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大人になって、これからも。

※2025/1/13に投稿したものです。

「はい、終わりました。お疲れ様でした、楽しんできてくださいね!」

「はいっ! ありがとうございました!」


 メイクをしてくれた人に、私はそんな風にお礼を告げる。持ってきたメイク道具一式を受け取り、私はその場を後にした。

 人混みの間を抜け、なんとか座れる場所を発見。落ち着いて丁寧に座ってからコンパクト式の手鏡を確認する。……わ~、すごい! 私もたまにメイクするけど、こんなにちゃんと出来ないなぁ。流石はプロって感じ!


 私は手鏡を閉じると、辺りを見渡した。……周囲には楽しそうな声がいくつも響き渡っていて、親御さんと話したり、友達同士で写真を撮っていたりする。皆ふわふわだ、と私は顔を綻ばせた。


「ふわり! こんな所にいた」

「あ、お母さん!」


 声を掛けられ、顔を上げるとそこにいたのはお母さん。私が笑いかけると、お母さんもにっこりと笑い掛け、そして。


「……ふ~わ~り~、あんた、終わったら連絡しなさいって言ったわよね? 何を呑気な顔で座ってるのよっ!!」

「ひぇ~~~~っ!? ごめんなさい!?」


 一気に睨みつけられる。まるで私はヘビに睨まれたカエル。その覇気に、思わず震えあがってしまうのでした。

 いつもなら軽く頭を叩かれそうな場面だが、今日はそれがなかった。たぶん、もうヘアセットも済ませてあるからだと思う。


 お母さんは小さく息を吐くと、ちょっと立って、と私に告げた。


「……うん。今日も最高に可愛い!!」

「ほんと? えへへ~、そう言ってもらえて嬉しいな」

「どうせならお父さんにも直接見てもらいたかったね。あの人、大号泣しそう」

「お仕事なら仕方がないよ。あとでテレビ電話するんでしょ?」

「そう、一旦家に帰ってね」


 お父さんは海外で働いている。本当なら今日は、帰国して直接この晴れ姿を見てもらう予定だったんだけど……急に重要な案件が入っちゃって、帰れなくなっちゃったらしい。

 一生に一度だし、本当に残念ではあるけど、まあパソコン越しにしっかり見てもらおう。


「それが終わったら会場に向かって……その後は、こっちの子とは約束が無い、で本当にいいのよね?」

「うん。そうだよ」


 どこか気遣うようなその声に、私は笑って頷く。


「夜はゆいくんと食事に行くの! 楽しみだなぁ」

「……そうね。でもとりあえず、写真を撮って送ってあげたら? 今が一番ベストな状態なんだから」

「はっ、そうだね! お母さん、お願い」

「はいはい」


 お母さんがスマホを構え、的確にポーズの指定をしてくれる。私は言う通りにしながら、これまでのこと、そしてこの後のことを考えていた。





 成人式はつつがなく終わった。地元の有名な人がお祝いの言葉を言ってくれたり、このあたりについてのクイズコーナーがあったり、色々企画があって楽しかったなぁ。


 一緒に同窓会の会場に行こう、と話す人たちを横目に、私は一足先に、一人で帰路に就き始めていた。

 私が通ってた学校は、同窓会とかあるのかな。ある気がするなぁ。誰からもお誘いが来てない時点で、私には関係ないけど。……私は学校で、たぶん上手くやれてなかったからなぁ。


 それより私はゆいくんとの約束がある。近くに来たよ、というメッセージを確認して、指定された場所でルンルンと待っていた。すると。


「君、どうしたの? 一人なの~?」

「え?」


 こちらに声が飛んできて、思わず顔を上げてしまう。失敗だったなぁ、と気づいたのはその一瞬後だった。


「え、めっちゃ可愛いね! 小動物みたい~」

「馬子にも衣裳って感じ~」

「この後暇なら一緒に飲みに行かない? 成人記念!」


 近寄って来た男の人たちは皆顔が赤くて、アルコールの香りがした。酔っぱらってるんだろうなぁってことは明白で、ニュースでよく見るやつだ! 本当にいるんだ! とちょっとだけ感動してしまう。


 だけどそんな悠長にしている暇はない。どうしよう、私に助けてもらえるような人望はないし、抜け出そうとしても腕とか掴まれちゃったら私の力じゃ逃げられないだろうし……。



