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そして、俺は〇〇になりました。  作者: Foolish Material
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そして、出逢いと抜刀と。その1

 さて…、

 やがて辿り着いた目前の、左右に長く高い壁に守られた街は…



 現在彼らがホームとして滞在している本拠地であり、

 周辺は街道から外れさえしなければ平和主義の精霊達に守護されている。

 

 その守護領域から少しでも外れようものなら、どうなるのかと言うと…。



 ふと遠方で砂煙が舞う。少し遅れて小さな振動が街の外壁の埃を払い落とす。



 それを敏感に察知したシュミカは、

 読んでいた本のページをアサヒの顔面でキープした後…興奮気味に荷車を揺らして禍々しい三白眼を輝かせた。



「ん!あれ見て…リア!

 でっかいサンドワーム!」



 そう、平和主義ではない精霊達の遊び場で玩具となるのだ。


  それはそれでこの世界をこの世界たらしめるエンターテインメントの一環として糧となっていたりもする。


「へぇ~……、

 確かにおっきいわねぇ…。

 でもくっさそうで嫌~ねぇ~~。


 …あらぁ、誰か戦ってるのかしらぁ、討伐クエスト?

 でも…よくやるわぁ、

 アタシ…ミミズは嫌いなのぉ…。」



(…よく見えるな…。

 遠くででっかいミミズが一人遊びしてるようにしか見えんぞ…。)



 と、薄れゆく意識を手繰り寄せることにも慣れてきたアサヒは視界の隅にその光景を映しつつ、

 興奮し、はしゃいではいながらも、

 器用かつ定期的にシュミカが投げつけてくれている聖水をありがたく頂戴している。


 もう反抗する気力は無い。

 むしろその芸当を美しいと思う。

 …自分を生かしてくれるのであれば!



 リアはゲンナリした表情で目を逸らすと…

 来訪者に警戒しながら構える兵士の目に、

 その来訪者がいつもの冒険者で有る事が視認できる所まで来た事で、

 相手が気付いてくれた事を確認して、手を振る。


 何気にリアは表面が良いので、屈強な兵士たちには人気がある。


 それでも規則は規則であるので、兵士に見せる為の通行手形をシュミカから受け取ろうと振り返ろうとするリア。



 …アサヒは安心感と共に、目に映った光景を口にも出さず…ただ思い浮かべただけで有った。



(でも…確かにすげぇ…あれだけ大きいと、

 もはや竜だなぁ…。

 …あ!)



 荷車を引き、竜人様の背中から凄まじい殺気を感じた二人の荷物は血の気が引くのを感じた。




「お~ぃぃ、人間~……

 今ぁ…、何を考えたぁ~~?」




 無駄に察しの良い竜人様にはタブーが多い。


 個体差はあるのだろうが、


 無防備すぎる逆鱗は微風よりも細やかな…吐息でさえ敏感に察知する…。



「ん~!

 アナタは…今、何を考えた!」



「いや、そーゆーお前も頭には浮かんだってことだろう!?」



「ふん!」




 そう叫ぶのと同時にリアは荷車をサンドワームが暴れる戦場へと吹き飛ばした。


 門番の兵士達は騒然とし、街道から外れた荷物を何とかするべく奔走する。



「ミミズなんかと一緒にするんじゃ無いわよ!くそ人間ごときがぁ!


 ぶち殺すわよぉ!!!



 …ふぅ~~~…。

 


 …あ、あれ?


 シュ、シュミカ?あれ?あ!


 シュミカぁぁ~~!!」



 一瞬でブチ切れて、

 一瞬で我に帰ったリアは自分が戦場へと誘った愛する者と、

 呪いの短剣が刺さった換金できる荷物の為に走り出した。



「あ~ん、シュミカぁ、ごめんなさい~!全部アサヒが悪いのよぉ~~!」



 …ヒュぅぅ~~~…と飛んでいる荷車にただただ同じベクトルで進んでいるだけの愛人と荷物は、

 ただただ成り行きに任せるしかなく…それでも魔法が使えるシュミカには少しの余裕はあった。


 …あった。



「ん、知ってる…。

 大丈夫だよ、リア…

 この男だけが本当に悪い。」


「いやいや、おいおいおい~~!」


「ん…慌て過ぎ…あれ?

 精霊さん…精霊さん!?」

「おい~!落ちるって!」


「ん…ふふ…、

 テリトリー変わってた…友達の精霊さん居ない…。」

「はぁぁ~!?」


「シュぅ~ミーカぁ~~!」

「ん~~~!落ちる落ちるぅ!」



 …ドスン!と衝撃が二人の荷物に伝わる。思っていたほどでは無い衝撃が。


「おやおや…大丈夫かい?

 ビックリしたじゃないか…こんな所に飛んで来るなんて…。」



 衝撃は有ったものの、

 砕け散った荷車を目にしながら二つの荷物はその衝撃で倒れ込んだ固く温かい筋肉に包まれていた…。



 周囲には異様な匂いが立ち込めている。獣との戦いの後の匂いだ。


 アサヒはこの匂いに慣れはじめてはいたが、当然嫌悪感は無くならない。

 だが、その中で生きている事を確認し…自分の胸に当然の様に刺さっている呪いの短剣の事も思い出した。


「ぐああ!いったぁぁ!」


「うわ!剣が刺さっているじゃないか!何が有ったんだい!?」



 二人を助けたのであろう筋肉の塊の様な男はもちろん冒険者であり、

 この世界の理を理解しているので、

 様々な状況をシミュレートしながら慌てふためいている。



「あ~ん!そこの筋肉の人~!

 シュミカを助けてくれたのねぇ~~!ありがとう!」



 やがて辿り着いたリアは男の両脇に横たわる一つの物が存命である事を理解して一瞥し、

 もう一人の愛する者に手を伸ばす。


「ん…生きてる…?あれ?

 とおちゃ?とおちゃ~~!!助けてくれた…あがとぉ~!」


 まだ頭が混乱しているシュミカはその男を父親と錯覚したように、しがみついていた。



「よ~しよし、でもゴメンよ…私は君のお父様では無いんだ。

 大丈夫かい?頭は打ってないと思うけど…。」



 リアは伸ばした手を止め、暫く思考を巡らせると…



「す…素敵!

 あ、貴方、独身かしらぁ!?」


「は?いや、そうだが…何か?」


「じゃあ番いになりましょう!

 貴方はお父さん!アタシがお母さん!

 筋肉は好きよぉ!その子がアタシたちの子で、アタシの恋人なの!」



 突然錯乱したリアを静止する為に慌てる男はチラッとアサヒに目を向ける、

 その視線の先にあるのは虫の息の塊なのだが…



「君!なんとかして…て、い…いや、君は胸に剣が刺さってて…あぁ、呪いクエストだな…なら大丈夫か。

 サンドワームは…もう動かないな…。


 よし、問題無い…。

 さて、お嬢さん!少し落ち着きたまえ!」



 そうこうしながらも混乱しているリアをなだめた男『ギリア』は、

 皆が恐れて敬遠していた先程の巨大サンドワーム討伐を単身で受けたうえに完遂してしまう程の正義感と筋肉の塊で、

 多少知名度の高い冒険者であった。

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