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運命革命の天命師   作者: 咲良喜玖
運命革命の幼少期
6/9

第6話 奇跡の人 八歳

 八歳の春。

 姉が入学の為に家から出て行った。


 「いやだぁああああ。絶対に帰って来てみせる! 待ってろよ、ネオス! 必ず帰って来てやるからな。ここで首を洗って待っていろ。姉さんは絶対に、弟の顔を見に帰って来てやるぅ」


 馬車に乗って前に進んでいるので、声は遠ざかっていく。


 そのセリフ。

 宿敵に対して言うセリフじゃないだろうか。

 ここに帰って来たい人が言うようなセリフに聞こえないから不思議だ。


 

 ◇


 姉がいなくなって、一カ月。

 俺は分かったことがある。


 彼女がいないと家が静かになって平和になるという事だ。

 俺にベタベタ付き纏ってくる人がいなくなったので、俺の生活が半分以上楽になった。


 なにせ、居た時はトイレに行っても。


 「大丈夫! おしっこ? うんち?」


 あのノリはキツイ。

 俺はもう赤ちゃんじゃないんだからさ。

 あれは、そうだ。

 俺が赤ちゃんだった頃のお世話の感覚が消えていないんだ。


 お風呂に行っても。


 「洗い残しはありませんか。ほら、頭のシャンプーが足りないよ」

 

 と俺の頭をゴシゴシと洗い始める。

 

 どこかにお出かけしようにも。


 「駄目。一人は危険なんだからね」


 しかし、この都市アリオンの治安は抜群に良い。

 他の都市は知らないが、この都市での犯罪を見た事がない。

 安全であるのは間違いないのだが、姉はストーカーの如くついて来る。


 だから日々が大変だった。

 この負担が消えただけでも、俺の日々は楽なものとなる。

 朝から自分がやりたい放題に・・・。


 朝食を食べ終わると、妹が俺のズボンを引っ張った。

 

 「なに?」

 「・・・・抱っこ」

 「え?」

 「・・・・お願い」

 「な、なんで? 歩けるだろ」

 「・・・・足が痛い」

 「嘘だろ」

 「・・・・頼もう」

 「しょうがないな。はい」


 姉がいなくなった途端。

 妹が俺に話しかけるようになった。

 今までは、『ふん、話しかけないで頂戴』みたいな感じで、澄ました顔をしていたのだが、ここに来て急にお願いが増えた。


 抱っこして部屋に連れて行く途中。


 「お兄」

 「ん? どうした。サラ?」

 「お兄も学校に行くの」

 「行くさ。義務だからね」

 「・・・お兄も帰ってくる?」

 「無理だろうな。成績優秀になるとは思えないからな」

 「・・・嫌だ。お兄も帰ってきて」

 「ん。努力はしよう」


 俺の能力じゃ成績優秀は無理だ。

 だから、出来ない事を無理することはないけど。

 ここはお兄ちゃんとして、努力することは宣言した。

 お兄ちゃんだってね。男だからね。

 最初から無理だとは言えないよね。お兄ちゃんだから。


 「お兄も修行するの?」

 「意味ないんじゃないかな。頭の方ならともかく、体の方はね」

 「なんで?」

 「俺さ。レベル0なんだよね」

 「0?」

 「ああ。ステータス上限値0。どんなに頑張ったって、レベルアップしないんだよ」


 俺のステータス。

 何度調べてもレベル0だった。

 父が良い水晶だからと持って来てくれた奴でも、結果は同じレベル0だ。

 だから、何がどうあってもレベル0で決まり。

 測定してくれる水晶の方が間違っていたなどの奇跡は起きなかったのよ。


 「どうして?」

 「どうしてってな・・・どうしてなんだろうな」


 俺にも分からない。

 生まれた時から0だなんてさ。

 最初から劣等生決定人生だよ。


 「お兄。カッコいい!」


 慰めてくれていると思った。


 「そうか! ありがと」

 「お兄。カッコいい」


 ん? なんか雰囲気が違う。

 顔が真剣すぎる。真顔で言っていて、ちょっと怖い。


 「お、おう」

 「お兄。カッコいいもん。だから一番になるもん・・・くーくー」


 なんか一瞬、姉さん身を感じて恐怖した。

 まさか、この子も姉さんみたいになるのか。

 ストーカー二号になってしまうのか!


