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フーガック生物図鑑  作者: 遠藤迄太郎


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第一話

 意識を取り戻して十数年、生を受けてからならば二十年近く経っているらしいが。

 そして海を渡り、三年程が経っただろうか。先人に習い手記を残そうと思い筆を取る。

 日本語でのもののみとなってしまうではあろうが。

 我らと同じ境遇の者達が、出来るだけ迷わぬ様に。

 この世界には、驚異が溢れているから。


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん) 


 虎に翼が生えた様な生物を落とし穴に落とし、彼は叫んだ。

「ただのでっけぇ肉食モモンガだったなぁ!」


 少し離れた場所で、大きな肉食モモンガは普通に怖いだろう、と思いながら少女は呟いた。

「なんであんなバケモノの正面に立てるんだろ?」


 そんな少女の所へ白い恐竜に翼が生えた様な生物が舞い降りて声を掛けた。

「上手く追い込んだわね。」


 浮かない表情の彼女にまた声をかける。

「どうした?」


 彼女は苦笑いしながら答える。

「私はまだ現代日本人が抜けないなと。大して記憶も無いのに。」


 他の者達の適応能力についていけていない不甲斐なさでもあるのだろうと慮り白い竜は応える。

「無理をする必要は無いのよ。」


 彼女は考え込むように応える。

「うーん。」




 そんなやり取りのあと少しせっかちな白い竜は、やや強引に少女を背に乗せて飛び立った。因みに少女は高い所が怖い。




 また少し離れた場所にて、空を横切る白い竜を地上から見つけた青年が独り呟く。

「あ、終わったのかな。今日は三人で虎狩りだっけか。こっちはキノコ狩り。平和なモンだったな。」


 地球では見ることは無いであろうキノコを手にまた呟く。

「今日一番大変なのはやっぱり、リケイさんかなぁ。」


 そこからまた少し離れた場所に白い台地があり、その上面一帯が壁で囲まれている。



 その台地の上。その壁の外側。そこに明らかに凶暴な、ゴリラの様な生き物が十数体。

 いや、すでに十以上が絶命して伏せている。




 残り三体の首を、まるで作業でもするかの様に捻り壊す謎の生物。

 その二足歩行する狼の様な外見の生物は、大型の捕食動物を絶命させながら、考えていた。




(モン◯ハン・・・かと思ったら・・・ロマンシング)

 ゲームの話である。そして壁を見あげながらまた思う。




(・・・かと思ったら・・・シンゲキ?)

 漫画の話である。


 そんな彼らの日常を少しだけ覗いてみようか。



挿絵(By みてみん)






 白い台地の上の壁。

 その内側の、最早樹木なのかも怪しいと思える程の超巨大樹。その横にそびえる大樹のもとにて二足歩行狼謎生物と罠の青年が話をしている。




 罠の青年の名は〈バカ・キィ・エロ・カスガ〉。

 現地語での意味は〈蛮強・大きい・偉大・王〉といったものであり、彼が産まれた〈原初の島〉の養父母たるカスガ族から与えられた(こちらの世界では)とても偉大な名前である(こちらの世界では)。




 バカは主張する。

「せっかくの!異世界なのに!なんで!魔法もスキルも無ぇんだよ!」

さらに主張する。

「いや、言いたいことはもっとある!」




 バカの後ろから竜と少女と青年か合流するが、バカはまだ気づいていない。

 二足歩行狼謎生物は気づいたが放置した。


 この日は潮の匂いがキツかったので余計に面倒だった。二足歩行狼謎生物は鼻が良く、強い匂いが苦手である。



「せっかく!美形がいると思ったら!オス!ふざけんな!」

合流してきた青年の事である。


 彼の名は〈マジ・ディ・シネ・カスガ〉。現地語での意味は〈賢い・温和・与える・王〉。とても偉大な名前である()。


 バカの言葉を聞きながら彼は思う。

(そろそろ一発殴るか。)




