そして、あなたのファンになりました!その1
中継地点の街が『ティルスガル』である事を聞いた女性陣は舞い上がっていた。
この旅の中で、
各地の街に寄る度に荷車の重量が少しづつ増えている元凶『薄い本』。
勿論アサヒは気付いているし、
そこに触れないマナーも心得ている。
それに、その自業自得で重たくなった荷車を引くのはリア本人なのだ。
ただ、そこに注ぎ込む金を一回で良いから保管用の
『何かしらのアイテム』に使えよ!
…とは口には出せない。
斯く言う本人も同様であるからだ。
変な藪蛇にでもなったら嫌過ぎる…。
アサヒの方はというと…
既に元の世界での教訓を生かし、
マジカル的なポシェットを何重にも重ね、
深い迷宮の様な闇の中に保管している。
『ティルスガル』は、
それらの文化を最近になって爆発的に広め、
ここ最近で急成長した街だ。
のんびりと野営と修行を楽しみつつ、
数日かけてその街に辿り着いた一行は、
身元の証明等の為に街のギルドに立ち寄って手続きをしている。
アサヒ達は気づかなかったが、
複数ある窓口の一つで
暇そうにしていた職員がシュミカとリアに目を止めていた。
「あら、あの子達…
捜索に出てたのに似てないかしら?」
と、話しかけられた
隣の窓口で爪をいじっていた別の職員も目をやる。
「言われてみれば…
条件は当てはまってるかな~…
でも、
人探しにしては報酬が高かったから覚えてるけど~
振り込みが無くなって、取り下げられたはずじゃん。
解決したんじゃ無い~?」
と話しながら、二人で手元の資料をパラパラと…。
「…あ、本当。
終わってるわね。
無事に会えたのかしら?」
「だと良いけどね~。
何にしても、
ウチらが見つけちゃったらダメじゃんか~☆」
「そりゃそうね♪」
その後、二人の話題は昼食のメニューに切り替わった。
やがて、ギルドでの要件を終えた一行は、
先へ進むための買い出しも兼ねて観光に出かける。
この街は大きくはないが、密度が濃い!
更に、この街ではとある方向に濃い!
(うわぁ…、
好きだったけど…異世界で第三者として見ると、
アレだなぁ…。)
よく言えば華やかである。
多種多様な種族人種が様々なコスプレの様に見える姿でさえ、
この街ではごく普通のファッションなのだろう。
二次元では違和感が無かったが、
現実に存在しているとちょっと戸惑う…
そんな、ハロウィンパーティーと言えば格好が着きそうだが…
それとは別のイベント会場をごく自然に、
当たり前の様に日常に取り込んでいる街。
それが『ティルスガル』であった。
(街の名前を『アキブクロ』にでもしてしまえよ…。)
流石に街並みが近代的とまではいかないが、
街中のアートや賑わい、
ここ最近で発展した勢いがアチコチに溢れ出している。
そんな混沌とした風景でさえ、澄んだ空気と空の広さが全てを包み込んで調和させていた。
「え~とぉ~、確認しても良いかしらぁ?」
「…何だよ、情報過多で大変なんだけど!?」
「ん、この街での滞在予定は?」
アサヒの肉体的、精神的、
異世界順応具合を何となく考えながら
クエストの事も踏まえてギリアが提案したのは…
「…そうだね、
それ程急かされている訳でもないし、
二日程度…くらいなら、
休んで英気を養っても良いんじゃないかな?」
アサヒもギリアも、
狂犬達の首輪を解き放ったつもりはなかったが…
「アタシ達はアタシ達の必要な物を買い出しに行くわぁ!」
「ん!
僕達には食糧よりも大切な物がある!」
「二日後の朝にギルドで合流で良いわよねぇ~…っ!」
そう言って返答を求める気も無く、
腐った探求者二人は人混みの中に消えていった…。
「帰りにしてくれよ~…。」
「ははは!
…荷車を先に預けて置いてよかったね。」
とはいえ慣れて来ていたこの世界で、
改めて気分が高揚して来たアサヒも先の二名に習い、
この街の探索欲求が湧き出てくる。
「ギリアさんは、
この街は初めてじゃないんですよね?
買い出しついでに、少し楽しんでみたいんですけど…
大丈夫です?」
「ああ、いいね。
もちろんさ♪
私が案内できるのは人が集まりそうな所だが良いかい?」
「あ、はい。
せっかくなんで楽しみながら行きましょうよ♪」
買い出しも程々に、
心地良く流れる空気の揺らぎに引き寄せられて進む。
やがて漂ってくるのは公園で歌っている声と、
露店から漂う香草やスパイスの混ざり合う甘美な香り。
香りは幾つもの層を成して食欲に語りかけ、
草木を踊らすのはアコースティックな音色、
どうやら弾き語りをしている様だ。
曲調は明るく楽しく、
その澄んだ声は周囲に集まる人達を沸かせ、
空に自由に絵画を描いている様な奔放さでその場を幸福感で満たしていた 。
「あぁ、ここの公園はオススメだよ。
様々な世界の残思が芽吹いている…。
私は好きなんだ。
ほら、アチコチでそれぞれが大騒ぎさ♪」
広く開放された公園には様々な音が薄く混ざり合って広がってる。
そんな中で、アサヒは懐かしい感覚を取り戻す…。
「この曲良いなぁ…。」
「ああ、何か演奏しているね。
君の世界の音楽に近いのかい?」
何にでも手を出しながら上部だけをなぞってきたアサヒは
ハッキリとは答えられないが、
「そうですね…
どこの世界でも音楽はあるんですね…
ちょっと近くに行っていいですか?
俺も趣味程度ではやっていたんですよ。」
それを聞くとギリアは目を丸くしてアサヒを讃える。
「そうなのかい!?
凄いじゃないか!
私にとってはアレこそ魔法だと思うんだ。
とても幸せになれる!」
「そ、そうですね…、曲を作るのはそうだと思いますが…
残念ながら作る才能には恵まれなくて…
俺はその補助、
求められた音をなんとか理想に近づけようと演奏する側でしたよ。」
その言葉を聞いたギリアは
何かに気づいたようで、
少し言葉を選んでから切り出す。
「…君はそこに何か劣等感を持ったことがあるのかも知れないが、
私にとっては、
私が剣を振るう事しか出来ない事に似てるのかも知れないな。
私に出来ない事が出来るのは、私は尊敬するよ。
さらに謙遜するという事は
いつかもっと出来る事を知ってるって事だろう?
何かを作ろうとする者を支えて力を貸して形にする。
それはこの世界の精霊さん達みたいな物凄い存在だよ、
誰だって、自信を持って良いんだ。
それだけは覚えておきなさい。」
(あ、ずっとこれを伝えようとしてくれていたんだろうな…。)
と直感した瞬間、
アサヒに見えていた世界の彩りがさらに鮮やかになるのを感じた。
「もう少し近くで彼女の歌を聴きたいんですけど、良いですか?」
何か吹っ切れてくれた事を感じたギリアは優しく微笑んで頷く。
「ああ、もちろんだとも。
音楽の難しい事はわからないが…、
私も彼女の歌が好きになったよ!」
その彼女は、
目立ちまくっている謎の筋骨隆々の戦士が近づいて来ません様に…と、
祈りながら歌を奏でる。




