そして、その扉を開いて。その2
可愛らしく造られた『エイナ♡』と書かれたドアプレートを眺めながら、
セキュリティの重要性を進言したい心を抑え…
アサヒは小声で状況の確認をする。
「で、どうするんです?
結局また窓とかから飛び出して行っちゃうんじゃないですか?
外で待ち受けた方が…。」
騒ぎの前に図書室にこもってしまったシュミカ以外の、
アサヒ、リア、ギリア、ディルの四人は国王に頼まれて、
自室に引き篭もってしまったエイナと話しに来た訳だが…
ドアを叩いて呼び掛けても反応はなかった。
「ははは!
アサヒ君、そんな小声で話さなくて大丈夫だよ!
…精霊がめっちゃ分厚くて頑丈な結界を張ってるんだろうね…。
参ったねぇ…きっと音すら届いてないよ!
ははははは!
ほらほら、
やぁ~いチビ助~!
悔しかったら出ておいで~!」
アンタの方が子供かな⁉︎
…随分と何かを根に持っているらしい。
しかしギリアのストレス発散は成し遂げられない!
「聞こえてるよ!
この臭無駄肉マッチョマン!
ハゲっ!」
超弩級のカウンターを真正面に喰らったギリアは、
膝から崩れ落ちた。
「…く、くさ…?」
「…おやおや、
音声遮断まではしてなかったみたいだねぇ…。」
ディルは薄ら笑いを浮かべながら、
真正面から言葉の暴力を喰らったギリアに憐れみの表情を浮かべる。
「臭くないし…無駄じゃないし…まだフサフサしてるし…。」
(気が置けない友人が傍に居るとギリアさんでもこうなのか…。)
と、アサヒもだが…
リアも好意を寄せる相手を知れて、少し楽しそうに見える。
フッと笑うディルは、
エイナに声が聞こえている事がわかると少し大袈裟にいう。
「まぁ、
抜け出したところでエイナが自力で旅に出るのは不可能だし、
ご機嫌の回復待ちしか無さそうだねぇ…。」
そう、いくら強かろうが…
小さな子供一人での計画的な旅などは無理だ。
宿すら借りれまい。
そこまでは頭が回らないリアは、
取り敢えず『旅に出る』だけに対して率直に言う。
「竜種を一撃よぉ?
あんなガーゴイル…簡単でしょぉ?」
それに対して、何処で仕入れたのか…もちろんレイヤだろうが、
『チチチっ!』と指を振り口を鳴らすという太古の作法でディルは否定する。
「そうは行かないんだよ。
通行手形かガーゴイル討伐。
そのどちらかは絶対に必要な事だけど…
更にギルドと国王、
それにこの国を守護する精霊が認めない限りは、
あのゲートは通れない。
ここが『幻の王国』と呼ばれる所以だね。」
得意げに言うディルは傷心のギリアに肩を貸しながら…
「とりあえず一度戻ろうか。
ミートパイでも食べて作戦を練ろう。」
と第二王子はアサヒ達に目配せしながら親指で(エイナは…)と扉を指し、
その後、
大袈裟に自分の腹を軽く叩いて(空かしている。)と、
にやけながら伝えて撤退を指示する。
アサヒ達は仕方なくそれに従うが、
(一人にして寂しくないかな?)
と心配しているのを察してディルは小声で言う。
「大丈夫。
我々がどれだけあの子を見てきたと思うんだい?
意固地になってるだけだよ。
それより、
もう一人の意固地になってるオジサンをなんとかするべきだと思うよ。」
そう促されて一同は広間へ戻ると…
多少は話題が先程の騒ぎ寄りではありながらも、
概ね何事も無かったかの様に宴は続いている。
王国の広間に良くある階段の上に置かれた王座は空席で、
ストリード王は一応護衛が付いてはいるが…その護衛共々、
今回の功労者や客達に囲まれて楽しんでいる様に見えた。
…心ここに在らずの青白い顔をして。
アサヒは思う。
(心が荒み過ぎて…ここまで平和だと逆にザワザワするな…。)
と、何かのフラグを期待してしまうアサヒ。
そこへ、トンっと肩に柔らかく呼びかける感触が伝わる。
振り返るとそこにはルナナラさんが気恥ずかしそうに立っていた。
「あらぁ!
メイド長~♪
…もう、平気なのぉ?」
気づいたリアも最初は驚いて声を上げたが、
流石に空気を読んで気を伺う。
「はい…お気遣いありがとうございます。
今回は、
本当に色々とありがとうございました。
悪霊でも浮遊霊でも…
あの方がまだこの世界を楽しんでくださっているのなら…
大丈夫です!」
(なんて健気な!)
うまく隠してはいるが、
赤くした目を潤ませるメイド長をリアは抱き締める。
「アタシ、レイヤ様のファンだったのぉ!
後で色々教えてちょうだいぃ~♪ 」
アサヒは突っ込もうかと思ったが、
震えるリアの肩を見て彼女を見直す。
(そうだった。
お前は色欲に全振りしてるが…『愛情の権化』だった。)
「…はい。
極上のお酒をガメて行きますので、
飲み明かさせてください。」
とても感動出来る物では無いセリフで、
一瞬だけ何かしらの花が咲いた様に見えたが…
それはそれ、
すぐにパシッ!っと仕切り直すルナナラさん。
「国王の御前です!
