そして、竜人カディスは語る。その2
響く奇音と叫び声。
ルキリ=スターニーは、
目の前の惨劇に硬直して目を閉じる事も出来ずにいた。
突然の出来事で咄嗟に張った結界はルキリ本人のみを包み込み、
精霊達は彼女の魔力が尽きようとも代償を求めず…
その存在を懸けて愛するルキリ=スターニーを守る事だけに殉じた。
大きな黒いソレは家族達を切り刻み、
小さな黒いソレは収穫した果実の様にそれを運ぶ。
あっという間に眼前に広がる黒い絨毯は、
結界に守られたルキリ以外の全てを平にならし…
その結界が解けるのを待っている。
「…ゴメンなさい…ゴメンなさい…
ルキリだけ…ゴメンなさい…ゴメンなさい……」
どれほどの時間そうしていたのか…
突然弾けた結界は周囲の砂漠アリを吹き飛ばし、
空から来た竜人の影に彼女の身を委ねた。
『…っ!!』
短い詠唱があり、
跳ね起きたルキリに先ほど見た悪夢の記憶は消え去る。
混乱して周囲を見渡す彼女の前には小柄でローブを纏った、
一目で思い浮かべるのは『リス』だとわかる獣人がいた。
「気分はどうだい?
ルキリ=スターニー。」
大きな尻尾を振る彼女は、
額の汗を拭いながら落ち着いた口調で問う。
「あれ?
クーロ様じゃないか…ガトダトも…。
ここは何処だい?」
「…だから、勝手にまとめんで下さいよ…。」
「…疲れが溜まってたんでしょう?
倒れちゃったから休ませてもらってるんすよ。」
ガトス=コーチャリイとダトス=ガンノデアは、
誤魔化しながら胸を撫で下ろす。
「ワシも疲れたから下で飲み直しておるよ。
あまり無理はするなよ、ルキリ=スターニー。」
その見た目とは裏腹に年老いた声と口調の獣人、
クーロウア=バエレはそのVIPルームから退出する。
「なんだい、ここは…?
凄い部屋だね…。」
ゴムール ティルスガル支店の完全個室。
そこを使わせてもらっていた。
「カディス様ズルいっすよね~、
いつもこんな店で飲んでたらしいっすよ…。」
「まぁ、
そのお陰で偶然クーロ様が居てくれて助かったっすけどね。」
慣れないフカフカしたソファに落ち着かないルキリは、
掛けられていた布を床に敷いてそこに倒れ込む。
「へぇ~、
そうなのかい?
ルキリはもっとガヤガヤして賑やかな店の方が好きだけどね~。
固くて冷たい方が寝やすいしね~。」
下着だけの姿を隠そうともしない彼女に別の布を掛け、
今度はうなされずに穏やかな寝息を立て始めたその姿に二人は安堵する。
「パナルマさんがまさかこんな所で飲み屋の支配人とか…。」
「世界を支配できそうな見た目のオッサンがママ…とか…。」
『だーはっは!ヤベェ!』
「今回の遠征で最大のネタだぜ!」
「帰ったら皆んなに報告だな!」
「おう、
無事に帰れたらな。」
静かに部屋に入って来ていたパナルマ=ハルロカカは、
咥えていたタバコを一気に吸い上げて床に吐き落とす。
迫ってくる指をパキパキ鳴らす音を背後に感じながら…
二人の竜人は振り返る。
「さて、
色々詳しく聞かせてもらおうかしら?」
その頃、山岳地帯の砦では…
「あちらの大陸のギルドでお前達の捜索願いが出ていてな。
名前と似顔絵ですぐにわかった。
それでギルドを通してキャラバンの居場所を知って…
オアシスの街に向かっているとわかった。」
「どうしてよぉ…
アタシ達はこっちの大陸にいるのに…
こっちのギルドでは見なかったわぁ?」
簡易的な砦である為、
少ない灯りで薄暗いその部屋のせめてもの贅沢なのだろう。
高級そうなソファに深く身を預けて、
カディスはそれ以上に深くため息をつく。
「あの大所帯であったからな…。
書面を見たところ、
いつどこでお前達と離れたのか気づかなかったらしい。
まさか船にすら乗っていなかったとは…。
クーロに占って貰って驚愕したぞ…。」
「ん…全部この男のせい。」
シュミカは膝の上で眠るエイナで遊びながら、
しれっとアサヒに責任を押し付ける。
元はと言えばこいつらの悪戯のせいで乗りそびれたのだが…
これ以上彼女の心を掻き乱す気にはならなかった。
(…いいよ、全部俺のせいで。)
「…。
魔王協会がけしかけてきた雑魚どもの残党の中に天使教の者が居てな…
こちらで天魔会が『客人』達に害を成そうとしている事がわかった。
奴らは己らが罰を受けても精霊を守っているつもりの様だが…
巻き込まれる他の民達にはトバッチリであるからな。
それで、その潜伏先を割り出して叩きに来た。
もちろん我が請け負ったのはお前達の捜索もついでに出来るからだが…
予想以上に早く見つけられて良かった。
…あのキャラバンも、
我にとってはリア目当ての腰掛けではあったが…
良い思い出もある。
彼らの事をお前達に早く伝えたかった…。」
軽く震えながら身を寄せ合うリアとシュミカ。
「そう言えばお前…アサヒといったか?
我は知らぬ故、気に留めては居なかったが…
捜索対象の似顔絵にあったぞ。
どうりで見覚えがあった訳だ。
そうか、お前も『客人』か。」
その言葉を聞いたアサヒは、
瞬間的にこの世界との間に有った壁が崩れ去るのを感じた。
涙が溢れて来て止まらない…。
そして…
アサヒ=ハザマは改めて、
この世界の住人の一人になっていた事を受け止めた。




