そして、想いのレシピを胸に。その2
眼前に酒と食べ物が揃い、
リアがモグモグゴクゴクし始めた為…
ようやくギリアは発言を許された。
「とにかく今度こそ順を追って話そうか。
確かに私はギルドの『精霊騎士団』の団長を任された事はある。
しかし、
それはかなり前の、
とある魔王協会が起こした戦争の時の一度きりだ。
そもそも『精霊騎士団』なんてのは存在しないんだよ。
騎士団として出向きはしたが、
呼称はその時の流れでそう呼ばれただけだよ。
対立する精霊同士がそれぞれに肩入れしちゃったもんだから…。」
よほど酷い目にあったのか、
ギリアは思い出してひどく首を振る。
「大きな戦乱で冒険者達が個々で挑んでもどうしようもない時に、
ギルド内で上位ランクにいる者達を招集して、
その都度編成される部隊に過ぎないんだ。
それが終われば即解散。
各々が元通りの冒険者に戻って依頼をこなして日常に帰るんだよ。
特別な権限が与えられたりする様な物じゃない。」
「そういえば…
ギリアは前回のレイヴンの時は参加してなかった様だね。」
ヘラヘラと笑いながらディルが煽る。
「招集どころか別の仕事を押し付けられたからね!
君の所の件だよ!」
(レイヴン…団長…そうだ、
ティルスガルのママが言っていた。)
「ああ、それ!
愚カディスがキャラバンから居なくなってくれたアレよね、
シュミカ。」
「ん、
僕のリアに纏わりつく害獣…鬱陶しかったね…。」
ウンウンと飲み食いが止まらない二人にディルが反応する。
「カディス…カディス=レイヴン第六皇子かい!?
そうか、君は竜人だから同郷か…。」
そう聞かれてウンザリした様にリアは言う。
「同郷どころか同級生よぉ…。
旅先まで嗅ぎつけて追いかけてくるような変質者よぉ…。」
「ん…ちなみにそこのペットが来る前の話…ね。」
「ペット言うな。
…俺の知らない先輩かぁ…そりゃ沢山居るよな…。」
当然お互いが出会うまでにはそれぞれの人生が有り、
出会いと別れを繰り返してきて今に至る訳で…
それでもアサヒは少しだけピリッとした感情を抱いてしまう。
「まぁまぁ…
それで、最近また東の方で複数の魔王が結託して何か始めたらしいんだよ。
奴らにとっては祭り気分なんだろうが、
確実に戦争になるだろうから…
せっかく事前に情報が知れたなら、
早く行動して出来る限り被害を抑えて欲しいって話なんだよ。
現状考え得る最大戦力で出鼻をへし折って来いってね…。」
と、深くため息を吐くギリア。
それに対して気持ちを汲んだのか、
「とは言え、
複数の魔王軍となると危険だろうね。
そう言う事さ。
多少は時間がかかるだろうが、
ギリアなら問題無く戻ってくるさ!」
ディルは軽く笑って両手を広げて見せ、
ギリアはその気持ちに答える。
「…何だか不吉だな…。
勝手に変なフラグを立てないでくれるかい⁉︎」
ままならない現状に二人は苦笑い。
「と、まぁ…そんな訳だから、
流石に断れないし連れて行く事も出来ないんだよ…。」
アサヒも流石に戦争となると着いて行きたくはない。
もちろん危険な事が第一だが、
更に足まで引っ張ってしまうなんて冗談じゃ無い。
「なぁ、
事情も事情みたいだし…
仕方の無い事なんじゃないのか?
俺たちが首を突込める度を越してる。」
と、
アサヒがリア達に目を移すと…
モグモグしていた。
「あぁ、そぉねぇ~。
良いんじゃないぃ?」
(軽い!怖い!)
「ん、それは仕方がない。
頑張ってくると良い。」
ギリアは呆気に取られて呆然としている。
「お腹いっぱいだからアタシ達もう寝るわぁ…。
行きましょ、シュミカ~♪」
「ん~、
待ってぇ~。」
そう言い残すとサッサと立ち上がって二人は部屋を出ていった。
「…アサヒ君、
これは…どういう反応だい?
信用してくれてるのかな…?
