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第1話 『ハーレム王を目指しませんか?』

 俺、兎田うさいだ育人いくとは女の子への免疫がほとんどない。

 目を見て話すことはできるけど、手を繋いだり露出度の高い服を見たら即アウト。

 今みたいに顔が真っ赤になること必死だ。


「な、なんでお前がここにいるんだよ‼」

「もうお目覚めですか? 本当に楽しい時間はあっという間ですね」


 朝、目が覚めた俺の左隣。

 そこで半裸の女の子が横になっていた。

 ネコ柄パジャマのボタンは恐らく全開。

 ギリギリかかった布団の隙間からは、胸の谷間が露出している。

 相変わらず、ウチの銀髪ボブショート婚約者は何を考えてるんだ。


「おはようございます、イクトさん。先ほどは、寝ながら私の体でお楽しみでしたね」

「俺、何したんだよ⁉」

「それはまあ色々ですよ」


 うっとりとした顔で汗ばんだ頬に手を当てる――獣坂けものざか小猫こねこ

 彼女は俺が10歳からの婚約者だ。まあ正式に婚約者になったのは最近だけど。

 それにしても俺は確かに昨夜ゆうべ、彼女が俺の妹の卯紗うさに連れて行かれるのを見た。

 その彼女がどうして、今朝も昨日と変わらずに俺のベッドに――


「頼むから。ちゃんとパジャマを着てくれ‼」


 布団の隙間から見える綺麗な白い膨らみ。

 明らかにブラなんてつけてない様子だ。

 そういえば前も寝る時はつけない派だとか、そんなことを――


「……な、なんでわざわざベッドから起き上がるんだよ⁉」

「この方がボタンを閉じやすいですから。それに……」


 ニタニタと小猫が俺の顔を凝視してくる。

 おっとりとしたタレ目なのに、こういうところに黒さを感じて仕方がない。

 それも小猫の魅力だとは思うけど。


「お、俺はしばらく目を閉じてるから着終わったら――」

「いいんですか? 愛しの婚約者のあられもない姿を見なくて?」


 目を閉じて布団に隠れようとする俺の耳元に、妖艶な声がそっと囁く。

 明らかに俺をからかうような発言だ。でも俺は絶対に顔を出さない。

 だって。


「た、たしかに見たいけど。それ以上にその……恥ずかしさが勝つんだよ‼」


 布団の中に俺の声が響き渡る。

 でもそれは当然のように布団の隙間から漏れ出して、小猫の耳まで届く。

 それを聞いた彼女のハートには、さらなるイタズラ心が芽生えたはずだ。


「では逃げ場がないイクトさんに対して、ちょっとしたお話を」

「……明らかに嫌な予感がするだけど」

「心配ありませんよ。昨日の続きを話すだけですから」


 昨日の続き。そう言われて俺の頭に浮かぶ単語は一つだけ。

 今や大半の男の夢は現実へ。

 俺からすれば是非避けたい展開。

 ズバリ、昨日の続きっていうのは――


「『ハーレム』についてです」


   ***


 近年、男の出生率が減少傾向にある。俺のクラスなんて8割が女の子だ。

 その影響もあって結婚率と出産率は下がるばかり。あきらかに男が足りないんだ。

 だから政府は世界共通である政策を開始した。

 それが『一夫一妻制の廃止』と『一夫多妻制の強制』だ。

 つまり簡単にいえば、今後結婚する時はハーレムしか認められない。

 その中で小猫は俺に――


「私とハーレム王を目指しませんか?」


 などと提案してきている。

 それもこの新政策が決まってからそれとなく。

 そして昨日はついに、同じ布団の中で大胆に。


「……お前的にはどうなんだよ? 嫉妬とか覚えないのか?」

「いわゆる正妻の余裕ですよ。仮にイクトさんが他の女性とエッチなことをしていても、私は側で悶えて眺めてられるぐらいの貫禄はあるつもりです。それに私が目指すのは私やイクトさん、他のハーレムメンバー全員で幸せになるための未来です。イクトさんがハーレムの主なら、簡単に目指せますよ」