 バカは気づかず続ける。

「今度はせっかく本物の女がいると思ったら!貧相な!ロリガキ!いろいろ足りてねーんだよ!」


 少女の事である。

 彼女の名は〈タチアナ・ラズ・レィディ・カスガ〉。

(・・・貧相・・・ロリガキ・・・)




 こちらの世界に来てからとは言え、兄妹の様に育った者の暴言にタチアナは最早、声にならないかわいそう(としておこう)。




 バカはさらに続ける。

「終いには!せっかくのおっぱいが!トカゲになっちまいやがってんだよ!ゲームバランスどーなってんだよ!」




 白い竜の事である。

 彼女の名は神代善美かみしろよしみ、現地民が発音しやすい〈ヨシミ〉と名乗っている。

 そして二足歩行狼謎生物は神代理恵かみしろりけい、こちらも発音しやすい〈リケイ〉。因みに、リケイは発話出来ない。犬や狼の鳴き声の様になってしまう。




 要約すると、発話出来ない夫の前でその妻をおっぱい呼ばわりしたわけである馬鹿である。




「オイ、クソガキ。」

 ヨシミはドスの効いた声で自分達の存在を伝える。




 翌日の為の話し合いが行われた。




「リケイさんが!手記を残すっていうから!なんか面白そうな事言っただけだ!オレはわるぐねぇ!わるぐねぇんだ!」

 大樹に股裂き状態で縛り付けられたバカが何か言っている。


 マジがとある板を取り出しながら切り出す。

「じゃぁ俺から報告いくね、この島の地図見つかったから書き写してきましたって。丁寧に。カラーで。」


 タチアナが応える

「えー・・・油絵?・・・労力・・・」


 ヨシミも応える

「それで〈シマクライ〉の現在位置は?」


 マジが応える

「あぁ解ったよ。メスがだいぶ内陸まで進んでたらしい。追従するオスがかなり多いみたい。体長がオスの十倍位になってるっぽい。」


 ヨシミが尋ねる。

「因みに、情報源は?」


 マジが応える

「教会。」


 ヨシミは沈黙する。あまり教会に関わりたくないのだ。

 この宗教らしきものは〈ロナルケ・レィディ〉日本語に直訳すると〈空色教会〉。

 意味として近いのは〈聖女教〉。


 この〈聖女〉はグレムリンを指す。聖女たるグレムリンが空色の髪を持つ事に由来する。そしてタチアナもまたグレムリンなのである。

 タチアナが大事にされるのはまだ良いのだが、ヨシミ本人は訳あって〈神〉扱いされているので少々困っているのである。


 つまり、この地図もまたヨシミとタチアナへの貢物なのである。


 この壁を有する台地の名は〈アルビオン・シリコニア〉。意味は〈白台地シリコニア〉。〈原初の樹シリコア〉を有する城塞である。




 今日彼らが行なっていた狩りは主に、シリコニアの住人達が対処しかねる〈迷い込んだ生物〉の駆除である。






 翌日彼らは出発した。


 ヨシミはタチアナを背に乗せて飛ぶ。タチアナは終始半泣きだった。


 それを追うリケイ達3名は森の中を走る。最中、〈ケッカ〉という草食獣の縄張りを侵してしまい、追い回されてしまう。


 崖から湖に飛び込める場所を知っていたマジが先導する。

「この先湖!崖から5メートル前に飛べ!」


 バカが応える。

「了解!」


 二人は湖に飛んだ。だが、崖の高さは30メートル程。

「たっっっけぇわ!オイ!オレはお前と違って特別な訓練なんかっっっ・・・!」


 叫ぶバカにマジが応える。

「もーうるさい。」


 二人は湖に着水した。


「体中痛ぇ・・・あれ?リケイさんは?」

 リケイを探すバカに崖の上を見上げるマジが言う。

「仕留めてるわ。飛んだ意味無かったね。」


