そして、想いのレシピを胸に。その3
『愛する相手。』
今のギリアにとってのそれは家族の様に接する仲間であり、
シュミカは勿論だが、
リアに関しても娘の様な存在を意味していた。
この際アサヒはどうでもよい。
本人もそれで良かった。
拗ねた長女のご機嫌取り。
残される側としては、
キチンと済ませてから旅立っていただきたい!
カラス騒動の事を聞いたからか、
ギリアが買って来た物は奇抜な見た目の髪留めばかりだ。
「ん…高価な物を沢山買えば良いと言うわけでは無い…。
リアの頭をどうしたいの…?」
「…よく知らないし苦手なんだよ、
こう言うのは…。」
シュンとするギリアにシュミカはため息を吐く。
「ん~、
なら最初から相談するべき…。
僕が選ぶから一度全部返品…だね。」
「え~?
せっかく買ったのに…お店の人に悪いよ…。」
勿論ギリアが必死に働いて稼いだ物だが、
金持ちの無駄な浪費にイラッとしたのか…
仕方の無い事とは言え自分達を置いていく事に対して、
多少の我儘をぶつけているのか…
髪留めを全て奪い取ったシュミカはそれをアサヒに手渡した。
「ん!
ならこれは預かっておく!
またリアがやらかした時の保険…。
お金が無くなったら生活費として容赦なく売る!」
「…はい…。」
女性の気持ちへの接し方がわからないギリアは、
小さくなってアサヒの陰に隠れようとする…。
ディルがついて来ていたら、
アサヒの背中を叩いて大笑いしたに違いない。
「シュミカにも何か忘れずにお願いしますね…。」
アサヒがバレない様に耳打ちすると、
『あ…。』といった顔をする。
(危なかった!
とんでもないシーソーの支点にされるところだった…。)
「ん~!
とおちゃ、案内!
それ買ったお店、どこ⁉︎」
やがて舞い戻った店でシュミカが選んだ物は、
蓋の部分に小さな羽根の付いた筒型のロケットペンダント。
「ん!
これ可愛い!
リアの小さい翼とベストマッチ♪」
普通に良いデザインでメモなんかも入って便利だが…
アサヒの知るそれは映画などの物語での小道具として、
遺骨などを入れる物としての認識が強かった。
「骨になって帰ってきたりしないでくださいね、
ギリアさん!」
「な…なんだい?藪から棒に…。」
その後、
選んでくれたお礼との名目でシュミカにも好きな物を一つ…と、
提案するギリア。
自分への贈り物を忘れられていた腹いせも込めてか、
シュミカは店員さんに即答する。
「ん、この店で一番高いものを!」
二人は思った。
『絶対に売る気だ!』と。
その後、
この街最後のショッピングを他人の財布で楽しんでの帰城、
門番さんコンビが迎えてくれる。
「おう、お客人。」
「お帰りなさい、ギリアさん。」
この二人、
新規の来城者が居ないと適当である。
いちいち畏まられるのも面倒なので助かりはした。
「明日出発するんだって?
シフト外れてるから見送りには行くよ。」
「短い滞在でしたが、
この国は楽しんでいただけましたか?」
適当な返事を返すと二人はニヤけながら姿勢を正し…
『おかえりなさいませ!
どうぞお通りください。』
と、城の方へ手を指す。
城内に入ると少しあちこちが騒がしい。
その騒がしさの一つ、
クルクル回るエイナがギリアを見つけて飛んで来た。
「ギリアっち~!
何処にいたのさぁ!
ねぇ、何を持って行ったら良いのかなぁ⁉︎
お洋服いっぱい持って行ってい~い?」
キャンキャン吠える仔犬を、
優しく叩いたり頭を撫でたりして嗜めるギリア。
隙を見てはギリアのスネに蹴りを入れるエイナ。
仲が良いのか悪いのか…?
「ん、お手。」
いつの間にかシュミカにも懐いているエイナは、
それに従う。
「ん、ちんちん。」
満面の笑みでスカートをたくし上げるエイナ。
いつの間に仕込んだんだ⁉︎
『それは外ではやっちゃダメ!』
アサヒとギリアは同時に叫んでシュミカを睨む。
「んへっ☆」
新しいオモチャを手に入れたシュミカに戦慄を覚えた瞬間である。
そのままギリアはエイナの相談に乗るべく連行されて行った。
やれやれ…と、
別の騒がしさの方へ向かうアサヒとシュミカ。
忙しそうな厨房の片隅から聞き慣れた声が聞こえる。
「んもぉ~…なんでアタシがこんな事ぉ~!」
「シュミシュミ達はお出掛けしちゃったし~、
旅に出て好物が食べられなくなったら姫様が可哀想でしょ~?」
「知らないわよぉ…。
確かにアンタのは絶品だったわぁ♪
でも美味しい物は他にもあるわよぉ…?
