そして、出逢いと抜刀と。その2
宵時である。
やがて、街道を外れてしまった愚かな冒険者の保護の為に組まれたクエストに
参加して頂いた冒険者様達に保護されて街に帰ったアサヒ達一行は、
小一時間の説教と報酬を得て…自分達の救出クエストの依頼料を支払うハメとなった。
…追加として、
アサヒの胸から剣を抜き、呪いを解く、治癒…などのお布施を納めて残ったのは一晩の宿代程度であり、
飲食に割くほどの金銭は残されない…。
「もおぉ~…どぉすんのよぉ…
今夜は飲めないじゃないぃ~。」
「最初からクエストの内容が分かってたくせに依代の金をケチろうとしたからだろうが!
ちゃんと必須アイテムに記載されてたじゃないか!」
「ん…ロクに戦えもしないくせに短剣の鞘にすらなれない程度の男が何言うの…?」
「無理矢理された結果、見事になり仰ただろうが!
そもそも剣の鞘になりたい男なんぞ居てたまるか!
少なくとも俺は違う!目指してなどいない!」
などと、空腹で気の立った状態で格安の宿の空き部屋を探して彷徨う哀れな野良犬三頭に、
突然助け舟が届けられた。
走って追いかけてきた声に呼び止められて三人が振り向くと、
そこに居たのは先程サンドワームと戦い、取り敢えずギルドまでは同行した件の男である。
「はは…大分絞られてたじゃないか…。
良ければこの後、一緒に食事でもどうだい?
まぁ、これも何かの縁さ、こちらは報酬も思ったより多かったし、
今日は私がご馳走するよ。
客人、竜人、神職…。君達みたいなのと知り合える機会なんて滅多に無いからね、ははは~!」
と、そのような流れでアメコミ筋肉の申し子のようなギリア氏の好意に甘え、
この世界で栄える飲食チェーン店『ゴムール』、
よくある大衆居酒屋的な店の一つのテーブルを囲む現状に至った訳である。
なお、席にはアサヒ、その向かいにギリアと女性陣が並んでいる。
(まぁ、広く座れていいけどね!)
「アタシ、これくらいワチャワチャしてる所、好きだわぁ♪」
「…ん、僕はちょっと苦手…。でも、リアが居てくれれば…いい。んぎゅ♪」
「おい…度を弁えろよ…。前の街みたいに追い出されちゃかなわんぞ…。」
と、クソみたいに尊いイチャ百合を尻目にアサヒは、
遠慮をするよりも早く注文され、
目の前に並べられてしまった料理の山に手をつけない方が失礼であろうと二人を食欲の方へと誘導する。
「あらぁ!いつの間に?
美味しそうねぇ!ア~ンしてあげるわぁ、
シュミカ~、さっきはごめんなさいねぇ…。」
「ん…、全部そこにいる短剣の鞘になる事しか取り柄の無い男のせい。
リアは何も悪く無い。あ~~ん…うまうま♪」
取り敢えずアサヒは呪の剣の鞘とは認められた様である。
(早く文字を覚えないとヤバいな…。
クエストの選択に参加できる程度から頑張ろう…。)
「お酒も良い物ねぇ~、いくらでも飲めそうよぉ♪」
「…程々にしとけよ~…。
絶対に高いだろ?ここ…」
苦笑いはしているが、
満更では無さそうなギリアは『心配無いからどうぞ…』と手振りで示す。
周囲の客層から見ても高級店という訳ではないが、
中の少し上…
生活に程々の余裕が有れば通えるランクだが、
それでも今のアサヒ達にとっては贅沢な店だ。
「いつもこうなのかい?
慣れている様だが…大変だねぇ、君も。ははは~♪」
「はぁ…、何だかんだで今、命が有るのもコイツらのお陰でも有るんで…。
でもまぁ…その所為で何度も命の危機に晒されてもいますけどね…。」
皮肉混じりでは有るが、絶対の信頼を込めて二人に目をやるアサヒを見てギリアは目を細める。
「良いじゃないか。
素敵な仲間なんだね、
本当に遠慮は要らないから食べたまえ飲みたまえ!
私は君達の事が好きになったよ!
それでどうかな?
もちろん今日のこの席にかんしては気にしなくて良い。
私もひとり飯は寂しいから同席してくれるのは寧ろ感謝さ!
嫌なら全然構わないのだが…
暫く一緒にパーティを組まないか?」
突然の申し入れに戸惑うアサヒの耳に、
「パキュン♪」
…と謎の音が響いた気がした。
「喜んで!大歓迎だわぁ!
いつでも卵は産めるわよぅ!
人間みたいにもできるわよぉっ!?」
ばん!とテーブルに手を叩きつけて前のめりに下品極まりない提案をするリアを冷静に静止するシュミカ。
「ん~!
どうどう…。リア、落ち着いて…。
ゴメンね…今、竜人は発情期なの…。
とても強い貴方に惹かれてる…。
ん…、僕も貴方なら…なんか良さげ?本当のとおちゃになる?」
「ならないよ!
アサヒ君!なんとかしてよ…」
「あ、目がぐるぐるハートマークな竜人に出来る事なんて自分にはないっす。すみません。
お料理いただきます。」
全てを他人事と決定したアサヒは、
この一日で消費した血肉を補給すべく現実から逃避して食欲に身を任せる決断をする…。
「あ、流石…いつもとはワンランク上!
美味しいですよ~~♪」
「ちょいちょいちょい!
たのむよ、アサヒ君~…。」
とは言いながらも、久しぶりの友人を持てた気がしたギリアの心は満更でもなかった。