嫌われちゃったのかな…?」
オタオタするギリアに耳を塞いで身を低くしながらアサヒは答える。
「…すぐにわかりますよ。」
直後にドスン!と城が揺れた。
「これは…何処かの壁がやられたねぇ…。」
落ち着き払って状況を察するディルに対して、
顔が真っ青になったギリアはとりあえず言う…。
「…弁償は私がするよ。」
それに呆れたディルは…
「当然だろう。
それよりも君は自分の心の壁を取り払いたまえ。」
何も言い返せないままギリアは右手で顔を覆い、
深い深い溜息に任せてソファに身体を預けて天を仰いだ。
そのままその場は解散となり、
それぞれ用意された部屋で朝を迎える。
翌日…
気まずい中の買い出しである。
もうこの街の雰囲気に怯むどころではなかった。
アサヒもそんな気はしていたが、
リアは拗ねて部屋に篭って同行していない。
アサヒとシュミカは一応ギリアに着いて来はしたが…
今は街中のベンチでお留守番である。
「なぁシュミカ…リア、どうだった?」
目の下に隈を深く彫った顔を真っ赤にしてシュミカはアサヒを突き飛ばす。
「んななな…何を聞く!」
「…お前ら二人の乳繰り合いの事じゃねぇよ!
リア…落ち込んでるんじゃ無いのか?」
本気か冗談かギリギリのリアクションだが、
そこはそれ。
「…ん、
多分?大丈夫…
でも勿論さみしいよ。
リアも…僕も。
でも戦士の邪魔をする程、
野暮じゃ…ないの。。」
…気持ちで世を狂わせる様な事が出来るのは余程の覚悟である。
リアが何も言わずに引き下がったのは、
それ程の状況である事を理解したからだと言う事だ。
「…何か出来る事はあるか?」
「ん。
今のアナタには無い。」
バッサリである!
逆に気を使われて曖昧な事を言われても困るので…
理解ある判断だとアサヒは身を引く事にした。
「…そうだな。
リアは今ここに居ないって事か。」
「…ん。
わかればよろしい。
賢くなってきたから、
そろそろ『お手』とか『ちんちん』とか覚える?」
普段ならムカつくが、
今のシュミカの心情を考えるとアサヒは…
ギリギリ笑えないラインの返答を探してケアするしかなかった。
「俺はペットじゃねぇし!
それを喜ぶ姫様にもメイドさんにもなれないよ。」
とはいえ今は影を潜めてはいるが、
そもそも一番ギリアに執着していたのはシュミカのハズである。
「…まぁ、
俺が一番格下なのは確かだけどな。」
『やっと認めたな?』と、
何度と繰り返してきた嫌な顔をしてシュミカはニヤける。
が、今回は微妙だ。
「ん…僕はね、
本当の家族を探しているの…。
血のつながった…一族の末裔でも良い。
本当の『あんちゃ』を…」
シュミカが少しだけ開きかけた心の扉を、
『あ!なんか開いてたんで閉めておきましたよ!』と…
言わんばかりの勢いで空気を打ち壊す男。
その名は頬を赤らめたギリア。
「お待たせしたね!
ちょっと…君達に聞きたいんだよ!」
…なんか時間が掛かると思ってはいたが、
これはアレだな?…と、
待ちくたびれていた二人は目を合わす。
「これ、リア君に似合うとは思わないかい?」
持って来たと言うことは、
もうすでに購入してしまったのであろう…
それらはシュミカに言わせると、
それなりに貴重な魔道具ではあるのだが…却下!
「えっと…
買い出しに着いて行ってない俺が言うのもアレですが…」
「あ、
道中の買い出しかい?
そんな物はとうに終わっているよ!
食糧なんかは森を抜けた村で調達した方が鮮度はいいし…
君達はティルスガルだろう?
近いもんだ。」
勢いよく別れをアピールしてくる…
本当に寂しさを感じてくれているのがわかる。
強さ偉大さ故の孤独があったのだろうか?
そこまでの思慮は至らないが、
その気持ちを嬉しく感じた二人は…
『不器用な父親が愛する相手への贈り物を選ぶ。』
それに付き合うと言う、
なんとも心温まる一日を押し付けられた。




