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そして、俺は〇〇になりました。  作者: Foolish Material
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そして、〇〇姫はくるくる回る。その3

 多少は身体が軽くなったとはいえ、

 まだまだ病み上がってないアサヒは後悔していた。


(あのソファーに帰りたい…。)


 あちこち駆けずり回る…姫とシュミカ、

 二匹の小動物のお世話にてんてこ舞いなメイド長ルナナラ。

 時折首を挟んでは、

 商店での会計や土産物を纏めて城へ送る手筈を整えるスチラル。

 

 アサヒは後続のスチラルと共に前衛の後始末をしながら追従していた。


「ウチのヘッポコ神職のお代はちゃんと請求してくださいね⁉︎」


「もちろんです。

 観光客なんて滅多に来ないのですから…

 あなた方が支払えなくとも、

 ギリア様から搾り取らせていただきますとも。」


 忌憚の無い回答に痛み入る…。


「元気で明るくて可愛らしいお姫様ですね。

 皆さんにもとても好かれている様だ…。」


 来訪者が少ない国とはいえ、

 流石に目立たない服には着替えたが、

 小さな姫様が変装も無しに街中ではしゃいでいるのに、

 通行人達は笑顔で軽い挨拶や、

 手を振ったりするだけで変に騒いだりはしない。


 これもこの国の日常なのだろう。


(…そういえばあの子、

 普通にギリアさんと良い勝負してなかったか?

 恐ろしい話だ…)


「姫様…ですか、

 皆はあの優しさや可愛らしさや美しさや愛おしさや尊さに魅了されて…」


(いや、アンタも充分だろう…)


「…いつしかそう呼ぶ事が当たり前になってしまいました。

 私もその事に何の異論も無いのですが…

 だって、

 小さくて可憐で何とも言えない高貴さでしょう?」


(好奇ではあるが高貴さに関しては何とも言えない光景が目の前に…)


 何だか勝手に始まったスチラルの一人語り劇場。

 花畑やら何やらの舞台装置まで見えてきそうだ…。 


「純粋で無邪気で清らかな心…

 そのままでいて欲しかったのです!

 それなのに!

 王様が連れてきた教育係の…

 あん!」


「スチラルもぉ~♪」


 露店で買ってきたのであろう、

 姫様は甘そうなスイーツをスチラルの口に差し出して来た。


 始まりそうで途切れたスチラル劇場から引き戻されたアサヒの前には、

 何とも楽しそうにはしゃぐ一行の姿が広がる。


 ただ…どこであったか?


 スチラルの紡ぐ言葉の流れの中に、

 一瞬だけ違和感を覚えていたのだが…


 目の前の優しい世界に浸ってしまっては、

 もうそんな事はどうでも良かった。


「ぁは~、美味しいですね♪

 でもダメですよ、

 この後昼食会でみんなが頑張って美味しいご飯を作ってくれてますからね!

 明日だってゆっくり楽しめるんですから。」


 懐から取り出したハンカチでわんぱくプリンセスの口元を整えるメイドさんと、

 ただただ従うべき君に翻弄されてヘトヘトなメイド長…。


 何となくアサヒはまるで自分がいた世界での、

 契約に縛られて身動き出来ない雇われ店長、

 結果だけを残して重宝されるバイトリーダーの図式を思い出した。


(まぁ、どちらも未来の選択権を行使出来るのにし辛いスパイラル。

 人情が絡むと囚われるよな…。)


 そんな過去も懐かしいと思えた。

 何故なら、この世界に来てからは全てが命懸けであった。


 それらを忘れて元の世界へのノスタルジーに浸れる、

 物質的要素もあるが…

 それ以上に精神的な安らぎがここにある事を感じる。

 

「そう言えば、

 そろそろ戻らなくても大丈夫なんですか?

 結構時間が経ちましたよ?」


 と言った所で、

 アサヒはふと最近の疲れ方に合点がいった。


 時間。

 この世界の一日はもちろん24時間ではない。

 時計も無く(ある所にはあるのかも知れないが…)、

 誰も細かい時間に拘ったりしないので一刻、二刻…等の表現が多い。


 アサヒの感覚的には一刻が大体一時間か、

 それよりも少し長い程度。

 一日の長さは30時間前後程度だろうと認識している。


 短い間だがキャラバンで旅に付き添う中で、

 土地によるのか季節によるのかは移動が多くて知り得なかったが、

 昼間が長かったり、

 夜間が長かったり…


 その場の人達はそれが当たり前なのだから気にはしないし、

 旅人や冒険者も『その場所はそう』という認識しかしないのである。

 アサヒ自身も考えた所でどうにかなる訳ではなく、

 いつしか身体もそれに慣れてしまったと思っていたのだが…

 少しずつダメージが蓄積されていたのかも知れない。

 きっとそれだ!…と。


 とりあえずそれは置いておいて…


「言われてみればそうですね…。」


 と、スチラルは人差し指を口に当てて、

 疲弊しきったメイド長と…

 まだまだ元気が溢れている小動物と中動物を頭の中で天秤に掛けて、

 片方の体力を戻し、片方の体力を削る方法を思案する。

 そこに少しの思惑を乗せて。 


「整って御座います。

 では少し先にある公園で一休みしてから戻りましょう。」


「その心は?」


「美味しく昼食を頂くためですわ♪

 少し休んでから戻りましょう。

 …貴方様の些細な疑問も晴れる事でしょう。」


 そう軽く微笑むと、 

 『パンパン!』と大きな音で手を叩き、

 三人の視線を自らに集めて見せた。


(猛獣使いかな…?)


