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運命革命の天命師   作者: 咲良喜玖
運命革命の幼少期
2/9

第2話 奇跡の人 一歳

 アウリオン家は、代々貴族の家系。

 担当地域は、バッカニア王国の西にあるニアー地域だ。

 かの地は、アスナロ大陸を南北に割るアスナロ山脈と、バッカニア王国の三分の一を割るカッパン山脈によって、隔絶された地域となってしまっている。

 なので、辺境領とも言われている。


 自然は豊かであるが、生活は決して裕福とは言えない。

 王都と比べてしまえば、経済が良いとは言えないだろう。

 自分が裕福だと思う者は少ない。

 しかしながら、生活の満足度の方は高い。

 なぜなら、アウリオン家の当主の治世が素晴らしいからだ。

 当代の当主ソンファン・アウリオンは、稀代の領主として皆から尊敬されており、その娘リースもまた優秀なので、二代に渡って安心だと、領民たちは未来を心配していない。


 しかし、そんな素晴らしい当主には、もう一人。

 おかしな子供がいる。

 その子は、とんでもなく弱いのだと、まことしやかに王都内では噂されている。


 前代未聞のレベル0。

 しかも、上限値すらも0。


 ありえない実力の子が、この優秀な家系の中に入り込んでしまったようだ。

 実は彼らの家族ではないのでは。

 本当の所、領主は浮気されてしまったのでは。

 王都では、そんな風に揶揄されるくらいに馬鹿にされている。


 だが、しかし。

 肝心のニアー地域の領民たちは、彼の事を奇跡の人だと讃えていた。

 それは、とんでもない奇跡を起こしてきた少年だからである。


 彼の名は『ネオス・アウリオン』

 アウリオン家きっての当代領主と、次期当主を差し置いて、彼は崇められるのだ。


 ◇


 俺が一歳の時。

 アウリオンのお屋敷にて。


 「可愛い!」

 「おぎゃ(よ。姉貴)」


 目がクリクリの少女が俺のそばに来た。

 血が繋がらないけど、これからの俺の姉弟となってくれる人だ。

 姉さん、よろしくお願いします!


 「返事した! 可愛い!」 

 「おぎゃ(まあな)」


 姉さんは三歳。俺とは二つ違いだ。


 「超可愛い!! ぶしっ」

 「おぎゃ(いて!)」


 俺の可愛いほっぺたに姉さんの人差し指が刺さった。

 子供だから加減を知らない。

 もうちょいで目に刺さるところで、いきなりの失明の危機だった。


 「こらこら、リース。駄目よ。ネオスが嫌がってるでしょ」

 「おぎゃ(助かった)」


 母親が抱っこしてくれて、姉の攻撃から脱出できた。

 もう少し一緒にいたら目つぶし攻撃が来ていただろう。


 「お母さん。ずるい! 私も抱っこする」

 「出来ないわよ。あなた三歳よ」

 「ずるい。ずるい! 私も抱っこする!!」

 「ああ。はいはい。じゃあ、やってみなさい。無理だからね」

 「おぎゃ!(無理なのに、やらせるの!)」


 姉が俺を抱っこする。

 俺も無理だと思ったんだけど、彼女の腕の上で、意外にも体が安定している。

 ちゃんと持ち上げられていた。


 「あら、そうだったわ。オールファイブだものね。これくらいは出来るわね」

 「うん!」

 「おぎゃ?!(オールファイブすげえ!)」


 三歳児が一歳児を楽々持ち上げるくらいに、この世界はステータスが重要だと思っていい。

 だとすると、俺の能力って・・・。

 ここから先の想像は危険だ。

 一歩踏み出せば、ショックで血を吐くかもしれない。

 俺は、自分の未来を想像することをやめた。


 「リース。もういいでしょ。お母さんに渡してください」

 「はーい」

 「よしよし。ネオスは今日も可愛いですね。明日はピクニックなので、ゆっくり眠るんですよ」


 明日はピクニックみたいです。

 


 ◇


 ピクニック当日。

 父親は仕事の為に来られずで、母親と姉と裏の山に向かった。

 お屋敷の東にある山を越えた先が、バルカ地域と呼ばれる場所らしい。

 この国の王都は、そちらの地域にあるみたいで、自分たちが住んでいる場所よりも裕福なんだそうだ。

 でも、俺は別に気にしない。

 ここはここでいい場所だと思う。

 あの王宮は酷いぞ。俺を簡単に捨てた人たちがいるからな。


 こっちの人たちは誰も見捨てないんだ。

 心が温かい人たちが、たくさんいるんだよ。

 俺の母親も、姉も、父親もだ。

 雑魚な俺を、愛情たっぷりに育ててくれているんだ。

 優しい人たちに拾われて運が良かった。

 運値0なのが不思議なくらいの豪運だと思う。

 

 

