そして、〇〇姫はくるくる回る。その2
この場に居る人数にしてはそこそこに広く、
いつの間にかテーブルまで用意された医務室はお茶会会場となっていた。
ギリアと王様は今に至った経緯や昔話に夢中で、
執事やメイドさんでさえ、
やる事はプロフェッショナルに素早くこなすが…
直後には席に着き、リアやシュミカと談笑している。
「ねぇぇ~、メイド長ぉ~…
アタシぃ~…」
「心得ております、竜人のお嬢様。
ただし、ここはお茶の席…
せめて紅茶入りの蒸留酒でよろしいでしょうか?」
(何処ぞの銀河の魔術師でも持て成すつもりか…?)
すぐに現れた嫌味の無い程度に格式のあるティートローリーには、
高級そうな酒が沢山…。
「お~い~、
程々にしろよ~…、
さっきまでだって変なのがマトモに見えそうなくらい飲んでたんだから…。
まだ朝なんだからな~…。」
先程から体調が優れないアサヒは壁側の小さなソファで、
横になりながらその光景を眺め…
いや、二人がやり過ぎないか監視している。
「ん…こっち見んな…。
僕に関しては心配ご無用…
なんか精霊さんの密度が濃くなって…
アナタをこれ以上貶める算段が整わない…」
「整えんな。
十分に具合は悪いからお構い無く。」
アサヒは深く溜息を吐きながら目を閉じる。
(何だろう…風邪でもひいたかな?
…変なウィルスとかじゃないと良いけど…。)
「アサヒ様、お具合はいかがですか?
こちらにお水を置いておきますので、どうぞ。」
リアにメイド長と呼ばれていた女性だ。
確かにそれっぽい。
「あぁ、ありがとうございます。
メイド長…さん?」
「いえいえ、
確かにその様に呼ばれる事もある程に長く勤めさせていただいておりますが、
私共に上下は御座いません。
皆同じ立場で仕えさせていただいております。」
と言いながら少し憂いた表情で他のメイドさんを見ていう。
「…とはいえ、
何方かと言えば…私の立場は少しよろしく無い方へ傾いておりまして…。」
(俺の具合もよろしくない方へ傾きそうな話を振ってしまったかも知れない…。)
「あ、大変失礼致しました!
お休みの方に心労まで…。
こちらの事ですので、お忘れ下さいませ!
…皆様良くして下さいますので、つい甘えてしまいました。
どうぞごゆっくりお休み下さいませ。」
そう言って一礼すると、
彼女は他のテーブルへ用聞きに向かった。
(まぁ色々あるんだろうけど…
流石に変なお節介を焼くほどの余裕は無いな。
…てか、これ何の時間だよ…。)
アサヒはそうぼやいてからしばらく目を閉じて、
ただただ呼吸を整える時間とした。
それぞれから断片的に耳に届く旅の思い出や、
この国この街の情報をBGMとして聞き流していると…
嵐は突然訪れる。
勢い良く開け放たれた扉から現れたのは、
白いワンピース姿の銀髪の少女である。
「もぉー!
こんな所にいたー!
なんでボクも呼んでくれないのさ~!」
『姫様⁉︎』
今まで気が緩んでいた…とまでは言わないが、
ある程度リラックスしていたメイドさん達は一斉に立ち上がって一列に並ぶ!
(恐怖政治かな⁉︎)
そんな中、
一番端に立つメイド長は半歩ほど下がって気まずそうに目を伏せている。
「もぉ…そーゆーのやめてよぉ~。」
『いえ、なりません!
我々はコレがやりたいのです!
姫様ぁ~~♪』
ただのプレイだった。
確かに可愛らしい小さなプリンセスである。
甘やかす気満々のメイドさん達は背筋を伸ばしながらも顔は緩み切っていた。
「ギリアっち~、久しぶりだね!」
「ああ、元気にしてたかい?ははは!」
少女は見ているこちらの目の方が回りそうな程に
クルクルと回りながらギリアの方に駆け寄ると…
小さな身体をさらに低くして拳を突き上げる!
それをパンっ!と軽く払い除けたギリアは、
体勢を崩した姫様を空中でクルッと回してそっと立たせて見せた。
「ははは!
相変わらずキレッキレだね!
…色んな意味で。
ダメだよ…お父様とお兄様に乱暴しちゃあ…。」
(王様と王子の怪我の原因はこの子が⁉︎)
「え?
そこの包帯まみれの変なおじさん達なんて、
ボク知らないよ。」
…目が怖い!
『エ、エイナ~…!』
王と第二王子はすがる様な目で姫のご機嫌を伺っている…。
「だって!
みんなしてボクとお兄ちゃんを引き離そうとするんだもん!
プンっだよ!」
一つ一つの仕草がいちいち可愛らしい!
「あと…ルナナラ、
ボクは君にも怒っているからね…。」
顔を伏せていたメイド長はビク!っと体を強ばらせて萎縮する…が、
その表情は至福に満ちていた。
『叱って頂いた…!』
…とでも思って喜んでいそうな表情だ…。
他のメイドさん達もメイド長に羨望の眼差しを送っている。
(なんだコイツら。
…でもまぁ気持ちもわからなくも無い☆笑)
小さな姫様の興味はすぐにターゲットを移す。
見た事のない三人の来訪者たちにである。
「君達だね!
新しい『客人』と…お姉ちゃん達!
