第9話 俺だけ違う
苦悩は続き、入学から一週間後。
学校の先生に連れて来られたのは、大聖堂。
普段はお祈りをする場所であるが。
今回は、就職をするみたいです。
たしかに、日本でも就職する時は、お祈りするよね。
神社とかでもさ。
合格祈願とかがあるから、就職するために大聖堂に行くのは、場所としては間違ってないよね。
先生の説明から入る。
「いいか。ここでは自分がなりたい者になれる。しかし、それになるには、ステータスを満たす事が必要だ。自分がどれを満たしているかは、この水晶モニターが提示してくれるから安心しろ。お薦めのジョブも、水晶が推奨してくれるんだわ」
「「「・・・・・・・・」」」
学生たちは、先生の寒いギャクに、反応を示さなかった。
顔が凍り付いてしまった。
「じゃあ、皆、順番待って、就職しな」
先生は無かったことにした。
◇
水晶モニター。
映像部分が、水晶で出来ている。
これを日本で例えると、タッチパネルの機械のようだ。
なんかあれみたい。
食べ物屋さんとかによくある事前に注文できるタイプの奴だ。
ここのボタンを押して、食券が出てきたら完璧だ。
総勢30機くらいがあるので、順番はすぐにでも回ってくる。
三人で一つを使うような形だったからだ。
俺の番になる。
モニターの前に立つと。
『ネオスさん、ようこそ。学生証を入れてください』
本当に機械的だ!
「はい。入れます」
銀行のATMのカード受付みたいに、学生証が吸い込まれていった。
『レベルアップは・・・・しませんね。おかしいです。どうしてですか』
そんな事、俺に言われてもね。
どうしてなんでしょうか?って聞き返したいくらいです。
俺は隣の子を見た。
『レベルアップが可能です。する場合は『はい』を選択してください。しない場合は『いいえ』を選択してください』
あれ? 皆レベルアップするんだね。
ということは、あれか。
俺のステータスのレベル0の影響なのかな。
『レベルアップ不可のため。手続きを先に進めます』
ちょ・・・あれ。勝手に進みましたよ。
他の人と違う動きになっちゃった。
どうしよう。他の人を参考にしようとしてたから、どうしよう!
『あなたが、就職できるジョブを検索中です・・・検索中です・・・けんさく・・・けん・・・け・・・・』
なんか、壊れ始めてない!?
不安が増していきます。
水晶さんどうすればいいですか。
推奨してくれるんじゃなかったの!?
俺の検索結果が出ない間。隣の子のモニターを覗く。
『あなたは、戦士見習いになれます。どうしますか』
おお。選択肢がないけど、なれるジョブがあるとああいう風に提示してくれるんだ。
じゃあ、俺のは・・。
『検索結果をお待ちください・・・お待ち・・・待ってね・・・・待ってや・・・待ってろよ・・・けっ。なんだこれ・・・待て・・・ああ・・・・なんだよこれ・・・待つんだ・・・くそ。失敗か・・・ちっ・・・待てや』
なんか、色んな待てを言ってくるぞ。
それに荒々しい言葉になってない?
お前のジョブ探し、めんどくせえわ。
みたいに文字が見えてくる。
『検索結果が間もなく出ます・・・・三十秒・・・・二十・・・十・・・七・・・五・・・・五・・・七・・・八・・・・五・・・六・・・』
あれ、バグってない!?
時間が増えたり、減ったりしているよ。
なんかダウンロードをしてるみたいだ。
あれってさ。
完了するまでがもどかしいよね。
『完了です。あなたが就職できるのは、天命師のみとなっています。天命師になりますか?』
ん? 天命師?
『なりますか? なれますよ? それしかなれねえぞ? いいのか? 返事しろよ。おい、キャンセルすっぞ?』
なんか俺の水晶モニターだけさ。
人が入ってないか?
