そして、とにかく鍛錬です! その2
少しの事情と思惑を胸に、
どう話せば上手く伝わるのか…?
と、口下手なマッチョマンは思考しながら口を開く。
「さっきギルドで持ち掛けられたんだが…、
ちょっと厄介そうなクエストが有るんだよ。
私的には…依頼者に義理があるので助けになれれば良いかな?
とは思っているんだが…。
ちょっと特殊な案件でね…
期間も長く拘束されるかも知れないから意見が聞きたい。」
「え~?長い面倒事は嫌よぉ~。」
と露骨に嫌そうな顔をする竜人の目前に、
餌をぶら下げようと頑張る三流ペテン師が下手くそな三文芝居。
「そうかぁ~…以前のクエストで世話になった、
とあるちょっと訳ありな王国の王様からの依頼なんだが…
私自信も、
苦手だった相手も絡んでいるみたいだから断ろうと思ってんだけど…
アサヒ君への試練としては丁度良さそうかなって思ってさ~、
嫌なら良いんだよ?嫌なら~…」
鯛を釣ろうとしたが、引っ掛かったのは海老だった。
「ん、王様⁉︎
権力者⁉︎」
金と権力の亡者は置いておいて、
本当は引き受けたいヤツなんだろうな…と思いながらも、
アサヒは性格から
今の日常が変化する事への抵抗も感じてしまう。
(ダメだ!まず一歩だ!
この人が居れば死ぬ事は無い。
痛い事もその内に治る!
折角鍛えてくれると言うんだから、強くなってから考えろ!)
そう気持ちを改めたアサヒは三白眼にキラキラと星を宿しているちっこいローブと、
それを見てゲンナリしながら溜息を吐くトカゲもどきに目配せをすると決心を固めて頷いて、
ギリアの小芝居は空回りしていたが…
その結果として鯛も釣れた。
「行ってみたいです!お願いします!」
「ん…その心意気や良し。
アナタも金と権力の虜♪」
「違うわ!先に進む為に強くなりたいの!」
「んもぅ…わかってるわよぅ…。
まぁ、この街のグルメは食べ尽くしたし、
次に行くのも悪くは無いわぁ。」
見掛け倒れの筋肉大根役者は、
何とか上手く話が進んだ事に安堵しつつ、
改めてこの仲間と共に在る事を楽しく感じる。
「そうかい、一緒に行ってくれるかい!
良かったよ~~、
本当に断られたら最低ランクへ格下げの話だったんだよ…。
あ…今、受領が確認されたね!
よしよし、楽しくいこう!
ははははは♪」
突然キラキラと天から光の粉がギリアに降りかかると、
残りの三人の耳元に
『チリン…』
と、鈴の音の様な軽い音が呪の様に響いた。
「え…?
ギルドに戻ってから、改めて内容を確認しての登録は?」
「あ…そうか、知らなかったか。
私くらいだと緊急を要する依頼も多いからね。
私には見えないが、
とても偉いらしい精霊さんが遠隔で意思を届けてくれるらしいから大丈夫なのさ!
