そして、暫しのお別れを。その2
街道に合流する手前でギリアは巨大なサンドワームと戦っていた。
どこからか来たのであろう旅人が、
知らなければ当然そうするであろうとするショートカットをして、
奴らのテリトリーを犯し…
馬車ごと巣に運ばれる所に遭遇してしまったのである。
アサヒ達は安全第一として結界に守られた街道からそれを見ている。
一度観た様な光景だ、
残されたアサヒとシュミカは…今度はリアを刺激しない様に。
(無心で眺めよう!)
(ん、アレはミミズ!)
と、心に言い聞かせる。
ソレを背後から見ているカディスの部下、
ヒュウミナロゥも勿論竜人なのだが…
面倒臭い思考の竜人のせいで、
被害を被っている現状に溜息をつく。
(なるほど…これが終わったら、
遠慮なく贅沢に遊ばせていただきますよ…
カディス様!)
そんな竜人の今後の心労など知らない二人は、
呑気に観戦している。
「なぁ…前に見たのってアレよりおっきかったよな?」
「そぉだったかしらぁ?
アタシぃシュミカに夢中だったからぁ…」
「ん…それで、
とおちゃに出会えたのは奇跡。
…でも、本当に死ぬ所だった…
あんな近くにも飽食種の精霊が居るんだね…怖い大陸。」
少しずつ戦場が遠くなっていっている気がした。
「でもギリアさん、
かなり苦戦してないか?
小物も集まって来てるみたいだし…ヤバそうじゃない?」
「ん…運動したいってエイナもついて行ったから…
心配ないと思うけど…。」
心配しているアサヒとシュミカを尻目に、
ニコニコと眺めているリア。
「ん~、
お姫ちゃんが優勢だと思うんだけどねぇ~…。
どちらが勝つにしても、
ベストバウトじゃな~ぃ?」
言っている意味のわからない二人をよそ目に…
ヒュウミナロゥは高待遇に目が眩んで、
とんでも無い役割を引き受けてしまったと震え上がった。
暫くして周囲にいるサンドワームを駆逐したギリアとエイナは、
救出した旅人を保護して街道の結界内に戻ってきた。
「ギリアっち~、
あんなのに手こずるとか…
無駄なお肉がまた増えたのかな~?
ぷふふ~!」
「君がちょこちょこ邪魔したり攻撃してきたりして来たからだろう!
流石に怒るよ、私も!」
…どうやらエイナはサンドワーム側に組みして遊んでいたらしく…。
それでも餌にされようとしていた旅人の生き残り二人は、
馬車や馬や荷物を失いはしたが…
何とか街道の結界内へと救助された。
その身なりを見たリアは顔をしかめて毒づく。
「…アンタたちぃ、
もしかして天使教~?」
あからさまに嫌悪感を表に出す竜人の威圧に、
彼らは助かったのか新たな試練にぶつかったのか…
混乱してオタオタする。
「こら!
私はそう言うのは嫌いだぞ、
リア君!
君達の派閥間での関係は知っているが…
これは思想が関係ない、
ただの私個人の人助けだ!」
エイナとの事で多少気が立ったままのギリアは、
流れでついリアに対しても声を荒げてしまった。
余計に混乱した男女の旅人二人は狼狽し、
ギリアでもこんな風に声を荒げる事もあるのだと…
アサヒとシュミカは背筋に緊張の糸をピンと張り、
リアは顔、耳、角、羽…肩をシュンと重力に委ねる。
ついでに視線と目から溢れる液体も。
「ご…ごべんなひゃい…。
嫌わないでくだしゃひぃ~…。」
そんなレアなリアを、
シュミカは鼻息を荒くしながら、
その光景をしっかりと心に保存した。
「あ…ごめんよ、
ちょっとソコの坊主の悪戯が余りにもアレだったので、
つい気が立ってしまっていたんだ…。
泣かないでおくれよ…。」
アタフタするギリアを見てシュミカはイライラを募らせ、
二人を引き剥がす。
「んんっ!
このヘタレ『むにま』!
リアは返してもらう!」
シュミカはそのまま、
力無く凹むリアを引き摺って荷台に戻り…
アサヒとヒュウミナロゥが引き上げる。
女性陣二人を荷台に残して、
男性陣二人は少し離れてしゃがみ込む。
「…面倒臭くないっすか?」
「面倒臭いですよ。
でも貴方の上司も面倒臭そうだ。」
「…そっすね。
兄皇子達の後始末ばかり自分から名乗り出て媚びて…
我等には力を示す様に前線で背を見せる。
本当に不器用で損な役割が好きなバカ皇子です。
でも我々は大好きですから…。」
「…まあ、
お互い待遇の違いはどうあれ…
そういう事じゃないですかね?」
微笑み合った後、
同時に溜息を吐いた二人の前では…
巨体の勇者と小さな強者が戯れ合っている。
「あ…あの、
助けていただいて…
ありがとうございました!」
本来中心に居たはずの助けられた二人は礼も言えずにほったらかしだった。
彼が勇気を出して放った言葉にみんな現状の整理を忘れていた事に気づき、
ギリアとエイナは我に帰る。
「誰~?」
「忘れてた…ウチのが失礼したね。
大丈夫だったかい?」
シュミカに慰められていたリアは…
今度は『ウチの』という言葉を聞いて舞い上がる。
(…本当に忙しいヤツだな…)
その頃ティルスガルのギルドに訪れたのは、
一人の魔道士の女性であった。
「あの~…
この街のエレメンタルダンジョンに~
『琥珀竜』の幼生体の情報があったと聞いたのですが~?」
周囲に与えるプレッシャーが大きすぎる為、
場は静まり返る。
先の戦争で傭兵として魔王軍に組し、
『雷帝』と呼ばれて祖国の一部を蹂躙したユリィネル=ソーシャイハは…
その二つ名とは裏腹に、
おっとりとした口調で尋ねた。




