そして、〇〇姫はくるくる回る。その1
朝食を済ませ、
出発の為の身支度を整えたアサヒが一階に降りると…
「あらぁ…遅いじゃ無いのぉ。
急がないとぶち殺すわよぉ♪」
と、上機嫌な竜人様が、
テーブルに突っ伏してグロッキーな先程までの盟友達を介抱していらした。
(なんであの短時間でシラフに戻れてるんだよ⁉︎)
「…楽しかったわぁ…。
この思い出は多分、
お昼くらいまでは忘れないわぁ!
また…一緒に飲みましょうね。
また…あなた達のツケで!」
辛そうな表情で颯爽と立ち去ろうとするリアはこの際放っておいて、
ギリアは保護者としての責任を選んだ。
「お会計!お会計~!
ウチの連れと、この二人の分は私が払うよ!!」
(…ギリアさんにとっては…
地獄の方がまだ楽かもしれませんね…)
などと思いはしながらも周囲の視線を避けながら、
そそくさと外に出るアサヒであった。
その目前に広がる光景は…
確かにティルスガルよりも酷かった。
好きか?と聞かれればYESと答えるが、
住みたいか?と聞かれればNO!である。
そんなアミューズメントパーク一歩手前の変な日常がそこにはあった。
(もう天国と地獄の境界は彼方へ…だな。)
ともあれ、
この国の住人が選んで楽しんで生活しているのだからそれでいいのであるが。
(排他的な観光地って何だよ…。
鉱山なんかよりもコッチの方が潤うんじゃ無いのか?
この国…)
そんなお節介な思考をしていると、
ようやくギリアが出て来た。
「ん~、とおちゃ遅い~…。」
「もぉ~、何やってたのよぉ~?」
「お会計と謝罪だよ!
皆さん寛大だから笑って許してくれたけどね!
め!っだよ、もう!」
完全にお父さんである。
これからこの国の城に向かう訳だが、
各店舗が営業開始する前の時間で本当によかった…。
女性陣二人は通り沿いに並ぶ店の壁に描かれた絵で判断しながら、
帰りに立ち寄るべき店を選定しながら進む。
「どうせ何日かは滞在するんだから、
開店した後にゆっくり回れるだろ~?」
「何よぉ、見てるだけでも楽しいじゃないぃ。」
「ん、ウィドウショッピング!」
(…未亡人の買い物がどうかしたかよ…。)
うろうろしながら、
さして広くはない街を抜けた先。
こじんまりとはしているが、
造りは充分に立派な城門に辿り着く。
「やぁ、君達…久しぶりだね!」
国の平和を物語る、暇で眠そうな門番さんが二人。
どちらも一応は鎧を身に纏っているが、
重たそうな兜と肩当ては足元に転がっている。
一人はいかにも休日には趣味でスポーツでも楽しんでいそうな好青年。
一人はいかにも休日には趣味でギャンブルにハマっていそうな髭中年。
(いいのかよ?それで!)
「あ!ギリアさん!
遅かったじゃ無いですか…大変だったんですよ~?」
「え?
何かあったのかい⁉︎
てっきりいつものお茶の誘いだと思ってたんだが、ははは。」
呆れた顔の、
ギリアを見て背筋を伸ばす青年側の門番さん。
「ギルドまで通してお茶会の招待する訳ないでしょう!」
「ま、まあ冗談だよ…。
一応話は聞いているけど、緊急度は低かった筈だが…。」
ギリアを見ても城壁にもたれかかって眠そうな、
中年側の門番さん。
「そっすねぇ、
クエスト自体はその筈だったんすけど…
状況が急変しましてね、
王様は今、療養中です。」
「え?スーさんが⁉︎
何?どうして?」
「それが…姫様がちょっと…。」
「はぁぁ…、
また何かやったな、レイヤ君…。」
頭を抱えて溜息をつくギリアは遠目で見ているアサヒ達に目をやり、
こちらに来るように手振りをする。
「まずは紹介しておこう、
今の私の大切な仲間達だ。」
と前置きをして三人の素性を話す。
「へぇ…これはまた珍しい組み合わせで…。」
「これなら姫様も喜んでくれるかもっすね~。」
それを聞いたシュミカはリアの陰に隠れて怯える。
「ん…?
とおちゃ…僕達、売られるの?」
「売らないよ!