皆様、一度お静かに願います!」
感動的な百合劇場を観覧していた周囲はすでに静かであり、
逆にパラパラと遠慮がちな拍手が響く…。
「いいよいいよ、
仲良く皆んなで輪になって話そうよ。
みんな、あの子の笑顔を守りたいんじゃろ?」
と、王は周囲を見渡す。
茶番掛かっているが周囲はパチパチと手を叩き、
この茶番を盛り上げる。
「では国王よ、
何故あの子の望みを退けるのですか?」
まずは形式上に一番位の高いディルが声を上げる。
「じゃってぇ!
あの子が居なくなったら寂しいんじゃもん!」
ど直球であった。
「…『じゃもん!』じゃ無いですよ…まったく。
そもそもエイナはレイヤに預けて世界を勉強させてくる予定でしたでしょう?」
頼もしく、
次期国王と認めた自慢の息子に諭されて本音を垂れ流す国王は、
「それはエイナがもっと大きくなってからのつもりじゃったし!
…レイヤ君はめっちゃ強かったし…
この後、
ギーちゃんはそのパーティとは一緒には着いて行かんのじゃろ?」
ズドン!
と、その場の重力が突然の殺意で重くなる!
「聞いてないわぁ…どお言う事かしらぁ?
アナタぁ…!」
寝耳に水のリアは爪を伸ばして構え、
今までに見せた事のない戦闘体勢を取る。
「い、いやいや!
それについては、ちゃんと話すし!
それに、『アナタ』って…
君達と一度離れないとヤバい危険な任務が入ったんだよ!
ちゃんと話す!
聞けばわかる!
必ず戻って来る!
全部知ってる事は話すから!
取り敢えずは後にしておくれよ!」
その後のリアは疑心暗鬼でギリアの一挙手一投足を監視する鬼となる。
変なスイッチのある相手にはご注意を。
閑話休題、ディルと国王の会話に戻る。
「エイナだって十分過ぎるほどに強いんですから…
ギルドお抱えの『精霊騎士団』の団長とタメ貼れるんですよ?
何が不安なんですか?」
慌ててギリアが割って入る。
「ま、まだまだ負けないけどね!」
(…2回、負けたんですよね?)
「…アサヒ君、
今、何か言ったかい?」
『声に出してないよな?』と、
確認しようと見たリアはプイッとヨソを向いている。
「いえ、何も!」
それはそれとして、
この人そんなに偉い人だったのか!と改めて萎縮する。
そういえば何処かで団長って呼ばれてた気もした。
『やれやれ、どうしようも無いな…』とディルは踏み出す。
「王よ!
あの子をいつまでこの地に閉じ込めて置くつもりですか?
何事にしても、いつか終わりは来るのですよ!
貴方が王である事を…
今、このディルノード=クルセイトが終わらせることも!」
警護の隙を瞬時にサッとすり抜けて国王に飛びかかり…
『ガオ~~!』っと、
殺意なく演技するディル。
その茶番を見て国王は落胆する。
「もう少し面白い事を期待しとったんじゃけどな…。
『ガオ~』は無いじゃろ。
『ガオ~』は…。
そうじゃな…そろそろ先に進めんとな…。
じゃが、あの子にも負けてもらおう。」
改めてゆっくりと王座に着くストリード王。
「せっかくの祝勝会をしらけさせて悪かった!
ひとつゲームをしよう!
エイナを部屋から連れ出して見せよ!
資格はこの場におる全員にある、
最後の余興を楽しんでおくれ!
ワシが何でも言う事を訊いてやろう!」
何かしらの確信を持ってテンションが上がったらしい国王の宣言に、
その場は一瞬の戸惑いを振り払い大いに盛り上がる!
あれやこれやと有りはしたが、宴もたけなわ。
大いに滑り散らかした大衆の後に天岩戸を開いたのは…
ディルが前もって用意させていた秘策であった。
「お待たせぇ~~!
姫様の大好物~、
メニのチャイル家秘伝のミートパイだよ~♪」
颯爽と現れたメニクトが手の上のクローシュを持ち上げると、
そのミートパイの香りに釣られたエイナは、
あっさりと扉を開いて飛びついてきた。
「メニ~!
今日ミートパイの日だったっけ⁉︎
わぁ~~い♪」
…ハッ!と我に返って周囲を見渡して赤面するエイナ。
『ふふん♪』と、得意げなディルと、
『シュン…』と、項垂れる国王。
「で?ディルよ、ワシに何を願う?」
「もちろん、
エイナの『外出許可』でしょう♪」
国王も腹を決めた様だ。
「エイナ、
この世界を隅から隅まで見て楽しんでおいで。」
パァ…と顔を赤らめて喜びを露わにするエイナ。
「本当に?
ありがとう!父様だぁ~い好き♪」
その笑顔を見て、
「もし本当にレイヤ君に会えたなら…
『話が違うじゃろ!』…と伝えといてくれよ。」
そう言うと古き王ストリードは寂しそうに去っていった。
…これまでの時間に様々な思いが膨れ上がっていた。
『当然勝つのはディルである。』
『エイナは旅立つ。』
『結果は出た。』
ルナナラやスチラルも潤んだ瞳でエイナにミートパイをア~ンし、
よく理解してないエイナはパクパクとそれを頬張る。
アサヒは『ディルノード=クルセイト』をお兄ちゃんの鏡だと思った。
そして、やっと今回最大の功労者であるメニクト=チャイルは知る。
「え~~?
姫様どっか行っちゃうの~?」と。