 相変わらず小猫は俺を買い被り過ぎだ。

 小猫以外に、俺を好きなやつなんてどこにいるんだよ。

 仮にいたとしても、俺にはもうすでに大事な獣坂小猫っていう女の子がいる。

 さすがにその状態で他の女の子と付き合うのは、いくら法律でもご遠慮したい。


「ちなみにイクトさんはお忘れでしょうが。一夫多妻以外の結婚は即死刑ですよ」


 小猫の言葉に、つい2か月前。

 4月ぐらいにやってたニュースを思い出す。

 そういえば、そんなことを言ってた気がする。

 当時は高校生活が始まったうえ、小猫とその双子の姉――獣坂けものざか犬華けんかが居候をはじめたばかりでうっかり忘れてた。

 となると俺の選択肢は一つしかないわけで。


「頑張って作りましょうね。あなたに好意を抱く女性を集めたあなただけのハレームを」


 布団越しに聞こえる小猫の妖艶な声に、軽く体がビクンッと震える。

 いくらなんでも無茶苦茶だ。法律も小猫のこの態度も。

 普通ならもっと怒るべきだろうが、ハーレムなんて展開。

 それなのに小猫はノリノリで。


「ではまず、どなたから攻略していきましょうか?」

「まるで俺を好きな子が大勢いるみたいな口ぶり――」

「はい。実際に大勢いますから」


 あまりにも素早い返答だった。

 え? 小猫以外にそんなにいるの?


「イクトさんの性格的に告白されたら、あっさり振るなんてことできませんよね?」

「それはその……」

「私の時も『惚れられた以上、責任はちゃんと取る』なんて言ってましたし」


 確かにそう言って、当時10歳の俺は小猫の婚約者候補になった。

 改めて考えると昔の俺って……いや、今も大差ないと思うけど。

 実際に告白とかされたら、かなり頭を悩ませるはずだ。

 例え1番が決まっていたとしても、心はそれなりにグラつく。


「有言実行です。惚れられた以上、責任は取るんですよね?」

「……そもそも俺はなんでそんなに好意を抱かれて――」

「女の子に対して誠実で優しくして。ピンチの時は必ず駆けつけて助けてくれる王子様。そんな人、好きにならない理由なんてどこにもありませんよ。現に私も助けていただいて、コロッと惚れた側の人間ですし」


