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そして、俺は〇〇になりました。  作者: Foolish Material
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そして、回りだす夜に。その4

「なぁ、君さぁ…もしかしてキュリラライ辺りの出身かい?」


 今までと違う反応に、

 ノーイラ=タスツは顔を上げ…

 いつしか目をそむけ続けていたルキリ=スターニーと目を合わせた。


 目が合った。


「何だか懐かしくてさぁ!

 …でもこんなに楽しい歌をなんでそんな顔で歌ってるのさ?」


 ノイは自分がどんな顔をしているのか想像できない。

 口元は笑っているはずだ…何度も確認しながら歌っていたはずだ…。


「…ちょ…っと、

 昔の事を思い出したん…っす。

 自分にとっては…

 大切な思い出のある曲なんすよ!」


 顔を近づけてきたルキリは満面の笑みを浮かべる。


「そうかい、いいね!

 ルキリにも沢山あるよ…そういうの!

 今の曲もさぁ…

 あの辺を旅してた頃に懐いてくれた女の子がいてさ…

 あの辺の民謡を自慢げに歌うのさ。

 …可愛かったなぁ!

 君に比べたらあんまり上手くなかったけどね、あははは!」


 ルキリのその目はまだ正気には見えない…


 それでも確実に、

 あの時の"歌の下手な女の子"は自分だと…

 それを伝えるための扉は一つ開いた。


 涙を拭い大きく深呼吸をしたノーイラ=タスツは、

 イントロを弾き始めた。


「どおっすか?

 ラララでいいっすから…一緒に歌ってみないっすか?」



 少し話があるからとカディスとアサヒ達はまだ外に居る。


 先に店内に入ったガトスとダトスの居心地は最悪であった。


 この場に居るのは幼馴染ではあるが尊敬する主君カディスがベタ惚れしていた同級生で、

 ガトダトとは歪み合っていたリア。

 この場に居る中で頭の上る者はいない伝説級の教官であるクーロ。

 オマケに今カウンターで相手をしているのは戦場での元上官である。


「何ですか…この時間…。」

「何でオレらだけ除け者?」


 ドン!っとサービスのジョッキを二人の前に置くスキンヘッドの元上官は、

 抑え込んだ威圧感に、

 癒しのキャンドルを添える様にいう。


「そりゃアンタたちがいつも余計な口を挟むからよ~♪」


 この夜二人は、

 このカウンター以外での一切の口を閉じた。


 その時一瞬だけ空気が静まり返る。


「閉じた…な。」


 リアと昔の様に戯れあい歪み合っていたクーロに精霊からの知らせが届いた。

 パチン!と指を鳴らすと、

 リアを含むその場の兵達は背筋を伸ばして姿勢を正す。


 『何があろうが絶対服従。

  動くな!』

 の合図であった。


 この場に居るカディスの部下達は皆、

 先輩後輩の時代の違いはあれど同じ学舎で育った者たちである。

 ぷっと一人が笑うと次第に大爆笑へと連鎖した。


 条件反射に従ってしまったリアは恥ずかしさでテンパっている為、

 師弟の勝負は師の戦略的勝利とあいなった訳である。


「歌姫よ、

 よく頑張ってくれた…。

 店員さん…ニリちゃんだったかの?

 喉に優しい飲み物でもあれば上へ持って行ってやっては貰えんか?」


 ソレを聞くと溢れる安心からしゃがみ込み、

 クーロの傍で小さく蹲って嗚咽する狐の獣人は…

 『分かったけど今は無理…』と、

 顔を上げずに手を振ってみせた。


「辛い思いをさせて悪かったな…。」


 それでもこの先の展開はクーロにも読めずにいた。

 リア達と例のキャラバンとやらとの本当の関係性も知らない。

 一度解散させてからカディスと話し合って考えた方が良いとも考えている。

 その時入り口の扉の鐘を鳴らしながらタイミング良く店に入って来たのは、

 残りの最重要人物達だった。


「…みんな集まっているな。

 どうした?

 いつもと店内の様子が違う様だが…。」


 カウンターのパナルマに目を向けると、


「本日は借り切っていただいてますわ~。

 詳しくはそちらの老師様に聞いてくださいな。」


 項垂れるリアを見たアサヒはシュミカと目を合わせた。


「…有り得ないほど大人しくしてるじゃないか。」

「ん、んん…?」


 二人の視線に気づいたリアは元気を取り戻してシュミカに飛びつく。


「ああん、シュミカぁ~!

 あのちっこいジジイがいじめるのぉ~、

 慰めてぇ~!」


 クルクルと店内を珍しそうに眺めているエイナはそのちっこいジジイ…

 クーロと目が合うと怯えるようにアサヒの影に隠れた。


「どうしたの?エイナ。」

「…わかんないけど…なんか怖い。」


(また恐ろしい物を連れてきたな、カディス坊…。)

 一瞬してしまった警戒を、

 瞬時に悟られたクーロは気を鎮める。


「すまんすまん、

 お主の様な小さな子が来る場所ではないから驚いたんじゃよ。」 


 プーと頬を膨らますエイナはおずおずとアサヒの背中に隠れた。



 その頃、

 ギルド内の扉から続くダンジョンから一人の魔導士が帰還した。


「…ふう、

 流石に浅い階層に手掛かりは無いわね~。」


 帰還の報告の手続きを済ませた魔導士は、

 暇そうに爪の手入れをしている受付嬢に声をかけた。


「あ、ユリィネルさん…

 おかえりなさい~。

 何か情報ありました?」

 

 首を横に振るユリィは優しく話す。


「ざーんねん、

 流石に初日からは無理ですねぇ…。

 それよりも、

 別の情報が欲しいんですけど~…

 おススメの美味しいお店は無いかしら?」


「おススメですか~、

 この辺りだと…

 定番になるけど『ゴムール』かなぁ?

 どこの街でも安定してますけど、

 この街のは変わってて面白いですよ。

 ショータイムもあるし♪」


 ソレを聞いていた、

 隣の席で本日の報告書を書いている相棒は首を振る。


「ダメダメ…

 今日のお昼に行ってきたけど、

 今夜は貸し切りだって言ってたわ。」


 受付嬢は腰を捻ってその顔を覗き込む。


「マジで⁈

 じゃあ今日はこの後どこで呑むのよ?」

 

「ん~…

 ちょうど気になってたお店があるから行ってみる?

 少し値は張るけど、

 評判よ?」

 

 受付嬢は値が張ると聞いて考え込む。


「私が行きたいんだから、

 私が少し多く払うわよ?」


 ならば!と目を輝かせて嬢は首を大きく縦に振る。


「あのぉ~…」


 忘れられていたユリィは申し訳なさそうに声をかけた。


「あ!すみませんユリィネルさん!

 そうだ、ウチらもう終わりなので…

 良ければ一緒にどうですか?」


 ユリィは二人の顔を見て少し考えると、

 口元を綻ばせて言う。


「嬉しいです~♪

 それじゃあ今日はワタシが出しちゃおうかしら?」


「え⁈良いんですか⁈」

「いやいや!

 流石にそれは悪いですよ!

 アンタいい加減にしなさいよ!」


 そのやりとりを微笑ましく見るユリィ。


「いいんですよぅ、

 依頼主からけっこう貰ってるので♪

 貴女達みたいな可愛い子達とご一緒できるなら、

 遠慮しないでください~♪」


 そして、

 ホワホワした雰囲気のままに彼女は笑う。

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