そして、回りだす夜に。その1
無事にティルスガルへと辿り着いた頃には日が落ちていた。
ヒュウミナロゥにコッソリと、
『問題は無さそうだが警戒だけは解かない方が良い』
と念を押されていたラーゴイルとサラシェを教会に送り届け、
少しの間だけシュミカが精霊に頼んで悪意の有無を確認させていた。
「ん…大丈夫っぽい。
あの二人に僕達への悪意は無いって…。
アナタが『客人』である事も報告しないと二人で誓っている。」
「まぁ、それに関してはとっくにバレてる筈よねぇ。
ずっとこの街に居たんだからぁ。」
当然である。
それでも隠そうとしてくれる事実が確認出来ただけで、
あの二人を信じる理由にはなった。
「それよりぃ~、
ただ飯ただ酒がいただける店って何処よぉ~?
早く案内しなさいなぁ~♪」
別れのキスの余韻を思い出す様に、
人差し指で唇を弄び続けているリアは心の穴に満たす酒を欲する。
「…ああ、
割と近くだから助かったな…。
エイナは眠く無いかい?」
アサヒは手を引くエイナが目を擦りながら船を漕ぎ始めているのを見て、
ギリアに多少ではあるが鍛えられた筋力の使い道を知る。
『お姫様抱っこ』
以前のアサヒではなし得なかった行動への達成感と、
抱き上げた直後に寝息を立て始めたその小動物に心は溶けた。
「ん~!ん~!
かわよ!
で、そのお店は静かなの?」
同じく眠るエイナにメロメロのシュミカの質問に対する答えは…
NO!である。
時間的にもちょうどライブをやっている頃合いだ。
「とりあえず先に宿だけでも決めとかないと…。」
クルセイトのクエスト報酬は当然ギリアが受け取り、
三人にも分配されるが…
あまり大金を渡すと働かなるからと、
アサヒの提案でギルドに預けて一度に下ろせる金額の上限を決めている。
よって、
勇者クラスのクエストに同行しはしたが、
日に使える金は限られる。
お小遣いは自分で稼ぐしかない。
とりあえずの拠点を決めておかないと生活が安定した浮浪者になってしまう。
それはエイナの教育上避けておきたい所だった。
「え~…
そんなのはアンタが適当に決めてよぉ。
お店の場所だけ教えてくれれば良いのよぅ!
どうせ後で来るんでしょ?」
気にもしない癖に決める段階でアレコレ言われるのも面倒臭い。
それならば一存で適当に決められた方が良いかと、
アサヒは折れる。
「了解。
どうせ寝起きするだけだし宿は安いのにするからな~。
店はあの角を曲がって…」
店への道筋を伝えたアサヒは適当な宿を探す。
(前に使ってたのは遠いからなぁ…
酔い潰れたリアを引きずって帰るには近い方がいいよなぁ…。)
それでもアサヒは、
腕の中のエイナには出来る限り安らげる環境を用意したいと思う。
『天使教』…
そんな人を従える様な天使より…
この腕の中で寝息を立てるエイナの方が余程、
天使という名が相応しいかと腕に力を込めた。
「何よぉ…
全然静かな店じゃないぃ。」
言われた通りにリアとシュミカが辿り着いたゴムール。
人で多少賑わってはいるが、
それほど騒ついている様子でもなく、
大きな音が響いている訳でもなかった。
「いらっしゃい~、
でも御免なさい。
今日はライブは無しの貸切なのよ~…。
…あら、アナタ竜人さんね?
もしかして関係者さんかしら?」
スキンヘッドの大男はカウンターで談笑しているリスの獣人を呼び寄せた。
「…あぁ、
スティルノアの放蕩娘…
カディス坊に言われて来たか?」
その顔を見て嫌な感情を必死に隠してリアは取り繕う。
「…え~、
せ、先生もお元気そぉでぇ~…。
なんでここにぃ~?」
「ん…リア、
知り合い?」
「ちょぉっとねぇ~…。
…なんかこの街…に来てから嫌なのとよく会うわねぇ…」
リアにとってのクーロウア=バエレとは、
帝国の上級魔道士ではなく…
学校での厳しい鬼教官でしかなかった。
とはいえ、
カディスの別動隊という事で予想はしていたのだが。
「恩師と再会して嫌なのとは何じゃ!
相変わらず生意気な小娘が…
元気そうで安心したわ。」
背の低いリスの獣人を見下ろして、
リアも微笑んで溜息をつく。
「神職がおると聞いとったから、
精霊は無事に誘導してくれたようじゃな。」
シュミカは納得した。
「ん…
それであの時の精霊さん達、
やたらと山岳地帯を勧めてきたの…。
僕はシュミカ=エーリデウルス。
よろしく…ね。」
似た様な背丈の若見えの賢者に手を伸ばす。
「エーリデウルス⁈
どうりで神職という訳か…。
ワシはクーロウア=バエレ、
クーロと呼んで構わんよ。
しかしこんな所でもあの一族に会うとは…
役目を終えて、
血が途絶えそうだと聞いたが…。」
目を丸くして髪がブワッと広がるシュミカ…。
「ん!
何か知ってるの⁈
役目を…終えた…って…。」
幼い頃から探し求めていた情報の手掛かりに大興奮していた。
「知らんのか、
分家か何かかな?
まあ、とりあえず座れ、
時間はあるから知る事は話してやる。」
そう言うと手を挙げ、
店員を呼ぶ。
「いらっさーい、
看板娘のニリちゃんやで〜♪
なに飲んますの〜?
…て、あれ?
似顔絵の人らやん!
無事会えたんかいな、良かったね〜。」
何の事かわからないリアとシュミカはクーロに目をやる。
「カディス坊から聞いたじゃろ?
割と本気で探し回っておったんじゃよ、ヤツは…。」
何となく納得した二人は、
大した感動もなく…
「ん…とりあえず強めのお酒を。」
「樽で。」
「樽で⁈」
苦笑いのクーロは祝杯も込みでそのオーダーを許した。




