そして、思い出は黒い絨毯の下に…。その4
久々の再会という割には多少重い空気を纏ったその男、
『カディス=レイヴン』は雰囲気だけでリア達を制して言葉を探していた。
その隙にアサヒは二人の知り合いである事だけは理解し、
シュミカに小声で尋ねる。
「何?
偉い人っぽいけど…どう言う関係?」
「んん~…、
簡単に言うと西の大陸最大の帝国レイヴンの皇子で…
リアの幼馴染?らしい。
アナタが来る前までリアを追い掛けてキャラバンに居て…
魔王協会が帝国にちょっかい出して来たから戦争に駆り出されてた…。」
聞き覚えがあると思えば、
クルセイトでディルが何かを言っていた気もした。
何かを言いづらそうに口をつぐむカディスにイライラしたのか、
「んもぉ~…何よ、なんなワケぇ?
やっと追い払って清々してたのにぃ…。
アタシにはもうシュミカとこの人がいるのよぉ♪」
と、ギリアに腕を絡ませて見せつけるリア。
「んな⁉︎
なんと!何者だ、その男は⁉︎
我の居ない数年のうちに…ぐむむぅ…決闘を申し込む!」
アサヒは何となくの人間関係を把握した。
「いや、ちょっとやめてくれないか⁉︎
私は現状はただの保護者だよ!
やめないか、リア君。
こんな所でややこしくするのは勘弁だよ!」
狼狽えるギリアを困らせてやろうと目を光らせる小悪魔!
「…いいね、
じゃあボクはこっちのオジちゃんにつくよ。
決着をつけよう、ギリアっち!」
目を輝かせて立ち上がったエイナはカディス側についた!
「…すまない!」
場は盛り上がりかけていたハズであったが、
エイナの乱入で我に帰ったカディスは膝を崩して両手をつく。
「…順を追って話がしたい。
そちらの方も我の恋敵とは言え高名な戦士と見た。
同席を願いたい。
よろしいか?」
リアやシュミカの反応を見る限り、
また変な奴が現れたと警戒していたアサヒだが、
その紳士的な態度に考えを改める。
「良い人そうじゃないか?」
「…ん…、
おかしい…
いつもはリアを見たらすぐに足の匂いを嗅ごうと飛びつくはず…。」
「聞こえているからな!
我はその様な事は可能な限り控えておるわ!」
…選択肢にはあるらしい。
「少し家族の話がしたい。
この者達は大丈夫であるから席を外してもらえるか?」
カディスが周囲の兵達に目配せをすると、
何かの事情を把握しているのだろうか…
それぞれが何の疑問もなく敬礼をして部屋を出て行った。
改めて適当に椅子に座り、
少しの沈黙の後にカディスは口を開く。
「リアよ、我はお前が好きだ。
これは愛である。」
真顔で言う側もそうだが、
呆れ顔で受け流せる程の長い付き合いである事がわかる。
「はあぁ?
わざわざそんな事ぉ~?
嫌になるくらい知ってるわよぉ!
この、
愚カディス!」
…なんだこの時間は?と、
突っ込むことの出来ない程に周りの空気は重い。
「…我は帝国末弟でチヤホヤされててなぁ…。
対等どころか格下のように接してくれるリアに憧れた…。」
「…何の昔がたりよぉ…?」
少しの不安を感じながらリアは息を飲む。
「お前を追って入ったキャラバンでの生活は…
本当に…楽しかったのだよ!
何でかなぁ⁉︎
なんでもっと急がなかったのかなぁ⁉︎
会いたかったハズだったのに…
愛の形とは…沢山あったのだなぁ…!
…みんな死んでしまった。
あの、我にとっても愛おしい存在となっていた家族達は…
全滅した…!」
突然叫びながら号泣する竜人の青年を前に、
アサヒ達三人はその言葉の意味が理解出来ないまま一言だけ漏らす。
『は?』
…物語は少しだけ未来に場を変える。
『閑話~インタビュー ウィズ ノーイラ=タスツ』
とある控室。
「あ~……自分すね、
小さい時に街に来たキャラバンのお姉さんが大好きでぇ~……。
その人達が街に滞在してる間中、
ず~っと後ろを付いて回ってたんすよ。
何やってても楽しそうで、
笑うと太陽みたいで……。
自分、昔から歌うのが好きでぇ…
皆んなが飲み会やってる時とか、
火を囲んで騒いでる時にも、
気付いたら勝手に歌ってたんす。
そしたらそのお姉さんが、
もの凄く喜んでくれて……。
『あんたの歌、大好きだよ~っ!』
って、頭を撫でてくれて……。
それが……
すっげぇ、嬉しくて。
あぁ、
歌うってこんなに人を笑わせるんだ、
って思って……。
で、気が付いたら、
“唄うたいになりたい”
って、思ってたっすね。
……ま、
そのキャラバンは、
すぐに次の街へ行っちゃったんすけど。
でも、
あの時もらった言葉と、
あの時の景色は……
ずっと、胸に残ってて。
でもその姉さんは、
届かない所に行っちゃって…
だ、だから…だからこそ、
自分が歌って、
誰かの旅の途中の思い出のひとつになれたらいいなぁ……
って、思ってるっす。
あ、時間っすか?
じゃ、行って来ますっす!」
スタッフの呼び出しに応える彼女は声援溢れるステージへ。
今はまだ、その訪れる再会と別れを知らぬまま…
歌姫と呼ばれる日を夢見ながら突き進む彼女は、
ティルスガルの公園でくしゃみをしていた。
場は戻り、
理解不能な事を言う帝国皇子は、
部下達をその場から外させて土下座までしている。
「…順を追って話したいと言った。
聞いては貰えぬか?」
その覚悟に嘘偽りの無いことを…
それでも認められないリアとシュミカはギリアにしがみついて身動きが出来ずにいる。
それ以上に人間関係の分からないギリアは帝国皇子を見下ろしたまま動けずに固まっていた。
「オジちゃん…悲しい事あったの?
ボクもね…あったばかりなんだよ…。」
エイナはそっとそれぞれの心の糸を手繰り寄せ、
目の前の泣いている『オジちゃん』へとつなぐ。
「すまない…君は心も強いな。」
「強くしてくれたんだよね、みんなが。」
強者とは認めたが見た目が小さな少女のエイナの言葉に、
帝国皇子は我を取り戻す。
放心状態のリアとシュミカの前に力強く立ち直したカディスは、
改めて頭を下げる。
「リア…あの大陸出身のお前なら知っているだろう?
『砂の国の蟻の巣地獄』…。
親方殿達は…あの黒い絨毯の下に敷かれてしまった…。」
半狂乱のリアは叫ぶ。
「ありえないわぁ!
あんなに用心深い親方がそんな情報も知らないなんて!
アタシが居たら絶対に止め…
アタシは…そこに居なかった…。」
「どうしてその様な迂闊なルートを進んだのか…
それについては調べさせている。
伝えたいことは多くあるが…少し休め。
簡易ではあるがこの砦は快適だ。
任務も終わり引き払うだけなのでな。
好きに使うといい。」
そして、恋敵の胸で泣き喚くリアから目を逸らすカディスは…
全力の謝罪の思いを込めた手で、
固まったままのシュミカの肩を軽く叩いて部屋を出て行った。