「皆様、

 あの先の公園で少し休憩してから一度お城に戻りましょう。

 よろしいですか?」


「ん、異論はない…。

 ロイヤルなランチにも興味津々♪」


「やった!

 みんなが居たら遊んで来てもいい?」


 笑顔でエイナを見ていたスチラルの視線が一瞬だけ…

 憂い混じりにアサヒを掠める。


「もちろんです、

 お友達の方々もいらっしゃるとよろしいですね♪

 でも、お城で皆が待っていますので少しだけですよ?」


「うん!

 『ハウス!』って言ってくれたら、

 スチラルの元に馳せ参じるよ♪」


 おかしな言葉が飛び交っているが、動じるのも面倒くさくなってきた。


 どうやらこの先に在るらしい公園は姫様の遊び場の一つであるのだろう、

 一目散に駆け去っていった。


「…貴方は心の中で思う。

 『上手く手懐けられた犬の様だ』…と。」


(言葉の熱量!)


 とは言え、アサヒが近い感覚を覚えたのは確かである。


 姫様を死んだ魚の様な目で見送るスチラルは、

 ヨチヨチと疲れた体で姫を追うルナナラを憐れんだ目で見つめている。


「…手懐けた者がいるのですよ。」


「ああ…教育係がどうとか?」


 先程言いかけていた事を思い出したスチラルは、

 深いため息を吐きながら…

 手を延べて辿り着いた公園の入り口を指す。


 大きくは無いが柵で囲まれた、

 住民達の憩いの場としては充分に立派な公園だ。


 その一角に立つ木の木陰を縄張りと決めたシュミカは、

 さっさと陣取って送らずにお持ち帰りして来た戦利品を足元に広げてニヤついている。


(それらはちゃんと公共の場で広げて良い物だろうな…⁉︎)


 それを充分に監視できるベンチの横にスチラルは

 『こちらへどうぞ』

 と手を差し伸べていた。


 恐縮しながら腰掛けたアサヒはマナーとして同様に、

 スチラルにも腰掛ける事を促す。


 軽く会釈してベンチに身を預けた彼女は、

 深く…重々しい溜息と共に頭を抱えて一つの方向を指差した。


「アレをご覧下さいませ…。」


 賑やかな笑い声に包まれたそこには、

 近所の子供達であろうか?

 数人の友人達と元気に追いかけっこをしている姫様の姿があり、

 そのスカートを捲り上げて大笑いしながら皆を追いかける姫様を

 子供達はこう呼んだ。


「うわー!

 ちんちん姫だ~~!笑」と。


(男の子でした!)


「あの方のフルネームは『エイナード=クルセイト』様。

 この国の第三王子で御座います…。」


 ふと気づいたちんちん姫は更なる笑顔と驚く顔を求めて、

 そのまま木陰で座り込んでいるシュミカの元へ駆け寄った。


「おねぇちゃん、は~い♪」


 と、顔を上げたシュミカの眼前にあるソレを、


「ん?

 …ふんっ。」


 と、人差し指でピンっ!と弾いてシュミカはまた戦利品に目を落とす。


「ややややめて差し上げろぉ!

 その子の『お宝』はこの国の国宝だぞー!!」


 おいたわしや!

 姫様は股間を押さえて蹲り、プルプル震えている…。


「はぁ…、

 先程話し損ねました教育係ですが、

 学問や武術はとんでもないのですが…

 ああいった碌でも無い事ばかりを姫様に…」


(やれやれ…

 それでメイド長と教育係に溝が生まれて、

 姫様は教育係の肩を持ってると言った所か。)


 そんな事を考えながら気がつくと、

 いつの間にかアサヒは膝から崩れ落ちて空を見上げていた…。


「アサヒ様?

 …アサヒ様!!」


 心労がピークに達したのであろうか?

 アサヒは真っ青な顔で気を失っている。


 スチラルが『ピッ!』と指笛を鳴らすと、

 公園の柵を飛び越えて数人の兵士が飛び込んできた。


「何事ですか?スチラル様!

 あぁ!姫様~⁉︎」


「ボ、ボクは平気だよ…。」


 正気に戻ったちんちん姫はアサヒの方へ兵士達の気を向ける。


「ん、問題無い…。

 馬鹿な男がその子の股間の痛みに共感して失神しただけ…愉快♪」


「ちょ、シュミカ様!

 違います!

 アサヒ様の具合が悪い様です!

 変な魔力の流れが一瞬あった様な気もします…。

 皆様を城へお連れしてください、お願いします!」


 了解した兵士達とスチラルは、

 住民や子供達に騒ぎを詫びながらエイナを抱き上げ、

 アサヒと…電池切れでグロッキーなメイド長を脇に抱えてその場を後にした。


 シュミカは荷物を纏めながら、

 猫の様にふと何も無い空中に視点を泳がして…仄かに邪悪な笑みを浮かべる。


「ん…おもしろそ♪」


 そして、その頃…城内では急展開を迎えていた…。

 

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