それにアタシ頭使うのは向いてないのよぉ…。」
「頭使うからダメなんだよ~。
お料理はパズルじゃないし~…。
決まった事をちゃんとやれば同じ物ができる筈だよ~?
…たまに曖昧な所もあるけど~…、
そこは愛で乗り切って~♪」
何やらリアがメニに捕まっている様だった。
アサヒとシュミカにしてみれば、
残していたリアの事が多少は心配ではあったのだが…
メイドさんコミュニティの気遣いで気晴らしは出来ていたらしい。
たまたま目が合った職人さんは、
『あの子に任せておきな!』と目で合図をしてくれる。
なんとも至れり尽くせりのリゾートであろうか!
…気づかれて巻き込まれるのも嫌なので、
二人は静かにその場を退散する事を選んだ。
「あら、アサヒ様?」
適当に城内を散策していると、
城内点検をしているルナナラさんが声をかけてくれる。
「ん、メイド長!
…もう、大丈夫?」
シュミカはアサヒ以外への心遣いは達者だ。
「『メイド長』はやめて下さいよ、
それは身内同志でのあだ名ですってば…。
我々に上下は有りませんから名でお呼び下さい。
それと、お心遣いありがとうございます。
もう…大丈夫ですよ。」
その笑顔の真意はきっと本人にも知り得ない物だろう。
いつかまた突然帰ってくる感情の振り子を見送った彼女は、
今は腫れ物が落ちた様に落ち着いていたが…。
「アサヒ様…お願いが御座います。」
思いがけなく早く戻って来た振り子の重さに我慢出来なく、
上下に揺れる口角を晒す彼女が悲しくてアサヒは目を逸らす。
「はい…とりあえずヒマなんで…自分に出来る事なら何なりと。」
聞きたいのは奴の事であろう。
「その…元の世界でも面識が有ったとか?
あのや…レイヤ様と。」
「あの野郎でいいですよ。
俺もコッチで再会するまでは、
あれ程に酷い奴だとは思ってませんでしたよ、まったく!
でも…わかっていたと思いますよ。
アナタの気持ちも。
人に好かれる事に慣れてなくて逆に怖かったのかも知れませんね…。」
それはアサヒ本人にも言える事で有った。
今の仲間達を家族の様だ!
などと言ってはいるが、
アサヒ本人にとっての『家族像』と言うものが曖昧なのである。
「とはいえ…
ちゃんと顔を合わせたのは一度きりだったので、
それ程は知りませんけど…。
それなりに有名人だったから、
その辺りの話で良ければ。」
「ん、それはぜひ僕も聞きたい所である。
遠慮無く話してみよ…。」
ルナナラは『それでも構いません』との意思を、
崩れそうな笑顔と小さな頷きで表した。
知り合う事になった経緯と、
この世界に招かれてしまった夜の事…
何だかんだで知ることは少ない。
あとはコチラに来てから霊体として現れたレイヤや、
ルナナラの知る生前の暴れ放題のレイヤの話になるのだが…
彼女の気が少しでも晴れるのであれば何でもいいのだ。
「あ…ここに居たんですね、
メイド長…。」
探しに来たスチラルを見て仕事を思い出したルナナラは、
怒られるのか?と少し身構えた。
「ふ…楽しいお話の続きは夕食の席でどうぞ。
準備が整いましたので呼びに来ただけですよ。」
優しく微笑むスチラルの右拳は、
左手で押さえてはいるが固く握られている。
「スッチーごめ~ん!
今行くから~!」
アサヒとシュミカには、この二人も…
『たまにやらかす姉』と『それを補助する妹』の様で尊く見えた。
…奴に毒されている。
「城の者達も揃っております。
最後の夜をお楽しみ下さいませ。
みんなで『無礼講』…だ、そうです。」
『無礼講の拳』を見本として示したスチラルは、
ルナナラを引きずって二人を先導する。




