そして、カラスは何故なくの?その2
メイドさん達の予備の制服を借りて戻って来たリア。
彼女がカラスに対して愛想笑いを見せると…
キッ!と一瞥くれて彼(?)は飛び立ち、
今度は力を温存してゆっくりと空を旋回して一同を誘導している。
「…土下座でもして髪飾り返して貰った方がお互いに良かったんじゃないか?」
愛着でも湧いたのか…リアは、
「今に至ってはぁ、
あの子のプライドが許さないと思うわよぉ…
見たでしょ?
あの目…ぷふっ!
良いじゃ無いのぉ…敵意は無いみたいだし、
付き合ってあげましょうよぉ~?」
と、微笑ましそうに見上げる。
軽いジョギング程度の速さで走る一同。
小さくて歩幅が狭いエイナは、
その分元気が有り余っているのでチョロチョロとしている。
「せっかくの探検なんだから楽しもうよ♪」
ほんの数分の『探検』という名の散歩は…
『とある場所』に辿り着いて終わった。
今回の犠牲者の墓地である。
昨日の今日なので、
まだ作業の最中であった…。
とは言え回収出来た遺体は少なく、
最早どの部分が誰との判定は付くものではなかった。
街に戻ったら国王へ慰霊碑の建立を進言するとギリアは約束したが、
それはそれ、これはこれ。
簡易的ではあるが…これまで共に歩んできた仲間達がこの場所で散った証、
それを残さずには居られない者達が人数分の墓標を立てている。
中には悲痛な面持ちの者もいるが、
多くの者は最後の門出を見送ろうと前向きな表情をしていた。
その中の一人、
親方風の男がアサヒ達一行に気付く。
「あぁ、姫様!
…お客人達も!
こんな所にどうしたんですか?」
流石に彼らのしている事を理解し、
少し怯んだエイナは落ち着きなくしている。
「ん、大丈夫。
あの下には誰も居ない。
あれは彼らの自己満足…彼らもちゃんとわかってやってる事…。」
そっとエイナの肩に手を置いてシュミカは優しく言い聞かせた。
(急にお姉さん風を吹かし始めやがったな、コイツ…!)
「…思い出させちまったならスミマセン…。
でも、
オイラ達もレイィヤ様の暴れ乱れっぷりは大好きでした!
一番デケェ墓標を立ててやるつもりなんですが…
お許ししていただけますかぃ⁉︎」
(『暴れ』は分かるけど『乱れ』ってなんだよ⁉︎)
消滅しては居ないが知らない所へ去ってしまったレイヤを思っているのだろう、
必至に笑顔を取り繕ってはいるが…エイナは浮かない表情だ。
空気を読み違えたと気づいた親方は静かにだが熱く語る。
「あ…すいやせん。
でも、レイィヤ様も言ってたじゃ無いですか!
死んだ後には『天国』とか言う楽園があるって…。
あの人の事だ、
みんなも連れて楽しくやってますよ…。」
「あんな奴がそんな良い所で楽しくやっててたまるか!」
…と、アサヒはつい声に出してしまった。
空気が秒毎に重くなる…。
「お客人…
アンタが何を知ってるか我々は知りませんが……」
(あ、コレはまずいかも…?)
「あぁっはははは~~~!」
それを見て突然エイナが大声で笑い出した。
「そうだよねアサヒ!
あのレイヤお兄ちゃんがそんなつまらない所には行かないよ!
あはは!
生きてなくても…きっとどこかに居る!
探しに行こう!」
何だか呆気に取られている親方。
「ひ、姫様?」
「親方!
その墓標は燃やしちゃってよ!
せっかく探しに行くのに、
間違えてお兄ちゃんが戻って来ちゃったらつまんないからね!」
エイナがシュミカが言ったことを何処まで信じているかは不明だが、
少なくとも何かが吹っ切れたようではあった。
流石はあの男の弟子だ。
周囲の表情を確認して親方は彼なりの忠義を示す。
「了解でさぁ!
じゃあ景気良く昼メシのバーベキューで燃やしちまいましょう!
レイィヤ様もきっとその方が喜んでくださる!」
もちろん彼等はそんな事はしない。
そもそもこの行動自体が彼ら自身を癒す為の行為なのだから…。
空気を読んで、
適当に余った木材をそれとして大袈裟に燃やしてみせるだろう。
そんな事はどうでも良いのだ。
『あれだけ慕っていたレイヤが居なくなって、
悲しみ沈み込むエイナを立ち直らせる。』
そんな国を挙げての壮大なミッションが適当な誤魔化しで片付く…。
当然思うところが全く無い訳ではないが、
他の仲間達の気持ちを抑えるべく親方は大人の対応を取ってみせた。
「なぁ、お客人…
『アサァヒィ』さん…だったか?
