そして、出逢いと抜刀と。その3
ひと通りの食事もすみ、本格的に飲みと会話の席となっていた。
先の提案の件も気になっていて…
「そういえばギリアさんは普段は一人なんですか?
強いパーティでリーダーでもやってそうなのに。
それに、俺達なんかとはとても釣り合わないと思いますよ…。」
アサヒ達に一方的なメリットしかない申し出に、当然の疑問を投げかける。
「そうだねぇ、昔はそんな事もあったが…
どうも真面目に冒険者、というのも性に合わなくてね。
偉そうになったり有名になったりよりも、
楽しく自由に旅がしたくて…時々こうやって、君達みたいな面白そうな人達に声をかけるんだ。
もし何処かを目指してたりするなら手伝ってもいい。
ちょうどする事が無くなって、暇を持て余していたんだ。
こちらからの勝手な申し出だから、勿論報酬なんて要らない。
稼ごうと思ったらいくらでも出来るからね。
はははは!」
何とも心強い!
が、話が出来すぎている気もした。
アサヒは元の世界での経験から多少捻くれている所も有り、すぐに疑いの眼を向けてしまう。
「なぁ、どうかな?二人とも…。」
「え?良いじゃない。
アタシ達を騙したって何も持ってないしぃ…
珍しいからってアタシみたいな竜人を売ったりしても帝国を敵に回すだけだわぁ♪
…ちょっと売られて弄ばれてみるのも面白そうかしらぁ…?」
「ん。
アナタは時々異常に疑り深いけど…神職の僕の精霊ネットワークは嫌がらせが得意。
僕達に害を成そうとすれば社会的に抹殺される、ひひ…♪」
声を掛ける相手を間違えたとでも思ったのか、一瞬だけ口元を引き攣らせてギリアは釈明する。
「わ、悪い事なんて考えないよ…。
今言った様にお金には困ってないし、困ったとしてもすぐに解決出来るからね。
例えば今日のサンドワームの報酬だけでも10日は遊んで暮らせるさ。
言っただろう?暇を持て余してるだけなんだよ。
最近は魔王協会も大人しくしてるからね…何なら逆に私を利用してくれてもいい。
世の中に悪い事でなければ手を貸そう。
これだけ珍しい者達が揃っているという事が、私にとっては重要なんだ。
…逆に、よく今まで無事だったねぇ?」
名が広がる様な活躍のないポンコツ達だからである。
これ以上は特に深く考える様なことも無く、三人は何となく眼を合わせて軽く頷いた。
「ちょうどいいわぁ、アサヒ…貴方ついでに少し鍛えて貰いなさいなぁ。」
「ん、いつまでも役立たずを養う義理はない。」
「酷い!家族だろう!?」
「これで毎晩美味しいタダ酒が飲めるかしらぁ~♪」
酒が回りきってギリアの首に手を回す竜人との間にはいつの間にかシュミカが割って座っていて、
ペチペチとリアの腰に手を回してお腹を叩いて宥めている。
反対の肘でギリアに何か言え…との催促も忘れない。
「いや、仕事はしようじゃないか!?
逆に暇になるなら私は他にいかせてもらうよ!」
「ん…戦闘中、とおちゃがこの汚荷物を守ってくれれば…リア、自由に暴れられる♪
運動後のお酒はもっと美味しい!」
「お父さんにはならないからね!?
いや、まぁ守りはするけどね、ははは!」
何かを企んでいる時に見せるシュミカの邪悪な笑みに身震いしながらアサヒは思考を巡らす…
それはギリアに対してでは無く、
この酷い家族達から受けるであろう今後の自身に降り掛かるであろう災いに対してである。
ふと目を伏せ…安心したいと思っているのもわかり、
それでも何とも言えない警戒心を向けてくるアサヒの気持ちを察したギリアは
『本当に今まで色んな事があったんだろう…。』
と思考を巡らせ、今する事はその警戒心を肯定して尊重する事だろうと悟り、提案する。
「…まぁ、歓迎されたと思って感謝するが、
即決するのに抵抗があるのも危機管理として大切なことだ。
多少私も舞い上がっていた様だから…
そうだね、明日の晩も私はこの店にいる事にするから、よく考えて決めて欲しい。
断られれば、また面白そうな人達との出会いを探求するだけだから私の事は気にしなくて問題ないよ!」
誠実極まりない提案!
だが、アサヒはそれにこそ疑問を持ってしまう性格なのだ。
勿論悪意は感じないしメリットしか無い…
(考え過ぎても捨てられる時は捨てられるし、
守られてても死ぬ時は死ぬよぁ…どう転んでも生き残るための術を学ばせて貰えば良いのかもな…。)
と自分を納得させて酒の力も借りて、アサヒは覚悟を決めた。
「リア、シュミカ…お前らが構わないと思うなら、
是非ともお願いしようと思うんだが…。どうかな?」
やれやれ…と顔を見合わせた二人は苦笑いを浮かべて言う。
「だぁかぁらぁ…ずっと言ってるじゃないのぉ~。
どうでもなるんだからぁ、面白そうな方に舵を取りなさいなぁ~。」
「いや、初耳だが?」
「ん、もともと今の僕達の力では先に進めない…。
僕…あのキャラバンに帰りたい…、
また皆や姉さんに会いたい…。
先に進めるなら何でもいいの!」
…騙されても良い。
本当に力として頼れる相手を見つけられた事に安心したのか、
珍しく声高に泣き出したシュミカを慌てて抱き締め、宥めるリアも薄らと涙を浮かべている。
「そうよね…シュミカ、きっと大丈夫よぉ…。」
アサヒはこの世界に馴染む事に気を取られ過ぎていたが、
傍にいてくれていた仲間の気持ちに初めて触れた気がして決意する。
「明日の晩は明日の晩またここで飲みましょう、仲間として!
不束者達ですが、よろしくご教示お願いします!」
「…固いねぇ、真面目なんだねぇ…。」
と、優しく微笑むギリアに、アサヒは顔を赤くして苦笑いを返す。
「性分なんですよ…。
ま、そこの二人がアレなんで☆」
件のそこの二人は今まで緊張の糸を張りながら、
実は無意識にだろうが無力な自分を守って来てくれたのだと改めて認識しながらも…
今までの仕打ちがその憂さ晴らしであったのだろうな…と、
気持ちをプラスマイナスゼロで始めようと決意して、
アサヒはこの世界での家族を改めて心で迎え入れた。
やがて落ち着いたその光景を胸に焼き付けながら、
感傷に干渉されてしまった筋肉の塊は満面の笑顔を浮かべて言う。
「まぁ、取り敢えずは今日の出会いを祝して乾杯でもしようか!」
その後、アサヒ達は今に至った現状とギリアの武勇伝を交換し合いながら宴は続き…
財布の紐が緩くなったギリアの計らいで店の上階の宿代まで世話になった三人は、
フラフラしながらも男女に分かれて各部屋のベッドに倒れ込んでこの夜を終えた。
そして、アサヒは心の鞘から勇往邁進という名の刀を抜刀したのである。