えっと…君は具合が悪いのかい?」
姫はててて…と寝ているソファに駆け寄ってくるので、
アサヒは慌てて体を起こして姿勢を整えようとするが…
「ああ、いいよいいよ~!
楽にしててよ!
スチラル~、何か良さそうな治癒魔法とかないの?」
並んでいる中の一人に声を掛けるが困り顔である。
「そうですね~、
軽い疲労と緊張から来てるっぽいので…
魔力に当てるのはやめた方が良さそうです。」
「ん、良い判断。
精霊さんもそう言ってる…ね。」
自分より小さくて可愛らしい生物に興味を持った、
我が家の小動物がしゃしゃり出てきた。
「ん、初めまして…
僕はシュミカ=エーリデウルス。
神職をやってる…。」
傍のテーブルでグラスを揺らす竜人もタイミング良く割って入り、
「アタシはリア=スティルノアよぉ。
よろしくね、お姫ちゃん♪」
「ん、そんでそこの屍の成り損ないは、
名も無いゾンビ。
放っとくといい…。」
「アサヒ=ハザマだよ!
『客人』とか言われてるけど…ただの人間だよ。
見ての通り弱々しい…ね。」
パァッ♪と姫は目を輝かせてクルクル回る。
「ボクはエイナ!
よろしくね、あはははは~♪」
このクルクル回るのは子供ならではの一時の流行りなのだろうか?
ただ、その無邪気な姿を見ているだけでも緊張が解れた様で…
アサヒは多少なりとも肩が軽くなるのを感じた。
「アサヒ達はもう街は見たの?
すごいんだよ!
お兄ちゃんがいっぱい絵を描いてくれたのさ♪
見にいこうよ~!」
初めてのお客さんにテンションが上がり、
自身が好きな物事を押し付けずにはいられ無い…
そんな子供心が理解も出来たが…
残念ながら今は大人として大事な…
よく考えると何もしていない無駄な時間であった。
『ね~、ね~!』
とアサヒとシュミカに交互にアタックするのすら、
楽しくなってきたと思える小動物にどうして良いか戸惑う二人。
グダグダな時間だとしても、
この国の王様がいるのだ…しかも相手はお姫様。
このようなロイヤルな場での振る舞いなどわかる由もなく…。
お互いに、
(ん~、遊びに行きたいけど、姫の相手とか面倒臭そう…。)
(遊んではあげたいけど、作法とか知ら無いし…も少し横になっていたい…。)
…と思いながら同時に目を向けた先のリアは…
城内のメイドさん達を相手に早朝のギルドでの惨劇を再現していた。
そこへ、やれやれ…と頼れる保護者が助け舟に入る。
「ははは!
誰もその子には敵わないよ。
ちょうど街も動き出している時間だし、
良いから観光でもしておいで。
そもそも依頼を受けてるのは私だし、
修行の一環として手伝ってはもらうが…それは私が考えた後のことだよ。
リア君は…出来れば持っていって欲しいが、
まぁ…コチラで面倒見ておこう。」
くるくる回ってギリアに足払いを仕掛けるプリンセス。
「さすがギリアっち!
話がわかるじゃないか♪
無駄な筋肉も伊達じゃない!」
「無駄じゃないし!
…ただ、誰か付き添いをお願い出来ないかな?」
「では、ルナナラは…行けるか?」
(やっと喋ったな⁉︎王様!)
自分に矢が立つとは思わなかったメイド長は慌てて返す。
「は、はい!
…姫様が同行をお許しくださるのなら…。」
オドオドと姫に目をやるメイド長。
「…いいよ、もう!
そのかわり、お兄ちゃんが帰ってきたら仲良くしてよね⁉︎
…ボクはルナナラの事だって大好きなんだからさ。」
「…ぶ、ぶふぁい!
あしゃしゃとしゃいましゅ!」
もう顔面から出る液体が全部漏れ出しているメイド長…。
それ程の何かをやらかしたのであろう。
怒られても嫌われても許されても喜べるとは…
何とも幸せな国であろうか?
…ただし狂ってはいるとアサヒは呆れる。
「じゃあ、サポートでスチラル。
この二人を付けましょう。
昼食会の準備もしておきますので、
そこでまたゆっくりとお話ししましょう。」
(居たのか⁉︎第二王子!)
「お任せください。
仕事は超一流なのに空気の読めない駄メイド長のサポート、
しかと拝命いたしました。」
第二王子に指名された、
どちらかと言うと貴女の方がメイド長なのでは?
という落ち着きぶりで深々と頭を下げる。
すすす…と横歩きでスチラルに寄り添って、
スカートの端を掴みながらルナナラは懇願する。
「すっちー、よろしくねぇ~~!」
「人格が崩壊していますよ、メイド長。
あと変な液を飛ばさないでください…。」
仲良しさんなのかな?
スチラルは表情を変えずにルナナラの顔面の液体の処理に慣れている様だ。
「じゃあさ、早く行こ~♪」
ピョンピョン、くるくるとエネルギーが有り余っているプリンセスは、
すでに扉の向こうで飛び跳ねている。
「ところでアサヒ様、
お身体の具合の方はいかがでしょうか?」
冷静沈着なメイドさん、
スチラルに尋ねられるまで気が付かなかったが…
「ああ…そういえば何だかあの子を見てると
知らないうちに元気になった気がします♪」
『でしょう?』と口には出さないが、
無表情なのだと思っていた彼女が浮かべた満面の笑顔に、
アサヒは…ようやくこの国への滞在を許された心地がした。