 レジャーシートを敷いて、母親が自分が作った料理を並べる。

 この家は不思議にも、貴族の家だけど、一般家庭のような雰囲気がある。

 そう言えば、お屋敷内に、執事の人も、メイドの人も、そんなに多くない。

 今も二人だけが護衛として一緒にいるだけで、人数がいないんだ。

 もしかしたら、ただお金がないだけかもしれないけど、質素倹約の家みたい。

 普通ならぞろぞろと人を並べるだろうに、この家は貴族らしくない。


 「食べましょうねぇ。リースはこっちよ。この子は・・・」


 と言って離乳食を用意してくれた母親が俺を手放したその時、黒い影が見えた。

 一瞬の事でよく分からなかったが、俺の体が持ち上がっている気がした。


 「え!? なに。な!? や、やめて。返して」

 「あ。ネオスが!」


 母親と姉の叫び声が聞こえるけど、徐々に遠ざかっていく。

 なんと俺は、モンスターに運び出されていた。

 黒い影は、黒い狼みたいなモンスターだった。


 「おぎゃ(あれ? どこいくんだ?)」

 「ガウ!(これを……あの子たちのご飯に)」


 謎の力が働いているのか。

 俺は、モンスターの言語が分かった。


 「おぎゃ(あの子たちのご飯って、君。子供がいるの?)」

 「ガ?(声が?)」

 「お(俺なんだけど)」

 「ガ?(誰だ!? そばには・・・・誰もいないぞ)」


 モンスターが左右に首を振って確認している。

 まさかの俺からの言葉だとは思っていない。

 ちなみにだけど、このモンスターが俺の襟首を噛んでいるから、首振りと一緒に俺の体がブルンブルンに揺れて気持ち悪い。

 さっき飲んだミルクを吐きそうです。

 

 「おぎゃ(飯食いてえなら、俺よりも飯の方がいいだろ)」

 「ガオ(どういうことだ)」

 「お。おぎゃ。ぎゃ(母さんが作ったご飯やるから、持ってけ)」

 「ガ?(なに)」 

 「お。おぎゃぎゃ(いいか。あれ追いついてくるから、あそこの茂みでターンして、さっきの場所に行け。そしたらサンドイッチがあるから、持ってけよ)」

 「ガオ?(どういうことだ)」

 「おぎゃ(このままいくとさ。君が殺されちゃうから、俺を手放した方がいいよ)」


 俺は説得の方向に向かった。

 これは命乞いではなく、このモンスターの為を思って言っている。

 なぜなら、この家族が非常に優秀で、あの母親もかなり強いんだ。

 この狼なんて、たぶん瞬殺されちゃうよ。


 ちなみに俺は彼女の能力値をチラ見している。


 母 エミナ・アウリオン

 レベル  レベル82/83

 力――――8/20  

 耐久―――5/20  

 敏捷―――10/20 

 知力―――15/20 

 魔力―――18/20 

 判断力――15/20 

 運――――4/20  

 魅力―――15/20 


 魔力型の能力だけど、彼女は敏捷性もあるから、いずれこのモンスターに追いつく。

 そうなれば、このモンスターが殺されて、このモンスターの子供たちが飢えて死ぬだけだろう。

 だから俺は説得をしているんだ。

 

 (やめておけって、あの人を怒らせたら怖いから、俺を食うのはお薦めしない)

 (わ、わかった。どうすればいい) 

 (その茂みに隠れてからターンだ)

 (やってみよう)


 俺はモンスターと意思疎通をして、元の場所に戻った。


 ◇


 レジャーシートの場所に戻してもらって、俺とモンスターは対面に座った。

 

 (ちょっと待ってな)

 (うん)


 俺はバケットサンドイッチを持った。

 一個じゃ足りないと思って、三個持って渡す。


 (すまない人間)

 (いいんだ。これも持ってけ! たまたまここに来た俺の母に感謝しなよ)

 (うん)


 モンスターの口に三個を入れてあげると、母親たちが来た。


 「ネオス! あのモンスターめ。ネオスを襲う気ね・・・って、ん???」 


 母は途中で気付いた。

 モンスターにご飯を渡している俺にだ。


 「お母さん! ネオス。襲われてないよ。ごはん、あげてる」


 さすが俺の姉。俺に対しての理解力があって助かる。


 「そ。そうね」


 戸惑う母の隙を突いて、俺が話す。


 「おぎゃ!(いまだ。いけ! 無事でいろよ~~~)」

 「ガウ!(かたじけない。この恩は忘れない)」

 「おぎゃぎゃ(別にいいって、気楽に生きていこうぜ)」


 俺が手を振って別れの挨拶をした。


 この後、俺に感謝をするために、モンスター家族たちが、わざわざ屋敷にまで来て挨拶をしていった。

 そのモンスターたちが攻撃もせずに、立ち寄っただけで終わるという異様な光景が、領内に知れ渡る事になってしまい、ついに俺はニアー地域の人たちに、奇跡の人と呼ばれることとなった。

 

 俺さ、サンドイッチをあげただけなんだよ。

 それだけで、なんか大層な名前をつけられてしまったんですがね。

 誰か、普通の人ネオスってことにしてくれませんかね。 

 だって、ステータス至上主義の世界で、ステータス雑魚なんですけど。


 これから、俺は能力と評価が一致しない人生を歩むことになる・・・。

 

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