本当に姫様を連れてっちまうつもりかい?」
軽く凄まれてしまうが、
そんなつもりは全く無い。
「いやいや!
そんなの無理に決まってるでしょう!
王…お姫様?…を連れて行くなんて!
ウチの野獣達も教育に悪過ぎます!
…デュぅっ!!」
姫様ロケットがアサヒの腹に突き刺さる。
「ボクは絶対に着いて行くからね!
あとボクの事はエイナって呼ぶ事!」
…うずくまるアサヒを見下ろして親方は一息ついて笑う。
「…だってよ。
ウチらが何とかは言えねぇが…
全部決めるのは国王様さ。
後継はディルノード様に決まっているし。
まぁ、もし本当に旅に出てレイィヤ様…
姫様がそれを感じる何かに会って心の傷が無くなるなら何だっていいさ。
オイラ達もそれぞれに傷が癒えるのを待って生きて行くだけだしな!
この国の宝は何処に居ようと姫様の笑顔だ!」
流石親方…とても気分の良い人だ、
まるでギリアさんのようだ…とか感じながらもアサヒは思う。
(そもそも姫様じゃないし…面倒臭いのは嫌だし、
きっと王様は許さない。
許す訳が無い!
許さないで欲しい!)
モヤモヤしたリアがパン!っと手を叩いて場を引き締める。
「ちょっとアサヒぃ~、
そんなのはどうでも良いのよぅ~。
あれぇ~…アイツ見てよぉ~!」
アサヒは意気消沈して途方に暮れているリアを見て本題を思い出した。
そのリアが指差す先は、
絶壁と言うには程遠いが…
登るとしたら多少の技術と結構な体力の要りそうな急斜面の岩山。
その上を旋回する…休み休み旋回するカラスの姿であった。
(お待たせしてスミマセン!)
言われて見上げた親方はカラスの事を知っているようである。
「ああ、アイツかぁ…
ココいらの主みたいな奴でさぁ。
多分この上に見せたい物があるんだと思いますよ。」
「まぁ…
そぉ言うことよねぇ…いいわ!
その髪飾りは預けて置いてあげる!
奪いに行くから羽を休めて待ってらっしゃい!」
そう叫んだリアは楽しそうにメイド服のままロッククライミングを始める。
「ん〜、
あの服にこんな楽しみ方があったとは…僥倖♪」
(何を言っているのか、お前は⁉︎)
そうこうして主に男性陣が鼻の下を伸ばして「頑張れ頑張れ〜!』と見上げていると…
「お疲れ様です、アサヒ様。」
数人のローブを纏った魔道士達を引き連れてスチラルが到着した。
あらかたの状況を説明し、
理解したスチラルが一人の魔道士達に指示するのは当然の流れのソレ。
「では…あなた風の精霊さんと仲良かったですよね、
リアさんを上までぇ…!⁉︎」
地獄耳なのか、
割と上まで這い上がっていたリアは飛び降りてきてスチラルに蹴りを喰らわす!
「ダメなのよ!
コレはあの子との魂を賭けた戦いなの!
なんでアタシから飛ぶ力を奪ったと思ってるのぉ?」
(知らんかったからに決まってんだろうが!)
…と言うのを寸前で思いとどまるアサヒ。
ピクピクしているスチラルに駆け寄る魔道士達。
ワクワクしながら改めてルートを計算するリア。
スピスピと寝息を立て始めたエイナの手足で遊ぶシュミカ。
「さぁてさて…
どう攻略してやろうかしらぁ〜♪」
そこへ颯爽と親方が助言に入る。
「竜人のお姉ちゃん、
今は体力勝負って聞いたが…
魔力も精霊も使えないって本当かい?」
「ふふ…使えないんじゃ無いわぁ…。
使っちゃうと大変な事になるのよぉ…アタシとかあちこちが。」
「難儀だな…デカい力を持っちまった奴らって…。」
「何劇場だよ⁉︎
俺でもわかるくらいにイライラしてるぞあの鳥!
何で降りて来ないのかわからんけど!」
『ふっ!』と鼻を鳴らす親方。
「『主のプライド』…じゃ無いかなぁ?
姉ちゃん、
あの色とあの色…指差した岩はわかるかい?
アイツらは根が深いし硬い。
絶対じゃ無いが、そこを選んで行けば間違いないさ!」
「わかったわぁ!
ありがとう!」
…などとの会話を後ろで聞き流しながら、
そもそもの本日の目的、
『少し身体を動かそう!』に、ちょうど良さそうだと思ったアサヒは、
アチラの変な人達をよそに…
『ちょっと限界まで頑張ってみるので、
落ちてきたら助けてください。』
と、コッソリと盗み聞いた岩の色を当てに登り始めた。




