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そして、俺は〇〇になりました。  作者: Foolish Material
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そして、あなたのファンになりました!その2

(こっち来んなす、こっち来んなっす、こっち来んな~…っす!

 圧が!筋肉の圧が凄いっすー!)


 数人の客に囲まれながら木陰で歌っている少女は

 真っ直ぐにコチラを見つめながら歩いてくる大男に怯えていた。


(ナワバリとか無いすよね?!

 『晴れの休日、ココは俺様の昼寝場所だ!

  知らなかったのか?この田舎者め!』

 …とか、無い~っすよね!?)


 額にうっすらと冷や汗を浮かべながら、

 手元のギターによく似た楽器に目を落として何とか曲を終える。


 客達の拍手など耳に入らず、

 さっさと片づけて場所を移そうと顔を上げると…。


 屈強な大男は他の客達の端っこにチョコンと腰を下ろして、

 楽しそうに控え目な拍手を送っていた。


 同じく隣に座るヒョロッとした青年と曲の感想を話している。


(…良がったすー、お客さんすっかぁ~。)


 子供の頃からの夢である『唄うたい』を目指して仲間達と小さな街を飛び出し、

 立ち寄る街や村に自分達の曲を残そうとしている真っ最中だ。


 現在は各メンバー総出で旅費を稼ぐために、

 このティルスガルに滞在してバイトの日々である。


 そんな夢追い人『ノーイラ=タスツ』は、


 夜からの仕事までの時間(いかがわしくなどは無い。ただの飲み屋の店員だ。)に、

 数日前から曲のブラッシュアップと練習も兼ねて、

 この公園での弾き語りを始めた。


 まだ馴染みきれていない、この街の風を追い風にする為に。

 

「あ、あの~…まだ続けても大丈夫っすか?」


 目の前の圧に対する漣のような小さな安心感は少しの勇気を少女に与える。


(害は無さそうっす!負けちゃダメす~!強くなるんっす!)


 今日は終わりか?と、

 離れようと立ち上がった数人の客が

 改めて拍手を送りながらまた彼女を囲む姿を見た人達が何事か?と集まってくる。


 ふとアサヒが周囲を見渡すと、いつの間にか人集りが出来ていた。


(すげぇ…、これが集客のテクニックか!?)


 ただの偶然である。


 しかし、その偶然をモノにするのが更なる飛躍へのチケットをもぎ取る為の最も必要な才能であり、

 仲間達との夢を叶える為に、

 夢追い人はその瞬間を決して見逃さない!


 スッと立ち上がった彼女が人差し指を高く上げ、

 大きく息を吸った途端、騒めいていた人達は呼吸を止めた。


 先ほどまでとは違った、

 透き通った声で静かにゆっくりとその曲は始まった。


 ワンフレーズを歌い終えて少しの余韻を残した後、

 周囲を見渡してニンマリと笑みを浮かべた彼女の目は言っていた。


 『お前ら全員喰ってやるっす!』と。


 テンポを速めた同じフレーズを楽器と共に歌い始めると、

 その場のボルテージは最高潮に達する!

 

  アサヒはかつて追い求め、

 得る事が出来なかった光景の中心で輝く少女に心奪われる。


 もうそちら側ではないと納得していた自分の心に、

 再び芽生えた小さな火種を捧げたくなる気持ちに高揚して身体全体でリズムを刻む。


 他の観客達も、それぞれが思い思いのノリ方で盛り上がっている。


 やがて冒頭の静かな雰囲気で、

 どこまでも続く光の糸の様な余韻を残して曲は終わる。

 

 ノイの呼吸を整える音だけが残り、それも静かなリズムを取り戻してゆく。


 サッと周囲を見渡した後にノーイラ=タスツが一礼すると…

 割れんばかりの拍手と歓声が彼女を包んだ!


 …広い公園の一角ではあったが。


 それでもその周囲に集まった人達の心を鷲掴みにしたのは間違いない事実である。


 その後、軽い小話を挟みながら軽めの曲を二曲ほど披露し、

 それらも十分に盛り上がった。



「はーいはい~、

 そろそろ疲れてきたんでぇ~…

 最後は自分の田舎の民謡で締めまっす~♪」


 名残惜しそうな雰囲気の中静かだが軽快なテンポで始まったその曲は、

 牧歌的で郷愁を誘う短いフレーズを繰り返すだけの物であったが…


 それ故にいつしか集まった人達のハミングを誘い、

 いつしか優しい合唱を公園に響かせた。


 …いつまでも続けていたかった。

 だが、その時は来てしまった。



 その楽しくも素晴らしい、ひと時は…


 

 アサヒの脇で今まで楽しそうにしていたノイと同じくらいの背の…

 犬?いや、吊り目具合から狐系だろうか?

 …の獣人の少女が突然青ざめた表情でピタッと止まる。


「やばいやばいやばい~~!