 バカはまた叫ぶ。

「ぅおい!マジで怖かったんだぞ!」


 リケイは二頭のケッカを仕留めていた。サイの様な生物を。


 リケイの身体は硬い鱗で覆われた上から更に白い体毛が生えている。


 鱗は鋭い刃物でもなかなか通らず、体毛は衝撃を分散する。さらにリケイ本人の格闘技術が合わされば、弱点らしい弱点が無いのである。

 強いて言えば、ハンマーや斧といった重い打撃が弱点となるでであろうが、彼ならばそれらを優先して警戒し捌くだろう。


 彼等が〈エリンギ〉と呼んでいる湖上の巨大樹の上からヨシミとタチアナは目撃していた。


 タチアナは呟く。

「素手で・・・」


 ヨシミが応える。

「ぶん殴ってたわね・・・」


 彼等は食料の現地調達に成功した。





 彼らが〈エリンギ〉と呼ぶ樹木がある。


 頂上が台地の様になっており、〈原初の樹〉程に大きな大樹である。


 頂上部分が平たくなった巨大なバオバブの様なイメージだろうか。


 この形状により飛行生物の営巣がよく観察される。


 現地語では〈エイセグナディナ(湖混ざる高い森)〉日本語に無理やり訳すと〈湖上の台地〉。


 一同は今日はここで野営をする事となった。







 バカがこぼす。

「うん、美味しい。」


 リケイが仕留めていたが、〈ケッカ〉はとても美味しい。一同は食事と明るい焚き火を囲んでいる。


 マジが始めた。

「明日の予定としてはまず、〈シマクライ〉を仕留めて〈ディブリン〉達に食料として渡します。代わりに余りまくってる硫黄を貰ってきます。」


 バカが言う。

「〈シマクライ〉のオスって、メスの産卵待ってる間に興奮しちまってヌートリアみてぇな事すんだっけか。」


 マジが応える。

「そ。〈シマクライ〉のメスは絶命時に大量の卵を内臓ごとぶちまけるわけだけど、

これ以上上流で川縁崩されると大規模な崖崩れになるかもしれないらしいから絶命を待ってられない、って事だね。

追従してるオスが相当多いみたいだからすでにかなりの横穴掘られててすでに危ないらしい。」


 ヨシミが問う。

「それだけじゃないわよね。」


 マジが応える。

「うん。〈ゴブリン〉の数が凄いことになってるらしいから、〈要塞〉の壁を壊して他の動物、

主に、〈ゴブリン病〉に感染しない〈ワリンバァン〉と〈エバンミィア〉に狩ってもらいましょって事らしい。」




 この〈ゴブリン〉とは、〈ディブリン〉と呼ばれる人型生物から稀に産まれる思慮の浅い個体であり、簡単に言うと〈盗賊化したディブリン〉である。

 彼等は集まり、略奪と喰う為の殺戮を行う。




 〈ディブリン〉自体は話せる程度の知性と病や毒へ高い耐性により自然下で生き残ってきた種である。




「明日は二手に分かれるから準備しといてね。」

 マジが告げた。




 タチアナは高い所が怖いくせに〈湖上の台地〉の縁にうつ伏せで寝そべっている。。

そんなタチアナを見ながらリケイが口を開く。

「ウワァフ。」


まるっきり犬の鳴き声であったがヨシミは察した。

「あーハイハイ。タチアナー!戻りなさい!危ないからー!」


 タチアナは考えていた。

(もしかして明日も飛ぶの?ここから?ウソでしょ?)

 〈湖上の台地〉から地上を覗き込みながら。






 翌日、リケイ、バカ、マジは〈シマクライ〉のメスのを確認、処理を開始した。




 〈シマクライ〉のオスは体感1mから2m位、中枢神経及び内臓の詰まった部分が殻に覆われ、ナマズの尾びれの様な遊泳器官を持ち、イカやタコの様な触腕を備え、殻を前にして泳ぐ。


