そして、カラスは何故なくの?その3
「くそ人間がぁ!
今、何を考えたぁぁあ⁉︎」
ノンビリとクライミングを楽しんでいたアサヒをあっという間に追い越して行くリア。
メイド服姿ではあるが、
はみ出す短い尻尾と『出』の字のごとくワシワシと登って行く姿を見れば誰もが思う。
『トカゲみたいだな…。』と。
アサヒを追い越しては途中で蹴り落としてくる事を繰り返して3回目。
「最初以外は何も考えてねえし!
自意識過剰もいい加減にしやがれ!」
アサヒは地面に叩きつけられる直前で、
事前に待機をお願いしていた魔道士さん達に優しく受け止めて貰う。
例のカラスは待ってはいるが、
時折食べ物を取りに行ったり、
何やら盗んで来たのであろうバケツの様な道具まで器用に使って水を運んだりと…
時間を潰し始めた様に見える。
「ふぅ~ん…最初は考えたのねぇ…?」
「ああ、はいはい!
考えました!
そうしか見えんし予測だけで何度も降りて来んなよ!
『主様』も呆れてんだからさっさと行ってやれよ!
俺はあっちからユックリ行くからもう下は気にするな!」
…リアはこの一連のやり取りも楽しくはなっていたのであろうが、
流石に度を越していた。
「あ?
あぁ…。」
改めて…地上で這いつくばるアサヒと崖上を交互に見返すリアは、
完全に上を目指している理由を忘れていたに違いない。
「そぉね!
あの子を捕まえて羽をむしってバーベキューだったわねぇ⁉︎
今行くわぁ!」
「違う!
色々混じってて違い過ぎるぞ!」
改めて勢いよくリアは登っていくが…
やはりその姿はトカゲの様である。
ただ、
尻尾で捲れ上がったミニスカートのせいで地上の男性陣には絶景の様です。
(リアは露出狂の気が有るから何とも無いだろうけど…
シュミカだったら発狂してるだろうなぁ…。)
などと思いながらもアサヒは離れた別ルートに手を掛ける。
もちろん、
スチラルさんやクッション役の魔道士さん達にサポートをお願いして。
「多少の無茶とかしてもちゃんと受け止めますので!
頑張ってください!」
「治癒も平気なので、気兼ねなく!」
…何の活躍も無いので当たり前だが…
そこまで弱々しく見えるのかとアサヒは感じる。
(まぁ…今までは仲間に恵まれて何とか生き延びて来れただけだもんなぁ…
この立場を青臭く否定しちゃダメだな。
『即死決定!』
感謝して、利用して…強くなろう。)
上を見据えたアサヒの背中をバンッと軽く叩き、
親方は気合をくれる。
「アンタぁまだまだだが、
姫様を任せるんだ!
力付けてくだんせぇ!鍛錬は全部財産になる!
稼いできなよ、好きなだけ!ははは!」
もうすでに数回のクライミングとリアからのダメージで適当に考えていたが、
アサヒは決めた。
時間がかかり、例え誰もいなくなろうが…絶対に頂上へ!
「アッサッヒ~♪」
まだ朝だが、お昼寝から目覚めた姫様登場。
「ん…エイナが目覚めて絶好調…
何とかして…。」
岩に手をかけて数歩のアサヒを見ながら元気よくクルクル回っているエイナ。
「あの鳥を捕まえるんだったよね?
ボクが連れてったげるよ!」
そう言うと、
エイナはアサヒを下から突き上げて一気に斜面を重力を無視した様に駆け上がって行く。
「おいおいおい!
覚悟も何も全部台無しだよ!」
「到着~~♪
ねぇ、アサヒ!
テッペンだよ~~♪」
突き上げられて痛む股間は置いておいて…
目の前に広がる絶景と、泣き崩れるリアの叫び。
「あああ!
そうだったの?
何で…何で…もっと早く…
ごめんなさい!
ごめんなさいぃ~~!!」
そこには小さな竜の亡骸があった。
リアの腕の中で揺れるそれはまだ柔らかそうで、
絶命して間も無くなのだろう。
感情は入り乱れる。
「あぁ…そいつ…。
お兄ちゃんを喰いやがった奴の…。」
一瞬で闇落ちしたエイナが攻撃性をむき出しにして、
その亡骸に手を伸ばす…
パン!
容赦ない竜人の平手打ちが小さな子供を弾き飛ばす!
「この子は関係無いわぁ!
生まれてすぐに怖い奴らに襲われてぇ!
必至に逃げて助けを待ってた赤ん坊よぉ!」
二回もギリアさんに勝ったと言った。
昨日の力を見る限り、
見た目は子供だが戦闘によるダメージなどは身に染みているだろう。
打撃では無い。
平手打ち。
それは肉体ではなく精神、心の奥深くに突き刺さる。
もちろん吹き飛ばされてのダメージはあるが、
かつて味わった事のない感情。
『侮辱』『屈辱』『恥』『心の痛み』『憎しみ』…
『暖かさ』『優しさ』『母性』…
それら多くがエイナを包み込んだ。
「…お姫ちゃんの方が年上で…護ってあげなくちゃダメな子だったのよぉ…?
そんな事もわからない大人になっちゃ…だめよ。」
「ご…ゴメンなさい、
お母さん…。」
つい出てしまった言葉であったが、
エイナ自身は母親の存在の記憶は無い。
「…お母さんじゃ無いわよぉ。」
ギリアがシュミカに言うように照れて笑うリア。
申し訳なさそうに、
改めて優しく子竜の亡骸に手を伸ばすエイナ。
「この子…どうすれば良いのかなぁ?」
「一緒よぉ。
みぃ~んな一緒。
ちゃんと弔ってあげましょぉ~。
あの竜もお兄ちゃんも一緒にぃ♪」
アサヒは時々思う。
竜人とか力が有るからでは無く、
本当にこいつがリアとして側にいてくれて良かったと。
そう、そのリアがアサヒの首を掴んで投げ落とすまでは…。
「…このクソ野郎…
誇り高い竜種をトカゲトカゲと…。
先に下に落ちてくたばってなさいぃ~~!」
もちろん地上で待ち受けて居てくれる魔道士さん達を信じての愚行だが、
アサヒ自身は悪い気では無い。
きっとあのカラスに泣きながら謝罪している所を見られたく無いのだろう。
やがて、
魔道具であるヘアピンを取り戻したリアは、
ゆっくりとエイナと共に小竜の亡骸を抱き抱えて飛び降りてきた。
「ちょうど、お昼ご飯の準備、
整って御座います。」
スチラルがバーベキューの準備ができていると手招く。
「そおね…湿っぽいのは嫌よねぇ…。
アナタもそぉでしょお~~⁉︎」
頭上で旋回するカラス。
恐る恐る訪ねるアサヒ。
「…いや、
それ食べないよな?」
「何言ってんのよぉ⁉︎
この子はアタシ達の血肉となって共に生きて行くのよぉ!
ただ腐らせたら可哀想じゃないぃ~!」
物は言いようだ…。
良いのか?それで⁉︎
そして、未だ頭上で旋回していたカラスは事態の収束を認めたのか、
大きく一鳴き。
『ワオぉ~ん!』
と鳴いて飛び去っていった。
「朝の野犬の遠吠えはお前だったのかよ⁉︎」