 ノイ!ノーーイーー!時間!じーかーん~!」


 大声と身振り手振りでノイの視線をなんとか惹きつけようとしている。

 どうやら知り合いの様だ。

 

 旅とバンドの仲間だろうか?

 

 そのアサヒの反対隣…やっと心の中で反復してイケるかも!?

 とでも思ったのであろうか?(否定はしない、楽しみ方は自由だ。)


 ギリアがそのハミングに参加し、

 出し慣れない声の大きさで全体に不協和音を加味してくれたお陰でノイの視界に獣人少女が映り込むと…


「ああああああ~~~~~!!」


 …っとの叫びと共に突然に終焉を迎えた。


「バイト!バイトの時間っす!

 みなさま!ありがとうごまざっしたったっす~~!


 ここでちょこちょこ歌ってますんで!

 気に入ってくれたらまた来て欲しいっす~~!


 あ、あ!ニリシュ~~!

 手伝ってぇ~~!」


 余韻に浸る間も無く解散とはなったが不満を漏らす人達などおらず、


『バイト頑張れよ~』とか、

『また来るよ~』とか、

『何処で働いてるの~』


 …的な声に愛想笑いを返すノイの邪魔になるまいと、

 その場はそそくさに静かな日暮れの公園のと化した。


(訓練された野次馬だ!)


 呆然としているアサヒの隣に先程までいた獣人の少女は、

 ノイの荷物の片付けに悪戦苦闘している。


「ぁあ~~りがとぉ、ニリシュ~。

 ご飯食べれんくなるとこっしたわぁ~…。」


「はいはい~、黙って片づけりぃ!

 …でも、ええ演奏聞けたわぁ♪

 今日も頼むよ~。

 取り敢えず早よ!

 時間に入らんとママにドヤされんで!」


 そんな会話を聞きながら、

 ちょっと知り合いになってみたいとソワソワしているアサヒの両肩を、

 ガシッと掴んでギリアが震えている。


「音楽っていいねぇ!


 私はとても心が震えたよ!

 本当に!

 そこら辺の魔王どもと一戦交えて勝ち残ったのとはまた別の高揚感だ!

 私は彼女のファンになったよ!」


(いやいやファンになったのは俺もだけど…、

 てか、そこら辺の魔王どもって何よ…。)


 その大声に反応したのか… 


「ああ~!

 なんか圧の凄い筋肉まだ居たぁ~~!」


 手慣れた感じでサクサクと片付け終えた歌姫は

 ガタガタ震えて獣人の少女の陰に隠れる…。


 それを宥めながら獣人の少女はフレンドリーに手を差し伸べてきた。


「ああ、この子…でっかい人怖がるクセあるんっすよ~。

 気ぃ~悪うせんといてください。


 ノイ~…ウチずっと隣におったけど、

 凄い楽しんでくれとったで~。

 ええお客さんよぉ?」


 様々な地域の言葉遣いが入り混じった口調の彼女はきっと感受性が高く、

 長い旅を続けてその様な言葉使いになったのだろうと想像させる。


「はい!

 凄く良かったですよ!この筋肉は飾りです!!」


 と、答えたのはアサヒではなくギリアであった。


(アンタでも緊張するのかよ…。)


「ちょっとウチら時間ヤバいんよ、

 もし良かったら一緒に来いや~!

 出勤時間さえ守りゃ話す時間はあるしぃ!」


「ちょちょい、マジすか!?

 いや、早く行かんと!

 入りだけは守らんと!」


 悪戯っぽく笑みを浮かべた獣人の少女は落ち着いて言う。


「お客さん引っ掛けて行きゃ笑って許してくれるっしょ♪」


 それならばと飾りの筋肉を纏った金ヅルは、

 時間を気にして困っている歌姫の力になれればと…

 獣人の少女、

 ニリシュ=トリーミリュに耳打ちする。


「なんとなくで良い、

 目的地のキーワードと座標を思い浮かべてくれないか?」


 さすがは旅人、

 それだけで意図を汲み取ったニリシュはギリアの背中に抱きついて耳元に囁く。


「ゴムール、ティルスガル支店。

 座標は…あの辺?」


「十分、了解だ。

 さあ、荷物は手に持って!」


「ノイ!大丈夫?

 忘れ物はせんときよ!」


 と、周囲の荷物を抱えた事を確認したギリアは背中にニリシュ、

 両腕にノイとアサヒを抱えて高く高く飛び上がる!

 

 絶叫しながらアサヒとノイはなすがままで、

 ニリシュは爆笑しながら楽しそうに豪快に笑う。


(この獣人…リアとシュミカには絶対に会わせてはいけない人種だな…)


 かなり上空でスピードは勢いを止める。

 そこでアサヒは驚愕の言葉を耳にする…


「精霊さん、精霊さん…

 座標はあの辺、

 ゴムール=ティルスガル支店でよろしく!」


(どんなアバウトな魔法だよ!!)


 やがてアサヒは重力というものを呪いながら意識を失っていった。

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