 穴を掘り進む際は、ある程度まで殻での突進で崩し、もしくは掘り進む事が可能な場所を探し、その後尾びれを前にし、触腕で掘り進む。


 対して〈シマクライ〉のメスは大きさにバラつきがあり1mから15m。大きな個体程追従するオスの数が多くなり、産卵数も多くなる。

 大個体は遊泳器官は無いに等しく、巨大化し、殻と触腕が発達している。この強靭な触腕で河川の流れに逆らい遡上する。


 遡上する理由は産卵であり、その巨体により作られる下流の淀みにオスが待機し、産卵された卵を捉え、受精させる。

 一体のオスが卵を一つ捉え受精させるが、その卵からは複数以上の個体が産まれる。

 受精しなかった卵から産まれる個体は必ずメスとなる。




 リケイが〈シマクライ〉のメスに登り、眼球が突出した第三殻の所謂眉間を、その爪にて破壊を試みていた。

 その爪での貫手は動物の皮や筋肉、靭帯など簡単に貫く威力なのだが、〈シマクライ〉の殻はなかなかに頑丈だった。


 強靭とはいえ巨大化して大質量となっているその触腕による反撃は無く、鈍重である為振り落とされる事も無かった。




 リケイの貫手はその殻を破壊するまで続けられた。

 リケイのその貫手の威力を知っていたマジだったからこそ驚愕した。

「〈シマクライ〉の殻ってそんなに硬いの?何発耐えんの?あの貫手を?」


 バカは答えた。

「あー、あの殻スゲー硬ぇんだわ、多分エナメル質位。因みに今砕こうとしてる所の中に脳ミソみてぇなもんがある。」


 マジが応える。

「ほぇー、って事は今頭蓋砕いてるみたいな感じ?」


 バカが応える。

「そ。その後の活け締めは俺の出番かね。」



 そこから少し離れた高台の上空をタチアナを乗せたヨシミが飛んでいた。タチアナはまた怖いと叫んでいることだろうかわいそう。


 ヨシミは一度地上に降り、また滑空飛行をするため高い場所へと走っていたが、その背にタチアナはいないようだった。どこへ行ったのだろう。


 程なく仕留められた巨大な〈シマクライ〉の所へと〈ディブリン〉の集団が現れた。




 そこにはバカが残り所謂〈活け締め〉を終えていた。

「おー、いっぱい連れてきたな。」


 バカの下にヨシミが舞い降りた。

「解体は彼らに任せて次よ!私は先に行く!」


 バカは応える。

「了解!(乗せてくんねぇかなぁ、まぁ俺の体重だと乗っても飛べねぇけど)。」






 少し離れた森の中。タチアナは、後ろ足を欠いた恐竜の様な、両腕の生えた大蛇の様な生物と相対していた危険が危ない。




 その生物は〈エバンミィア〉。〈大きなトカゲヘビ〉といった意味らしい。蛇の様な下半身をくねらせ、両腕で這う様に襲い来る。




 その場の周囲を、黒い猫もしくはキツネの背にコウモリの翼が生えた様な生物が舞い、〈エバンミィア〉の邪魔をしている。


 彼女等は〈ファントム〉と呼ばれる生物のメスである。


 習性として、寄生性を持った〈ファントム〉のオスとその宿主を守る社会性のある生物である。




 タチアナは〈エバンミィア〉と戦う姿勢を見せる。


 タチアナは〈エバンミィア〉の突進を、尾での横薙ぎを、前肢の爪での一撃を、〈ファントム〉達の助けを借りて全て躱し、彼女の胸元から伸びる黒いマントの様なものを開いた。




 これは彼女の翼である。




 彼女は産まれた時からこの姿だったが、彼女の背には間違い無く〈ファントム〉のオスが寄生している。


 この〈翼膜黒獣ファントム〉の生態は、似た翼と匂いを持つ〈黒皇竜ウロボロス・ドラゴン〉及び本来の〈ファントム〉のオスの寄生先である〈クロアシ〉と混群して生活するのだが、〈黒皇竜ウロボロス・ドラゴン〉がいないにも関わらず、タチアナの群れには異常な数の〈ファントム〉達が集っていた。




