そして、文化とクルセイト。その3
アサヒが選んで注文したメニューは想像通りで満足のいく物だったが、
シュミカが計った目論見は外れ、彼女には不満が残った。
丁寧なシュミカの説明に信頼度など無い事には慣れている。
見事に裏を欠いたアサヒはニヤニヤしながら美味しい朝食を満喫していた。
「ん…ん~!
本当につまらない男!
地獄に落ちるといい!」
「いいとも、
その時は必ず道連れにしてやるけどな♪」
この酷い一連のやり取りの中に、
お互いの
『昨日はありがとう。』
が込められている事に気づける程に、
ギリアは彼等に惹かれ、今までにない安らぎを感じている。
「その時は私もお供して良いかな?」
照れ笑いしながら介入したつもりだったが…
「ん?
当たり前…何言ってんの?
とおちゃ…。」
「貴方抜きで地獄とか行ける訳ないでしょう!
頼みますよ!?」
と、彼等は当たり前に返すのだ。
(…たまんないねぇ、
地獄に行ったって絶対に守ってみせるさ!
ははは!)
何やらニヤけているギリアを訝しげに見る視線に気づき、
誤魔化しながらに話題を変える。
「あ、そう言えば前回ここに来た時の話をするって言ったよね。」
苦し紛れだが、本題といえば本題の話題を思い出した。
「ん?
何?僕は初耳…。
アナタ達の深夜の語らいに…期待♪
ふんふん☆」
いかがわしい妄想も悪くは無いが、
この場合は気持ちが悪すぎる。
「そんな語らいはねぇわ!
変な本に毒されやがって…。」
「ん…アナタだって集めてるじゃない…。
僕達をあんな目で見たら許さない…から。」
「あ…あんな目ってなんだ!?
内容なんか知らんだろう!?
…知らん、よな?」
「…ん。
知られては困る様な内容である事は…
今、知った。
…ドン引きです…。」
(ガッデム!)
項垂れるアサヒに哀れみの目を向けながら、
ギリアは語る。
「その最近流通する様になった本さ、
アサヒ君の世界に有った物なんだよね?」
涙目でうなづくアサヒ。
「別に隠していた訳じゃないが、
わざわざ言うタイミングもなくて言ってなかったが…
その発信源がココなんだよね。」
意外というか、意味の分からない話。
だが向かいに居座る変なのはビクン!と
トレードマークの三白眼を丸くして興味津々だ。
「まぁ、まずは聞いてほしい。
以前に私がここに来た依頼は現地調査なんだ。
この様にギルドも有って外界との繋がりを絶っている訳ではないが、
外から入るのは困難なこの国への挑戦クエストは
高ランクの冒険者の間で話題になっていてね。
特に最近になって流行り出したその絵本。
昨日立ち寄った村を通して出回っているんだよ。」
(間違ってはいないが、アレを『絵本』と呼ぶのは如何なものか?)
「君はまだこの部屋の外を見ていないから分からないだろうが、
ティルスガルより凄いよ…今のこの街は。」
それだけで既に若干引き気味のアサヒが周囲に目を走らすと…
確かに壁に掛かる絵画の様なものが、
かつて見慣れた絵面である事に気づく。
「あぁ…。
なんだか度し難いですね…。」
アサヒは呆れる他に無い。
それとは真逆に、
普段はクールを装っているつもりでいるローブ娘は…
血走った目をギラギラさせながら、
『ん~!それで?それで~?』と
前のめりでテーブルをパタパタと叩いて続きを請う。
「と、まぁ…接触が難しいとはいえ、
一応貿易も行ってはいるのさ、この国も。
私は疎いからよくは知らないが…
確かココでしか見つかって無い特別な金属の鉱山があるとか。」
「ああ、それで余所者を拒んでると…。」
「そういう事。
言っただろう?
とあるアイテム…まぁ通行手形みたいな物だね。
それを持っていれば問題ないが、
持っていなければあのガーディアン達に排除される…らしかったんだけど、
その時はギルドから急いで確認して来て欲しい案件として依頼を受けててね…
事情を知らなかったから普通に薙ぎ払って入国したら王様、
『ストリード王』にエラく気に入られてさぁ~、ははは!
今では『ギーちゃん』『スーさん』で呼び合う仲なのさ!」
(…どっかの社長っぽい呼び名だな。)
「その時の依頼って…。」
「この国に招かれた『客人』が、
何か愉快なことをしているらしいから確認してきて欲しいって依頼だね。」
何かを悟った様な小娘が割って入ってくる。
「ん、愉快愉快♪
して、その客人の名は?」
「『レイヤ=タテガミ』
そこらに溢れている絵や本は殆どが彼の作品らしいよ。」
アサヒはその名に何か覚えがある、というか知っている。
『立神 零也』
アサヒの世界での人気漫画家だ。
元々は素人絵師、同人作家で某SNSに自らの絵を載せ、
多少の人気が出てきた頃にアサヒもファンになって繋がった。
ある時から煮詰まったのか、
ネガティブな書き込みが増えて…
フォロワー仲間で励ましたりする中、
突然そのアカウントは消え、忘れられた。
だが何年か後にその名前は多くの人が知る事となる。
商業誌で大ヒットを飛ばしたのだ!
やがて公式アカウントが出来、
アサヒ達も含む昔のフォロワー達は、
ミーハー心から再度集まって『彼なのか彼女なのか?』
…を心から(何か美味しい話にはならないか?と)祝福する。
本人は驚く程寛容で、
過去の励ましがあったからこそここまで来れたのだと、
忙しい中、時間を作って当時の仲間内でのオフ会を開いてくれた…。
それが『あの夜』である。
(そうか…どうりですぐに好きになった訳だ。
あの人まで来てるなんて…今頃、元の世界では騒いでるんだろうな…。)
「ん!ん!ん~~!
リア、リア、大変~!」
と、シュミカがリアに駆け寄って今の話をすると、
リアは盛り上がっていた酒の席をなんの未練も無く放り出して
アサヒが居るテーブルに特大グラスをドンとおく。
「レイヤ様のサインが貰えると聞いてきたわぁ!
さぁ!白状しなさいなぁ!」
もはや朝からの酔っぱらい具合ではない。
「シュミカ、あちらのテーブルへお返ししろ。」
「ん…興奮して早まったのは反省する…。
でも…無理ね…。
リア、落ち着いて…
下手人は逃げないから…尋問、拷問し放題だからー。」
「させんな!」
「とりあえずマスターぁ!
アタシとこちらの方々にも同じ物をぉ~!」
「頼むな!
飲ますな!
朝だしこれから出掛けるんだぞ!」
それを眺めるギリアは苦悩する。
(私は本当に彼等を守り切る事が出来るだろうか…
いや、ついて行くことが出来るだろうか?)と。
「いやいや、落ち着いてリア君!
彼がいるのはこの後に向かう場所だから、
とりあえず行ってみよう!
会えるかどうかはそれからだ!」
「ん、どうどう…」
とシュミカに促されて元のテーブルに戻ると、
何もかも忘れたように元のテンションで朝の宴は再開された。
「…アイツは置いて行きましょう。」
ギリアは天を仰いで溜息を吐く。
「そうしたいけど…それ、出来るかなぁ?」
沈黙が全てを語った。
そして、ギリアは些細な疑問をアサヒに問う。
「あ、そう言えば…君はまだこの世界の文字読めなかったよね?
だから作者名も分からなかったんだろう?」
「俺が集めてるジャンルは、
絵で伝わるから大丈夫なんです!」