クエストの救出対象が実は黒幕だった…
なんて事も少なからず有るから助かるよね、ははは!」
ギリア程の冒険者が、
ただ断っただけで最低ランクまで落とされてしまうクエスト。
血の気が引き、
実はギリアが黒幕だった…などの想像を禁じ得ない三人は、
目の前で遠足に向かう子供の様に喜んでいる男に改めて畏怖の念を禁じ得ない。
だがこの街中でスキップしながら嬉しそうに飲みに向かう筋肉の塊に、
(それは無いか…)
と、思い直した後、
三人は自信らの判断の軽率さを律すると言う事を胸に刻んだ。
一人の浮ついた肉の塊と、
改めて異世界に迷い込んだ様なテンションの三人はやがて、
いつも一軒目に選ぶ店のテーブルに辿り着く。
この店では最近導入された個室サービスがある。
大騒ぎをしたいパーティや、
他に聞かれたくないクエストなどの情報のやり取りには最適である。
(はぁ…、
今日は何軒付き合わされる事やら…。
嫌いでは無いけどね…。)
そもそもこの世界の大衆が利用する様な飲食店に、
個室などという概念はなくはないが、
高級な店以外では少ない。
このパーティにはギリアが居て巻き込まれずにはいるが…
クエストに失敗して荒れた冒険者が、
宵の席で別のパーティの異性にちょっかいを出して
トラブルに発展する事も多く、
その度に一悶着が有り、
兵士達が集まって来て楽しいひと時がお開きにされてしまう…
そこで、アサヒが提案したのが料金上乗せの個室システムだ。
実際に物理的な個部屋では無いのだが
精霊の結界によってスペースを区切り、
注文などで客側が招き入れる店員以外は
認識する事のできない空間を形成している。
勿論、余分な手間が掛かるわけで…。
その分の個室代という別料金も発生するが、
話の流れなどの途中でも都合よく発動できる為に
店の評判も良くなり、
このシステムの発案者で有るアサヒのパーティはそれが免除されていた。
結果、このパーティが仕事終わりに選ぶ店はここである事が多くなる訳で、
お互いのメリットを存分に享受しての共存共栄関係がなされているのだ。
やがて注文を終えた料理がテーブルに並び終えてひと段落するとギリアが先程の件についての説明を始める。
「さて、改めてちゃんと説明するよ。
重たい話の様に感じたかもしれないが、
君達が思っている程の件じゃない事を先に伝えておく。
依頼者は確かに彼の国の王様だが、
以前のクエストで知り合ってからは私の良き友人でもあってね。
多分、私が断りづらくする為にギルドに圧力を掛けたんだろうさ。
でもギルドは融通が効かないから…ランク下げとかも本当にやってしまうんだよねぇ…。
この体格でまた薬草集めやドブさらいから始めるのは嫌だよ…。」
(薬草集めやドブさらいまで、この人でもやらされていたのか!)
「ふぅ~ん、
別にぃ~…アナタのお陰で生活は苦しく無いけどぉ~…
ど、どうなのかしら?!
ギャラは凄いのかしらぁっ!?」
段々我慢が出来なくなって、テンションが跳ね上がるトカゲ。
竜に連なる所が金銀財宝(欲)に特化してらっしゃるようだ。
「ん~、お金も必要。有るに越した事はなし♪
でも僕は調べている事があるから…知識が欲しい。
その国には大きい図書施設はある…の?」
アサヒは、そんなのは初耳だ…と思いながら、
シュミカに目を移す最中に、
リアのハッと何かを思い出した様な表情を無意識に心に残す。
ギリアは必死に昔の記憶を掘り起こして、
有ったような無かったような…などと、
自分のデータベースには存在しないフォルダを一瞬だけ検索して回答を出す。
「そうだね…、
私は本とかに興味を持った事がないから記憶にはないなぁ。
でも、大国ではないが、
古くから残って来た国らしいから、
それなりにはあるんじゃないかな?
ただ…、
今はどうなっているか分からないけどね…。」
(なんだ?その不安げな物言いは…)
「んん!古くからの国!
それはいい!ぜひぜひ行くべき!」
珍しく前向きに燥ぐシュミカを、
やれやれ…と、
少し寂しそうで、愛おしそうに眺めるリア。
(そう言えば、コイツらの過去を知らないな…。)
と、アサヒの頭には興味が湧くが、
この棘だらけの百合の花を前に、
今はその時では無いな…と、目前の話を進めることにする。
「で、安全…なんですよね?」
「さぁ?
まずは、国へ行って王様から依頼内容を聞かないとね!
まぁ、大丈夫大丈夫!
大まかな内容だと、厄介なのは間違いないが、
私と、あの国には凄いのがいるから問題ないよ!
ははははは!」
(こんなんばっかりだ!)
そして、翌日に旅支度を終えた一行は、
王国への中継地点の街『ティルスガル』に辿り着いた。