 タチアナの群れは難なく〈エバンミィア〉を下し〈要塞〉へと向かった。






 リケイとマジは〈要塞〉付近に到着し、調査を開始した。


 〈要塞〉を目視で確認すると異変に気付く。いるはずの〈ゴブリン〉が一体も居ないのだ。


 居たのは様子のおかしい〈ワリンバァン〉。

 見た目は両腕が発達した恐竜のラプトルの様な生物だが、通常とる様な連携は無く、持ち前の速度と鋭利な爪でただただ襲い掛かっている。


 これに〈アルケマリア〉と〈オークリン〉が応戦し、包囲する形をとっていた。




 この様子に困惑していると、後ろから声が聞こえた。現地語だった。

『リケイ様。お久しぶりでございます。』




 マジはとっさに警戒、背に隠している武器に手をかけていた。そこには〈アルケマリア〉と〈オークリン〉が跪いていた。



 以前、この島〈ククリ島〉にリケイ達が到着して間もない頃、

〈アルケマリア〉なる、蜘蛛に人の上半身が生えた様な生物と、〈オークリン〉なる、豚頭人間とでも言える様な見た目の生物、そして〈ディブリン〉を加えた三種の知的生命体達が非常に険悪な状態にあった。




 因みに〈リン〉は単語としては〈リィン〉であり、〈言葉を解する者〉、〈知的生命体〉、北の大陸では〈ニゲン〉を表す。




 険悪であった理由は、〈ディブリン〉の逸れものである〈ゴブリン〉の様に、〈オークリン〉の逸れものである〈オーク〉、〈アルケマリア〉達から逸れ〈孤独相〉とでも言おうか、凶暴化して暴れる〈アルケ〉。


 それらにより普通に暮らしている者達が被害を被ってしまうという事態が長く続いていた。


 本来それぞれの逸れものは自身達で処理するという、謂わば死刑制度の様なものがあったのだが、平和が続き、個体数が増え、目が届かなくなっていたがその対策を怠った。


 その為他に迷惑がかかってしまっていたのだ。




 それらをリケイとヨシミが解決した。




 正確には、〈ゴブリン〉、〈オーク〉、〈アルケ〉をリケイがほぼ一人で蹴散らし、大半捕らえるか殺すかを成功させた上で同盟を結ばせた。


 それ以降、割と上手く住み分けがなされている。




 そんな事情を知らないマジに気がついたリケイは、地面に文字を書いた。

〈ヨシミの友人〉



 それを見てマジが話を始めた。

『すまない、警戒した。私の名はマジ。皆と共に原初の島から来た者だ。状況を知りたい。力になれるはずだ。』


 〈アルケマリア〉が応える。

『はじめまして。私の名は〈エィシィ〉。勝手ながらぜひとも協力を願いたい。皆様の望む物も多少は持っているはずです。』


 マジは、応える。

『了解した。』




 エィシィは説明を始める。

『まずは〈要塞〉の中央の穴をご覧ください。あの穴は一月程前突然開きました。その時この辺り一面に〈原初の樹〉の匂いが広がりました。』


 マジは驚く。

『は?!それって?!』


 エィシィは応える。

『はい、あれは皆様の仰る〈メイキュウ〉の入り口です。』


 ヨシミが応える。

『あの丘一帯が〈メイキュウセッカクガイ〉よ。北と西に向かって延びているわ。』


 エィシィが応える。

『これは〈白天竜〉ヨシミ様。お世話になっております。』


『久しぶりね。』

 ヨシミとタチアナが合流した。




 〈ドラゴン〉と〈グレムリン〉は〈原初の樹〉の匂いに敏感である。




 〈メイキュウセッカクガイ〉とは海から〈原初の樹〉に向かって自身のコピーを作りつつ地下を掘り進みながら洞窟の様なものを作り出す貝の様な見た目の生物。


 本体から派生したコピーは全て血管で繋がっており、心臓の役割を持つ〈心宮〉、〈原初の樹〉と繋がった後、脳の役目を負う〈脳宮〉等、それぞれが役目を負う器官を形成し、やがて〈卵宮〉を形成する。