 「よく寝てる。まあ、大丈夫だろう」


 そんなわけないよなっと思ってベッドに返してやった。


 ◇


 夏、姉は帰って来なかった。

 長期休暇の季節でも、帰って来られなかったってことは、成績上位じゃなかったんだろうと思った。

 父さんとの修行をあれだけ頑張っていた姉でも、上位陣になれないなら、俺ならもっと入れないだろう。

 サラに悪いと思って、再来年の事を、心の中で謝っておいた。

 

 

 姉が帰って来ないならと、俺は父にお願いをした。


 「父さん。俺、トリトン町に行きたい」

 「ん? どうしてだ」

 「手伝いたいからさ」

 「手伝う?」

 「うん。五年前に町が壊れちゃったでしょ。まだ名残があるはずだからさ。手伝いたい」

 「な!? お、お前は・・・なんて良い子に育ったんだ。おおおお、俺は猛烈に感動しているぞ。すぐにいこう。俺もいく」

 「え。ま、まあ。じゃあ、連れて行ってほしい」

 「任せろ息子!!!」


 父は勝手に感動して、俺をトリトン町に連れて行ってくれた。


 

 ◇


 二年前にも行った事があるトリトン町は、進化していた。

 津波に耐えられなかった部分を解体して、人が住む場所は高台の方にして、仕事だけを海側に並べていた。

 人命優先の町づくりをしていた。

 

 「領主様。若。お久しぶりです」

 「よう! クロン。元気そうだな。物資は足りてるか」


 クロンさんは、トリトン町の町長である。


 「ええ。バルカ地域からの支援物資が来ていますから、安心しています」

 「そうか。よかったぞ。皆で使うんだぞ」


 支援物資というのは体のいい言葉だ。

 町長さんは知らないんだ。

 あの物資は父さんが王都にまで買い付けに行って、そこからわざわざ送らせた物資だという事をだ・・・・。

 津波が発生した後。

 この国は、辺境領に協力してくれなかったんだ。

 だから、父さんが独自で物資を買って、トリトン町を支援している。

 それで、わざわざ国がやっているように見せる事で、領民の人たちが国に対して怒りを持たないようにしているんだ。

 国を割らないように、無駄に対立しないように、父さんはバルカ地域の人たちと喧嘩しないようにしているんだと思う。

 小さな地域が、大きな地域に不満を持ったら危ないからな。


 だから、俺もここをいつも気にかけていたんだ。

 あの王様は、正直に言ってヤバい人だ。

 子供を捨てるくらいの人だから、町を一つ捨てても気にしないのだろう。

 自分の本当の父親だけど、父だとは思いたくもない人だ。

 人を助ける気持ちがない王様なんて、国の王としてどうなんだろうか。

 こっちのアウリオンの父の方が、荒々しいけど王様っぽいよ。

 俺はこの人を尊敬している。

 

 「よし。ここは大丈夫だ。皆に任せれば、立派になるだろう! なあ、ネオス」

 「はい。そうですね」

 

 俺と父は、生まれ変わるだろう町を見て頷き合った。



 ◇


 この町での最後。

 不思議な経験をした。

 公民館の様な場所の前にて。

 俺は人だかりのど真ん中で、段ボールの上に立たされた。


 「神様。今度こそ、津波にも負けない立派な町にします。我々は頑張りますので、見ていてください」


 町長さんが言うと、次に町民の皆さんが。


 「「「「奇跡の人、ばんざーい!」」」」

 

 町民たちは、俺を神に見立てて讃えた。

 これは嫌がらせなんでしょうか?

 神様の彫刻の役割か? 何かの銅像の代わりとか?


 「我々は、神に誓って、必ずや町を再興します」


 更に町長が言うと。


 「「「「奇跡の人、ばんざーい」」」」」


 皆さんが万歳をした。

 最後に、町長が。

 

 「ネオス様。どうか。一声お願いします」 

 「え?」

 「どうぞ。なんでもいいので、若。お願いします」

 「は、はぁ」


 俺は崇め奉られるほどの人間じゃないんですけど。


 「あの・・・皆さん! 俺も頑張るんで、一緒に頑張りましょう。肩の力は抜いて、気楽にいきましょう」

 「「「・・・・・」」」

 

 あれ? 失敗したか。

 皆が一斉に黙ってしまった。

 と思われた瞬間。


 「「「「だあああああああああああああああああああああああ」」」」


 領民の声が大爆発。

 耳を壊す一撃に、俺は頭がくらくらした。

 どうやら、さっきの黙った時間は、皆が大声を出す前の準備段階だったみたいだ。

 一呼吸があったからこその大音量の勝鬨だ。


 まるで戦場に立ったかの経験が出来た俺であった。


 たいしたこと言ってないよね。

 ちょっと、俺って普通の事を言ったよね。

 どうして、皆。目を輝かせてるんだろう。


 俺は自分の謎の力に恐怖していた。


 

 

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