 小猫が何に関して助けられたと言っているのか。

 その内容は聞かなくてもわかる。

 特に彼女が俺に告白したタイミングを考えれば。


「別に俺は助けてない」


 ベッドの中でモゾモゾ動きながら、俺は小猫の言葉を強く否定した。

 するとパジャマを着なおした小猫が、立ち上がり勢いよく俺から布団を剥ぎ取る。

 そして彼女は琥珀色の瞳で俺を見つめ、


「イクトさんが否定しても、私たち姉妹を助けたのは紛れもないあなたです」


 そう言った彼女の瞳には強い意志が宿っていた。

 それも絶対に否定させないという。

 だけど実際の話――


「助けられたのは俺の方だよ。二人が居場所を警察に教えなかったら、俺殺されてたし」


 まだ俺と獣坂姉妹が10歳の頃の話だ。

 俺たちは三人まとめて誘拐された。まあ犯人の目的は犬華と小猫の姉妹だったけど。

 なにしろ二人は超大金持ち、『獣坂家』の次女と三女。誘拐されても仕方がない。

 それでその事件の時、俺は逃げられる状況で二人を確実に逃がすため囮として残った。

 結果は激怒した犯人たちからのリンチを受けて、死にかけるぐらいの大怪我。

 目覚めたのは、事件解決から3週間も過ぎた頃だ。


「つくづく体だけは鍛えておいて正解だったよな」

「当時、武道道場や剣道道場に通ってましたもんね」

「まあな。漫画の必殺技とか真似したくて初めたのがきっかけだ」

「知ってますよ。私たち姉妹が初めてイクトさんを見つけた時も――」

「手を使わない木登りな。懐かしいこと覚えてるな」

「忘れるはずがありませんよ。あんな変な男の子」


 まさか変とまで言われるなんてな。

 でも初対面の時はたしか――


『見てよ、犬華。やっぱり今日も居たわよ、バカな男の子』


 なんて辛辣な言葉をかけられた覚えがある。

 それにしてもまさか、木登りしてた場所が二人の屋敷の近くだったなんて。

 ある意味、運命めいたものを感じるよな。

 でも運命か……だとすると俺を好きな人間に一人心当たりがある。


「なあ小猫。もしかして犬華も――」

「いつまで寝てるつもりだ、イクト‼ 卯紗が朝飯だって呼んでるぞ‼」


 勢いよく開けられた俺の部屋の扉。

 部屋に入ってきたのは、ベージュ色のブレザーを着た女の子だった。

 名前は獣坂けものざか犬華けんか。小猫の双子の姉にして、もう一人の居候。

 特徴的なのは小猫の銀髪とは違う金色の髪。

 今日も彼女はそれをツーサイドアップにしていた。


「……なんでお前がイクトの部屋にいるんだよ⁉」


 真っ先に犬華の目が向いたのは、俺のベッドの上に立つ小猫だった。

 たしかにさっきまでと違い、服装は乱れてないけどいるのは不自然だ。

 それどころか昨夜ゆうべ、ウチの妹と犬華に揃って注意されたばかりだし。

 だけど小猫はそんなことお構いなしに。


「あら? 今日は胸にパッドを入れてないのね」

「これでも入れてるわ‼ パッドを入れても小さくて悪かったな‼」

「不憫なものよね。姉妹でここまで差が生まれちゃうなんて」


 小猫が自分の胸の下で腕を組み、その大きさをわかりやすく見せつける。

 それを見て犬華は涙目になりながらも。


「そ、それぐらいアタシだってな‼」


 犬華が胸の下で腕を組んだ直後、何か空気が抜けるような音がした。

 俺はなんとなく察して、思わず視線を犬華の方から逸らしてしまう。

 だけど小猫はわかりやすく吹き出して。


「胸がさっきよりも小さくなってるわよ?」

「この‼ そもそもお前、自分の部屋に戻ったはずだろ‼」

「そのあとイクトさんに朝のお世話をしに来たのよ。もちろん、婚約者としてね」

「朝のお世話だと⁉」


 なぜか犬華が俺を睨みつける。

 小猫と同じ琥珀色の瞳なのに、ツリ目かタレ目だけでここまで印象が変わるなんて。

 それよりも犬華のやつ、明らかに何か勘違いして――


「この変態‼ いくら婚約者だからって節度ぐらい護れよな‼」


 その場に軽くしゃがみ込んだ犬華が、自分の靴下を脱いで俺に投げつけてくる。

 相変わらずの運動神経の良さだ。丸めた靴下が見事に俺の額を撃ち抜いてみせた。


「ちょっと‼ 私たちのイクトさんになんてことするのよ‼」

「何が『私たちの』だ。アタシはそんな変態男、一切興味なんてないからな‼」


 部屋に響く姉妹喧嘩の声。ベッドの上には額を押さえて背中を丸める俺。

 ここから小5の卯紗うさに怒られるまでが、兎田うさいだ家最近の朝の日常だ。

 それにしても、本人のせいで聞きそびれたけど。

 まさか犬華のやつ、こんな態度で俺のことが好きだったりするのかな?


「う~。二つの意味で頭が痛い」


―――あとがき―――

 1話ということもあり、プロローグを読まない派の人にもわかるようにキャラの名前には一通りルビを振りました。特殊な名前が結構多いので。

 また今回は世界観を出しつつ、小猫がイクトを慕う理由を書きました。

 女性慣れの訓練とかはまた別の話で書く予定です。


 一夫多妻以外死刑とか。我ながら横暴過ぎん?

 ちなみに適用されるのは、今後結婚する人たちなので現在している人たちは一夫一妻でも問題ありません。ただ……その人たちも一夫多妻はできるので、世界が結構荒れるかもしれませんが。

 それと最近、『ハーレム』と打とうとすると時々『ハレーム』になってることがあるのに気づきました。なぜにそんなことになってるんでしょうかね?


面白ければ、作品フォロー&☆☆☆→★★★などしてもらえるとありがたいです。

カクコンは読者選考に望みを託すしかないので、何卒よろしくお願いいたします。

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