 この〈卵宮〉は、生物を生きたまま吸収し、生殖器官のみを生かして利用し、それが機能を失うまで子を作り続ける。


 これをヨシミ達は〈迷宮クローン〉と呼ぶ。


 この〈迷宮クローン〉は大半が、外の生物を連れ帰る習性を持つ。連れ帰らせた生物でまたコピーを作る。



 ヨシミが問う。

『それで〈迷宮クローン〉・・・敵はどれ?』


 エィシィが応える。

『はい、〈ワリンバァン〉のみです。

〈ゴブリン〉共は早々に駆逐された様ですので。我々では〈ワリンバァン〉共をあそこから出さぬ事で手一杯の状態でありまして

・・・殲滅及び穴を塞ぐ助力をお願いしたいのです。』


 いつの間にかバカも合流していた。

「あれ?リケイさんは?またいねぇ。」


 マジも気付く。

「あれ?どこ行った?」




 ふと〈要塞〉に目を落とすと、リケイが暴れていた。




 それはもう、暴れていた。




 一瞬で〈穴〉周辺にいた六体程の〈ワリンバァン〉を蹴散らし、〈アルケマリア〉達の加勢に転じようとしていた。




 バカは呟く。

「相変わらず、迷い無ぇな。」



 タチアナは冷めた目で呟く。

「やっぱ変だよリケイさん。」



 ヨシミは呆れる。

「・・・そうね。」



 程なく穴の外にいた〈ワリンバァン〉は全滅した。




 バカは最早日本語で突っ込んだ。

「オイ!なんか瞬殺してんぞ?いいんかあれ?強いんじゃねーのか?」


 エィシィと〈オークリン〉の女は呆気に取られていると同時に日本語に混乱している。


 タチアナが応える。

「現地語で言わないとわかんないよ。」




 リケイは考えていた。




 タチアナとバカが主にだが、動物図鑑の様なものを作ろうとしており、リケイも面白そうだと考えていた。


 そのための資料として。

(三体生かした。充分だろう。)




 そんな事を考えていた。視界が狭くなっていた。あの巨体であれば地下を這う音も聞こえるはずだった。リケイの手記にはそんな事が書かれていた。




 リケイの背後の地面に突如ヒビが入った。


 バカが気付く。

「ん?なーんか・・・?」


 ヨシミも気付く。

「!!!あなた!!!逃げなさい!!!」

 叫ぶと同時に飛翔する為に走り出した。



 リケイの背後数メートルの位置にまた新たな〈穴〉が口を開けた。


 そこから這い出たのはゴリラの様な腕が生えた恐竜の様な生物、もしくは前腕の発達したティラノサウルス、そんな生物がそこにいた。




 エィシィが叫ぶ。

『なんだあれは!?見たことないぞ!!』


 タチアナには覚えがあった。

『〈ワリンバァン〉で合ってるよ、ただ、宿主を強化する寄生生物に寄生されてる。』


 ヨシミは飛翔しリケイの下へと向かう。

「二度目の死別なんて!冗談じゃない!!」




 リケイは考えていた。

(ナックルウォーキング?ゴリトカゲ?)


 呑気なものである。〈ゴリトカゲ〉はリケイの頭部に向かって右前肢の爪を振り下ろしている。


 リケイはこれを左前に進みながら左手で右側にいなしつつ右手で掴み左回転させてひねり上げ、下を向いた〈ゴリトカゲ〉の肘の尺骨神経溝に自身の左手の爪で一撃を加える。




 さなぎ兵杖剛術・猪牙・改・葉術・松牙雷

(さなぎひょうじょうごうじゅつ・ししきば・あらため・ようじゅつ・しょうがらい)




 一撃で〈ゴリトカゲ〉の肘関節の靭帯を損傷させた。



 リケイは分析する。

(関節っつうか、靭帯強度が全然だな。産まれたてか?)