話言葉過ぎて、人っぽいんですけど。
『どうすんだよ。お前のステータスが意味不明すぎて、疲れたわ。いい加減にしてくんない』
ちょ、これ。
急に自分の思いを話したよ。
機械じゃないよね。
『それで、このままでいいの。こっちとしてはそのままキャンセル処理した方が楽だけど』
「天命師って何ですか」
『そんな事も知らんの。教科書に書いてない?』
普通に会話が出来たんですが。
俺のだけ反応が違くないですか!
「知りません。すみません」
『しょうがないな。教えてやるよ』
「いいんですか。ありがとうございます」
『礼儀正しいから、特別だよ。君』
「ありがとうございます」
水晶さんが、特別に教えてくれるみたいです。
『天命師は秘密職。世間じゃ、条件は不明と言われているけど、裏では設定がある。どこかの書物にも書いてあるからさ。後で調べな。でも今回は特別に教えるわ。君のステータスが条件を突破しているのさ』
「俺が条件をですか」
『そうだ。それでまずは第一条件を教える』
「第一ですか」
複数あるんだと思った。
『運20。魅力30だ。このほかのステータスは影響しない』
「魅力30? ステータスの限度って20じゃないんですか」
俺は何故か普通に水晶モニターと会話し始めた。
『そうだ。限界値は20で固定。しかし、20を取った後に覚醒すると、それ以上を割り振る事が出来る。覚醒条件はそれぞれ能力値において違いがあるが、君はすでにここを突破しているらしい』
「俺が? 20を突破して、30の域にいるの?」
『そうだ。これで第一条件をクリア。次に第二条件』
「はい」
『人助けを100回以上クリアだ』
「人助け!?」
『君、百人以上を救ったことがあるんだろ?』
「え、俺そんなに人を救ったんですか?」
『知らんの? 救ってんのに。知らんの? 馬鹿か?』
「・・・人助けってなんだろ」
『命とか、心とかを救ったのさ。そういうのないの』
「・・・あ、そっか。あれか地震か。避難を促した時かな」
俺は思い出した。町の人たちを避難させたときに、100人以上を助けた事になったのかもしれない。
つまり、あの時皆を避難させなかったら、100人以上が死んでいたのか!
おお。怖いよ。
事前に逃げたから、人の被害が無しだった。
建物だけが壊されていたからさ。
人の被害を想像していなかった。
皆が助かったから良かったけど、深く考えると怖い事だったんだ。
『それみたいだな。君、よく人を救ったな。天命師なんて、1000年に1人。いるかいないかだわ。奇跡のジョブだぞ』
「そうなんですね。どんな事が出来るんですか」
『人の運命を革命する。それと、天運を持つ技がある』
「へ?」
『人の人生をいじれるとも言うぞ。前回の天命師も、凄まじいことをやってのけた。前々回もかな・・・』
「そ、そうなんですね」
体験者みたいな言い方ですが?
あなた機械じゃないんですかね?
『それと、運に左右されるジョブだから、一つ注意点がある』
「どんな注意で?」
『なってから教える』
「わかりました」
『なるの?』
「なりますよ。それしかなれないなら、それに賭けるしかないでしょ。そんなに珍しいなら、それで一発逆転でしょ」
『面白い。天命師になれる器の者らしい答えだ!』
手続きの処理が終わったらしく、俺の体が光り始めた。
『これで君は天命師だ』
「ありがとうございます」
『注意事項は、一つ。天命の星を見ろ。非運星に入ったら注意しておけ』
「悲運星?」
『別名死星だ。天命師にだけ見える星が、真っ黒になった場合。天命師の能力がほぼ使えないと思ってくれ。天命師の恩恵は強烈だからな。それ以外だと、普段から超運になるな』
「は、はい。わかりました」
『では、君のこの先を祝福しよう。いい旅を』
「ありがとうございます」
と俺の水晶モニターだけ、やたらと人っぽかったのだった。