「──俺の彼女に、何か用ですか」



 そこで見知った声が耳に届いた。


 男の人たちが振り返る。彼らの背が高くて、よく見えない、けど……。


「ゆいくん……!」

「そこ、退いてください。……ふわり、迎えに来るのが遅くなってごめんね」


 ゆいくんは男の人たちを押しのけると、片手で私の手を握り、もう片方の手で私の肩を抱いてくれる。いつも見ているふわふわな笑顔に、私は思わずホッと息を吐いた。


「んだよ、彼氏持ちかよ」


 彼らは舌打ちと不平を残すと、フラフラとした足取りでどこかに去っていく。だ、大丈夫かな……と心配になってしまったが、ゆいくんに手を引かれてしまったため、その後を見ることは出来なかった。

 そして辿り着いたのはタクシー。ゆっくりでいいからね、と気遣ってもらい、私は無事に乗車することが出来た。


「……怖かったでしょ、迎えに来るのが遅くなってごめんね」

「う、ううん! 待ち合わせ時間より全然早かったし……!! 私がうっかり返事しちゃったのがいけないだけだから……私こそ、心配掛けてごめんね」

「……まあ、どっちも悪くないから謝るのはやめようか。とにかく無事で良かった」


 ゆいくんがそう言って優しく微笑む。私も微笑んで、うん、と頷いた。


 そんな会話をしている間にも、タクシーはどこかへ向かっていく。今日はゆいくんが予約したというお店に行って、一緒に夕ご飯を取ることになっていた。せっかくだし晴れ着のままで、という感じで。


「写真で見てたけど、本当にすごく似合ってる。メイクもいつもと雰囲気が違くていいね」

「えへへ、ありがとう。ゆいくんも袴、すっごく似合っててカッコいいよ。……ゆいくんは今日、成人式には参加してないんだっけ?」

「うん。俺が行くと大騒ぎになりそうだし……親戚への挨拶回りに行った感じかな。疲れたよ……」

「そっか、それはお疲れ様だね」

「ふわりは……成人式、どうだった?」

「楽しかったよ! 誰かが喋ってるのを聞くだけだと思ってたけど、意外とこっちが参加する企画とかもあったりしたんだ」


 私が話すのを、ゆいくんは微笑みながら相槌を打ってくれる。ゆいくん、疲れてるって言ってたけど、こうやっていつも私の話を楽しそうに聞いてくれるの、嬉しいし優しいなぁ。


 そんなゆいくんに、なんだか少し甘えたくなってしまう。タクシーの中っていう、一応人前なので、控え目に体を寄せた。ゆいくんは少しだけ肩を震わせ、私は微笑む。


「……私ね、小中高と、友達がいないんだ」

「……え」

「あんまり、人とコミュニケーションを取るのが上手くなくて……空気が読めないって、よく言われたんだ。まあ今も変わってないかもしれないけど。……だから今日もね、一人でいたんだ。誰にも話しかけられなかった。たぶん同窓会もあるんだと思うけど、誰にも誘われなかった」


 ふわり、とゆいくんが小さく呟く。私は彼を見上げ、微笑んだ。


「重く受け止めてほしいわけじゃないんだ。ただ、私が上手くやれなかったってだけの事実だから」

「……」

「そんな感じだから、成人式行くかも迷ってたんだ。振袖を着ても意味ないんじゃないかって。もちろん両親に見せたいけど、それは別に家族写真撮る時だけでいいと思ってたし」

「……うん」

「だからね、ゆいくんに食事に誘ってもらえて嬉しかったよ。ゆいくんに見せるなら、着る意味もちゃんとあったと思うから。せっかく着るならって成人式行くことに決められたし」


 ありがとう、と告げる。ゆいくんはやっぱり、ちょっとだけ泣きそうな、悲しそうな表情をしていたけれど。


「……話してくれてありがとう。今日は、楽しい食事にしようね」

「うんっ!! そうしようね」


 そんなことを話していると、タクシーが停車する。ちょうど、レストランに着いたらしい。

 振袖を着崩さないように丁寧に降りて、先に降りていたゆいくんの手を取る。目が合うと優しく微笑んでくれて、それが本当に嬉しかった。


「あ、そうだふわり」

「?」

「なんか変な言い回しかもしれないけど……成人おめでとう。大人になっても、変わらずよろしくね」

「……うんっ!! ゆいくんも成人おめでとう、こちらこそよろしくね!!」


 離さないよう、手をぎゅっとしっかり握って。大人になったことだしお酒でも飲む? あれ見た後だと飲む気失せるよ……なんて会話をしながら、私たちはレストランに入っていくのでした。

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