所で、何があったんだい?」
話しながら兜を被り、身なりを整えて…
改めて城門の前で姿勢を正した二人の門番は、
数回扉をノックして開門係に扉の開放を促す。
「まぁ、これ以上は我々がお話できる範疇ではありませんので。」
「中の者から直接聞いた方が正確っすよ!
では…」
『旅の方々、
ようこそクルセイト王国へ!
王がお待ちです、
どうぞお通りください!』
(あぁ…暇だから、
こういうのはちゃんとやりたくて練習してたんだろうな…。)
と、重たそうな音を立ててゆっくりと開く扉が止まるのを待ち、
多少は畏まったフリをしながら三人はギリアの後に続いて城門をくぐる。
その先には、朝露をまとった花々が整然と並ぶ参道が伸び、
思っていたより短い大手道の先には、
もうひとつ門が見える。
あれが城の本丸へ続く入口なのだろう。
もの珍しさにキョロキョロしながらそのままギリアの後に続いていると、
その門の方から…
服装こそラフだが首から上が場違いな、
ギリアより半回り程小柄で…
猟奇的な風貌の『男』が、来た!
「やあ!
遅かったじゃないか、ギリア~!
…それはもう、本当にいろいろと…。」
首から上が包帯まみれの男は多少モゴモゴしながら握手を求める。
「その声は…ディルかい⁉︎
また派手にやられたなぁ…あの子かい?」
「そうなんだ…もう手がつけられないよ。
で、そちらの方々は?」
駆け寄ってくる包帯大男の恐怖にギリアの影で震えていた三人を宥め、
隣に並べて紹介タイムが始まる。
「こちらの彼は、
この国の第二王子『ディルノード=クルセイト』、
王様である『ストリード=クルセイト』と同様に私の友人さ。」
「我々は余程の場合以外は格式なんて気にしない。
ギリアの仲間なら尚更だ!
よろしく頼むよ。」
その後の三人の紹介は、いつもの様なくだりがあり、
珍しい組み合わせという流れで歓迎される運びとなった。
(アニメ柄風アロハシャツの王族ミイラの方が珍しそうだけどな…。)
その後城内へ案内されて通されたのは謁見の間…ではなく、
その厳かな扉の先にある多少は品位を整えた医務室である。
「ス、スーさん、なんでこんな所に?」
ディル程ではないが痛々しい姿の、
ギリアよりは少し上であろうか?
王様と聞いて勝手に老人をイメージしていたが…
まだまだ戦場に立てそうな程の立派な肉体美が従者に守られて、
上半身を大きなクッションに預けている。
「おお、来たか…久しぶりじゃのぅ、ギーちゃんよ。」
口調だけはイメージ通りの老人だった。
「いやぁ、偉ぶるつもりもないし…
この怪我で玉座はゴメンじゃよ、フホホ。」
心配と苦笑いを混ぜたような表情のギリアは
「頭が高いままで失礼するよ。
後ろの彼らは…」
「聞いとるよ。」
と、後ろでコソコソしている三人に王は目を移す。
「ワシの親友に気に入られてくれてありがとう、感謝する。
この国の『王様』なんてものをやらせてもらっとる、
ストリード=クルセイトというおじさんじゃ。
よろしくの。」
(王様の方から自己紹介をさせてしまった!)
と、さすがの三人もどうして良いか分からず、
ただただ黙って二人の筋肉を交互に見て…
結局ギリアの顔を涙目で見つめる、
という避難動作に落ち着いた。
「ああ、本当に大丈夫だよ。
彼は強き良い王だが、民の良い友人でも有る。
あの口調も罰ゲームがそのまま癖になっただけだし、
この国に対して宣戦布告でもしない限りは寛大だよ、ははは!」
「なんならそこらの椅子に腰掛けても構わんよ。」
その言葉を合図に、
数人いた従者の方々も堅い表情を崩して椅子を並べてくれた。
それぞれが王を称えているのも伝わるが、
その王と共に日常を楽しもうとしているのも伝わる。
そんな演出混じりの中、アサヒは突然膝を崩して転倒してしまった。
「あらぁ…どんだけ緊張してたのよぅ…?」
「ん、本当に情けない男…くすくす…。」
アサヒは目線がこの高さになったからこそ気づく。
(お前らの膝もガクガク震えてんだろうが!)…と。