 〈ゴリトカゲ〉は感じた事の無い痛みと、それを与えてきたリケイに対して恐怖していた。


 立ち会いはすでに始まっている。


 ならばリケイは油断しない。


 さっき多数の〈ワリンバァン〉と戦って解った。この〈ワリンバァン〉という種は特に、胸骨脇の筋肉を絶つ事で呼吸に支障を来す。




(本来は〈踵打ち〉なんだが。・・・だまし討ちなんざやられたこともねぇだろ。)

 リケイは頭部を狙う踵落としの様な動きをしつつ距離を詰める。〈ゴリトカゲ〉は頭部を守ろうとする。




 さなぎ兵杖剛術・月兎(さなぎひょうじょうごうじゅつ・げっと)




 リケイは踵落としの様に足の爪を振り下ろし、〈ゴリトカゲ〉の胸の筋肉を裂いた。




 〈ゴリトカゲ〉は吸気が出来ず倒れ込む。




 駆けつけようとしていたバカがホッとした様に口を開く。

「あー・・・肋軟骨ぶった切るか胸骨剥がすかして呼吸奪ったんか。結構強かったんかな?」


 マジが応える。

「呼吸奪うのは目的だったくさいけど。どーだろ。」


 ヨシミが舞い降りる。かつてのリケイの言葉を思い出す。

「〈獣の身体での武〉、か。」




 タチアナが気付く。

「ん?なんか地面に書いてる?」

 

 リケイが犬の様に吠えながら地面を叩いている。その手元に目をやるとなにかが書いてある。




 〈飼おう!このゴリラ!〉




 バカは舌打ち、マジは戸惑い、ヨシミはイラッとしていた中タチアナが冷めた目で呟く。

「やっぱ変だよリケイさん。」




 バカとヨシミが声を荒げる。

「「ふざけんな!!!」」




「犬猫じゃないんだから。」

 マジも諭す様に言った。




 リケイはまた地面になにか書いている。


 それを見てバカとヨシミがまた叫ぶ。

「「ちゃんとお世話するから~じゃねーわ!!!」」


 タチアナがもらす。

「しょ、小学生・・・。」


 マジは戸惑う。

「取り敢えず依頼は完了と。どーすんだ?」




 こうして、〈シマクライ〉の駆除、〈ディブリン〉との食料と硫黄の取引、〈ゴブリン要塞〉処理を完了。そして新たな迷宮の入り口の発見となった。






 あぁそうだ、自己紹介を忘れていた。私の名は見郷弓流。けんきょうゆみると読む。


 翼の生えた猫の様な生物〈ニャフン〉と共に〈原初の樹〉より産まれた、カカポっぽい見た目の生物である。


 書物で調べる限り、多分私は〈ドラゴン〉である。この三日、彼らを追えるだけの体力と戦力、移動能力を有している。


 〈ニャフン〉というふざけた名前はタチアナにより付けられた。因みに私は〈トリコ〉と付けられた。不満しかない。




 最近まで私は、日本での記憶が曖昧だった。

 ニャフンに至ってはほとんどただの猫である。たが、たまに明らかに日本語を理解している。


 リケイ、バカ、マジ、はまず間違い無く私と同門、〈さなぎ兵術〉を使う者達だ。



 タチアナとヨシミは私とニャフンの関係性だろう。



 おそらく〈原初の樹〉によりヨシミと私は洗脳に近いものを受けている。


 私はニャフンが大事で仕方がないのだ。ヨシミもタチアナを大事に思っているのだろう。これに関して不満があるわけでは無い。


 彼らはここで生物図鑑を作りたい様だ。リケイの手記より抜粋して記しておこう。




 意識を取り戻して十数年、生を受けてからならば二十年近く経っているらしいが。

 そして海を渡り、三年程が経っただろうか。先人に習い手記を残そうと思い筆を取る。

 日本語でのもののみとなってしまうではあろうが。

 我らと同じ境遇の者達が、出来るだけ迷わぬ様に。

 この世界には、驚異が溢れているから。


 そうこの世界には驚異が溢れている。だから体験を残す事にした。

 試しに図鑑を作ってみようと思う。

 この足跡がいつか道になる事を願うばかりだ。




 私はニャフンを守護すると共に、これに協力していこうと考えている。


 そうこの世界には驚異が溢れている。だから体験を残す事にした。

 試しに図鑑を作ってみようと思う。

 この足跡がいつか道になる事を願うばかりだ。

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