〉は、程なく全滅した。
バカ「・・・あー、そういやアイツ、スタンガン持ってたな。」
疲れ切ったバカとマジの前にヨシミが飛んできて言った。
「戦いは終わりよ。よくやったわ。寝てなさい。」
それだけ言い残し、ヨシミは最後の戦線に戻る。
バカ「・・・さて、いつまで生きれるか。」
マジ「なー、はやまったよなー。今から墓でも掘るか?」
二人は仰向けに倒れ、笑っていた。
文献に依れば、〈聖女〉と〈真竜〉は病にならない。
そしてもちろん、他の生物の大半はそうじゃない。
リケイ、バカ、マジは〈ゴブリン〉の感染症リスクを理解しながらも立ち向かった。
達成したとても死ぬかもしれない事を理解しながら立ち向かった。
これがなければ〈シリコニア〉の住民に多大な犠牲が出ていただろう。
タチアナとマリもまた自身の一部とも言える〈ファントム〉、〈フェンネル〉達が戦死または病死するリスクを理解しながら戦場に立った。
それぞれがそれぞれの覚悟を持ち、戦場に立っていた。
やがて最後の〈陸鯱〉がリケイによって屠られた。
全ての敵は排除され、〈アルビオン・シリコニア〉は守られた。
ヨシミ「・・・私とトウジ君でやるべきだった。」
反省とも、リケイへの叱責ともとれる言葉だった。
リケイは真っ直ぐに立ち、〈アルビオン・シリコニア〉を見上げる。
リケイ「ウワァフ!」
そして、満足そうに吠えた。




