そして、想いのレシピを胸に。その4
この国での最後の夜である。
アサヒ達だけの話ならこうはならない。
しかし溺愛されている姫様の旅立ちの前夜となれば話は違う。
城内の者総出での宴となった。
とは言え十数人。
小さな国の小さな城なのでこれで回っている。
「…なんか宴会してばかりだなぁ。
大丈夫なのかこの国…?
国民が飢えたら大変な事になるぞ…。」
「ん、大丈夫。
食べる物が無ければ絵に描いた餅でも食べれば良いじゃない。」
(俺が思い浮かべた歴史より酷い事を言ってる⁉︎)
軽く背中を叩かれたアサヒが振り向くと、
そこにはグラスを差し出すディルがいる。
「この国を心配してくれてありがとう!
でも問題ないよ。
普段はしっかりしてるからね。
お客さんが珍しくてみんなハシャいじゃってるだけさ!
…エイナが居なくなれば、
もっと静かになる。」
そう、その件についてアサヒ達は…
一部のメイドさん達から殺意に似た視線を感じている。
肩身の狭さからオドオドとグラスを差し出すアサヒに、
ディルはそのグラスを当てた。
『チンッ!』と音を立てたその行動は…
次期国王からの、
周囲が自分の客に敵意を向ける事への『静止命令』である。
一瞬で淀みが晴れる感覚と、
周囲に距離を置かれる居心地の悪さが押し寄せる。
「あ…ありがとう御座います。」
「ハハハ!
君はオレの友人だ。
この国での思い出を楽しい物にして欲しいだけさ!
ほら、お呼びの様だよ。」
と指差す方からメニクト=チャイルがやって来る。
「ディルディル~♪
シュミシュミ達~、借りていーいー?」
バッ!とその小さな体を抱き締めたディルは、
メニに頬擦りしながら言う。
「もちろんだメニメニ!
オレの全部を君に譲ろう!」
「え~…?
き~も~い~よ~…。」
なるほど。
レイヤを好き勝手にさせたのはコイツのせいか…と、
アサヒ達は納得する。
(いや、本当に大丈夫か?
この国…。)
存分にメニをスーハーしたディルはスッと身を整え、
「この国の最後の夜。
存分に謳歌して行ってくれたまえ!」
と、先ほど威圧してしまい隅で固まるメイドさん達のケアに向かった。
「シュミシュミ~、アサアサ~。
来て来て~♪
リアリアが成し遂げたよ~~。」
そう言われて向かった席にはぐったりしたリアがいた。
「ん…リア、お料理スキル…上がった?」
「シュ~ミ~カ~!
辛かったわぁ!辛かったのぉ!
慰めてちょうだいぃ~!」
シュミカを見て飛びつき、
抱きしめてスーハーするリアを見てアサヒは思う。
(お前この国に嫁いじゃえよ…)と。
「手順と分量と温度と時間を叩き込んだだけだよ~…。」
メニが言うその全てが、
リアにとっての鬼門である。
お陰で落ち込んだ気持ちも忘れた様で安心する。
が、
そこへ荷造りを終えてクルクル回るエイナと現れたのは、
タイミングの悪いギリアであった。
一瞬だけ気まずい空気が漂うが…
「遅いよ~ギリギリ~。
リアリアがギリギリの為にギリギリしながら
ギリギリのメンタルでギリギリ間に合ったミートパイだよ~。
食べて~♪」
奥歯を噛み締めたくなる…。
再びリアはシュミカの胸に顔を埋めながら言う。
「…メニクトちゃんがぁ、
どうしても覚えろって言うから頑張っただけよぉ…。
お姫ちゃんの為よぉ!
沢山あるから、
あんたは失敗作の方を片付けなさいなぁ…。」
ルナナラに抱き抱えられ、
スチラルにア~ンしてもらうエイナは目を輝かせて…
「とっても美味しいよ!
メニメニと同じ味だ~♪
これお姉ちゃんが作ったの?
じゃあ旅に出ても食べれるんだね⁉︎」
大絶賛の声に悪い気はしないリア。
「そ…そう?
じゃあ…時々作ってあげても良いわよぉ。」
「本当に⁉︎
リアお姉ちゃん、だぁ~い好き!」
その声も嬉しく、
ギュッとシュミカを抱く腕も強くなるが…
その言葉を聞きたいのはその声ではなく。
「本当に美味いじゃないか!
失敗作でこれかい?
成功作を食べるまで迂闊に死んでなんていられないね!
…必ず戻ってくる理由が増えたよ!
必ず…君達の元に帰る。」
(何だこの三文アメリカンコメディのクソみたいなセリフは…。
…刺さるじゃないか。)
「じ…じゃあ…、
それまでもっと腕を磨いておくわよぉ…。
気をつけて行ってらっしゃいなぁ…。」
これ以上胸元を湿らされてはかなわないと、
優しくリアの頭を撫でたシュミカは肩を抱いてリアを振り向かせる。
目の前で力強く跪いたギリアは、
用意したペンダントを取り出してその首にかけた。
「ああ、
必ずそのミートパイが並ぶ食卓をみんなで囲もう。」
個人差はあるがこの世界では最強クラスの種族『竜人』は、
個人鍛錬の果てに人種として最強クラスに至る『勇者』の唇を奪う。
また再会する。
その契約は今この地で結ばれた。
「あ~、良いねそのロケット~。
メニのレシピメモ入れられそうじゃん~♪
作っとくから~、
ちゃんとその通りに作るんだよ~?
リアリア~。」
その場の空気の照れ臭さを打ち消す様にメニは笑う。
(どこまで完璧なんだ、この子は⁉︎)
翌日、
例の森へと続くゲート前でアサヒ達を見送ろうと、
この数日間で縁の有った人達が集まる。
「アサヒ様、
あちらで王がお呼びです。」
完全に立ち直り、
明るい表情のルナナラがアサヒだけを呼びに来た。
呼ばれた先には騒ぎにしない為か、
護衛は居るが普通のイケおじの服装の国王がそこに居る。
「アサヒ=ハザマ。
エイナをよろしく頼む。」
と頭を下げられてアサヒは狼狽えるが…
「お主はレイヤ君が信じた者だ。
他の守銭奴の前では渡せんからここに呼んだ。
どうかこれを持って行って欲しい。
この国で採れた最後の『エンディレイト鉱石』の結晶じゃ。」
と、王は握り拳大の『石』を渡す。
「え?
はぁ…。」
見た目は本当に石である。
最後の嫌がらせなのかもと思うが、
ここは穏便に済ませる為に乗っておくべきだろう。
「あ、有難う御座います!」
「一度一人でギルドで正式に鑑定してもらえ。
エイナの旅費くらいにはなろうよ。
それと、
この世界では『客人』に手を出すと災いが有ると知れ渡ってはおるが…。
中にはそれに抗おうとする者達もおる。
それらにこそ気をつけよ!
それと…昨夜は有難う。」
そう、あの後アサヒやギリアと寝たいと言うエイナを諭し、
一度お別れするのだからと親子の時間を薦めたのはアサヒであった。
「心より感謝する。
では、良い旅を。」
ゲートの方に戻る様にアサヒを促し、
変装した国王は守られながら集まった人達に紛れて行った。
そして、ゲートは開く。
「行って来まーす!」
楽しそうなエイナを追い風が包む。




