第五話
〈聖女〉と〈真竜〉は病にならない。
そしてもちろん、他の生物の大半はそうじゃない。
バカ「あーもう!弓くらい作っとくんだった!」
マジ「オーバーテク伝わらねぇ様にっつって舐めプしてゲームオーバーとか笑えるな。〈ブルルガウル〉もいるじゃん。」
崖に口を開けた〈ダンジョン〉からは〈エバンミィア〉〈ワリンバァン〉〈ブルルガウル〉そして無数の〈ディブリン〉いや、この場合は〈ゴブリン〉と呼ぶべきであろうか。
間違い無く全てが〈迷宮クローン〉であろう。
〈ブルルガウル〉といえばケッカ科の中でも最も雑食性が強く積極的に肉も狩る。
突進して額をぶつけ、ケッカ科特有の、下顎の発達した犬歯でかちあげる。
何よりもサイズが体感、サイ程もある
殺傷能力が最も高いのは〈エバンミィア〉であろう。
見た目は前肢が発達した大蛇であるが、基本的には水生生物であり、硬い表皮と両腕を持って陸上も這いまわるシャチといったイメージだ。
素早く鋭い攻撃を得意とする〈ワリンバァン〉。
病をばら撒く〈ゴブリン〉。
戦力が〈ニゲン〉の少年ほどしかない〈ゴブリン〉がほとんどとはいえ、数の暴力には絶望しかない。
マジ「エリア毎計算で総数千近くって所だね。」
マリ「ねぇあれ!リケイおじさんじゃないの?!」
迷わず立ち向かうリケイの姿がそこにあった。
バカ「迷い無ぇな!ダーツパチンコと双剣でどこまでやれるかな!マリはタチアナと合流!出来るだけ〈ペット〉集めとけ!」
マリ「ああ!なるほど!わかった!」
バカとマジも戦線へと走る。
バカ「リケイさん!デケェ奴ら優先で頼む!」
リケイは、何故か無反応で歩くだけの〈ゴブリン〉を無視し、好戦的な〈ワリンバァン〉と〈エバンミィア〉の相手を始めた。
マジ「武器持ち居ないね!しかもこのゴブ共、意識あるのか?全く無反応?〈迷宮クローン〉のくせに酔っ払ってんのか?」
普段から住民も利用する、崖に囲まれた漏斗状の通路。
〈地獄の蓋〉から〈アルビオン台地〉に到達する為には、点在するこれらを抜けなければならない。
これにより一度に相対する数を減らせている様だ。
総数約千に対して立ち向かうのは三人。彼等はこの複雑な岩場の隙間を利用し、あっという間に百程を撃破した。
私は主に崖を登り越えようとする者の対応に終始した。
バカ「あー!〈ブルルガウル〉クソウゼェ!コレはスタミナ持たねぇぞ!」
マジ「ゴブが飛び道具持ってたら即死してたな!お前ブルルやれ!手ぇ空いたらゴブな!」
マジは、聴覚の優れたバカに〈ブルルガウル〉の相手を任せ、率先して〈ゴブリン〉を狩り続けた。
マジとバカはかなりの量の〈ゴブリン〉の返り血を浴びてしまっていた。
「避難完了!加勢する!」
ヨシミとトウジが戦線に入った。
〈ハイエルフ〉を中心とした戦士団が戦線に出ようとしていたが、〈ゴブリン〉の感染症に感染されては後々面倒である為、これを説得していたら遅くなってしまった様だ。
バカ「〈ゴブ〉は無反応だから斬り放題だ!〈ブルル〉が嫌な突進してくるからソイツ等頼む!」
トウジ「了解!」
ヨシミ「じゃぁ私は〈蛇〉いくわ!」
またあっという間に三百程が削られた。
だが、まだ若いトウジと〈ハイエルフ〉の二人はスタミナ切れ寸前である。
一歩間違えれば〈エバンミィア〉や〈ワリンバァン〉の爪に牙に裂かれかねない。
バカ「地面が血まみれだ!戦線後退させてここに誘い込むぞ!血脂足払いだ!」
トウジ「良いっすねそれ!お二人は囮って事で!周り狩ります!」
バカ「おー!どうせあんま動けねぇしな!」
バカとマジは血脂で足を滑らせた〈ゴブリン〉の留めに集中した。
残りの〈迷宮クローン〉は三百程になっていた。
バカ「そろそろ・・・動けんぞ・・・!」
マジ「もう三十分以上?動きっぱなしだしね。
〈蛇〉とかこっち来たら、終わるね。」
リケイとヨシミ、そしてトウジも、順調に大型の〈迷宮クローン〉を撃破していたが、何体も背後に通してしまっていた。
間もなくその大型がバカとマジの所まで、更には〈アルビオン・シリコニア〉の地上の入り口まで到達しようとしていた。
中に居る者達により閉鎖、補強されてはいたが、多数の〈エバンミィア〉の質量には耐えられないだろう。
〈ワリンバァン〉は台地を登り、壁を超えるだろう。
〈ブルルガウル〉は多くを跳ね飛ばすだろう。
そこに〈ゴブリン〉がただ歩き回るだけで、多くを汚染するだろう。
リケイもバカもマジも理解していた。だからこそより深くで立て籠もる、もしくは逃げる時間を稼ぐ為に立ち向かったのだ。
驚異が迫る最中、バカとマジは傷こそ受けていないが、完全にスタミナ切れである。
大型に襲われたらひとたまりもない。
その時黒が、空を覆った。
総数百程の〈ファントム〉が戦場に向かい飛んでいた。
タチアナの〈ファントム〉だった。
バカ「キター!スーパーヒーロー!」
タチアナが白い台地の上で拳を上げている。かなり怒っている様だ。
次の瞬間拳を振り下ろした。
同時に〈ファントム〉達は〈迷宮クローン〉に襲いかかり、強力な握力で握り潰し、爪で切り裂き、顎で噛み砕いた。
マジ「オイ!あれ!」
戦線真っ只中の岩場の上をマリが駆けており、〈ワリンバァン〉が襲いかかっていた。
バカ「クソッ!間に合わねぇ!」
マリ「〈カイホウ〉」
〈ワリンバァン〉は電撃を受けて倒れ、その首を〈フェンネル〉が切り裂いた。
バカ「・・・あー、そういやアイツ、スタンガン持ってたな。」
疲れ切ったバカとマジの前にヨシミが飛んできて言った。
「戦いは終わりよ。よくやったわ。寝てなさい。」
それだけ言い残し、ヨシミは最後の戦線に戻る。
バカ「・・・さて、いつまで生きれるか。」
マジ「なー、はやまったよなー。今から墓でも掘るか?」
二人は仰向けに倒れ、笑っていた。
文献に依れば、〈聖女〉と〈真竜〉は病にならない。
そしてもちろん、他の生物の大半はそうじゃない。
リケイ、バカ、マジは〈ゴブリン〉の感染症リスクを理解しながらも立ち向かった。
達成したとても死ぬかもしれない事を理解しながら立ち向かった。
これがなければ〈シリコニア〉の住民に多大な犠牲が出ていただろう。
タチアナとマリもまた自身の一部とも言える〈ファントム〉、〈フェンネル〉達が戦死または病死するリスクを理解しながら戦場に立った。
それぞれがそれぞれの覚悟を持ち、戦場に立っていた。
結果全ての敵は排除され、〈アルビオン・シリコニア〉は守られた。
ヨシミ「・・・私とトウジ君でやるべきだった。」
反省とも、リケイへの叱責ともとれる言葉だった。
リケイ「ウワァフ!」
リケイは満足そうに吠えた。




