第49話「……分かった。待ってるね」
「あんた、前もそれ食べてなかった? 飽きないの?」
「飽きないよ~!! だってふわふわがふわふわでふわふわなんだもん!! やみつきになっちゃうよね~!!」
「なるほど、分からん」
隣にいる来瑠ちゃんの質問に答えながら、私は「もくもくくもパン」を食べ続ける。ん~♡ 幸せ♡
するとそこで気づく。こちらを呆然と見つめる二つの影があることに。
「綺羅ちゃん、日恋ちゃん、こんにちは!! どうしたの? 立ち尽くしちゃって」
「い、いや、こんにちはじゃないでしょ、ふわり!!」
「そうだよふわり、こいつって……あれでしょ?」
そう言うと綺羅ちゃんと日恋ちゃんは、来瑠ちゃんの方を見つめる。来瑠ちゃんはキョトンとそれを見つめ返した。
「ちょっと、こいつって言うのは失礼だよっ!! この子は樋廻来瑠ちゃん!! この前お話した後輩の子だよ~!!」
「ふわりに一般常識を説かれた」
「いや、それが分かってるから戸惑ってるのよ!! こいつ……じゃなかった、樋廻さん? ってあれでしょ、西園寺惟斗のことが好きっていう……」
「やだぁ、先輩、私の好きな人のこと、そんな大きな声で言わないでください♡ 恥ずかしいです~」
来瑠ちゃんはそう言うと、照れたように笑いながら頬に両手を当てる。その様子は本当に「恋する乙女」そのもので、可愛いなぁ、なんて私は微笑んだ。
私がそうニコニコしていると、ふわりがいいならいいけど……と二人は呟いて顔を見合わせ、ため息を吐いた。え~、そう呆れたような顔されても!?
二人はいつも通り席に座る。そこからは四人で仲良くお話をした。
「宝船綺羅先輩と、笑原日恋先輩ですよね!! お噂はかねがね!! 良ければ仲良くしてください♡ よろしくお願いします♡」
「え、絶対やだ」
「話聞いてるからね。怖すぎる」
「ちょっと、綺羅ちゃん日恋ちゃん!?」
「ふわり、あんたが許したとしても、私たちは許すつもりないから。謝られたから絶対許さないといけない、ってわけじゃないし」
「そうそう、それに、こいつがふわりのこと怖がらせたっていう事実は変わらないしね」
「え……えーん、先輩たちがいじめますよぉ~」
「うーん、それもそうだね」
「は!?」
「というか私、来瑠ちゃんに謝ってもらってない気がする!! 謝ってほしい!!」
「はぁ!? そもそも謝ってないとか、神経どうかしてんじゃないの!? あんた、ふわりにちゃんと謝りなさいよ!!」
「え、は、ちょ、これ謝らないといけない流れ? ……あーはいはい、別れろって迫ってすみませんでしたぁ」
「何そのやる気ない謝罪!! 舐めてんの!?」
「だって私、やり方は確かにあれだったけど、この人に惟斗先輩と別れてほしいと思ってるのは変わってませんもーん」
「こいつ……さっきまでの愛想の良さはどこ行ったの!? クルクル表情変えて……」
「あっ、そうだよ!!」
「え? 何ふわり、急に」
「私はふわふわ、綺羅ちゃんはキラキラ、日恋ちゃんはニコニコ、来瑠ちゃんはクルクルで……オノマトペ組が一人増えたってことでしょ!? すっごく嬉しいなぁ♪」
「オノマトペ組……? って何、名前が擬音語みたいだから……ってことですか? めちゃくちゃ単純……」
「……ほんとふわりって、いつもそうだよね。いいこと探すのが上手いって言うか……」
「うん。……あはは、イライラしてたのが馬鹿みたい。やっぱりニコニコしてないとね」
「そうだね、私もふわりのふわふわを見習って、キラキラしないとなぁ」
「え、何、先輩たち、何勝手に納得してるんですか!?」
「来瑠。……あんたもクルクルしなさい」
「クルクルしなさいって何ですか!? こわっ!!」
綺羅ちゃんが来瑠ちゃんの肩に手を置き、そう言って笑う。来瑠ちゃんはちょっと戸惑っていたようだけど……うん!! 皆ふわふわで嬉しいなぁ!!
「……ふわり、これ何?」
そこで聞き慣れた声が上から降り注ぐ。顔を上げると、そこには戸惑ったような顔をしたゆいくんが立っていた。
かと思えば、ゆいくんは来瑠ちゃんのことをジッと鋭い目で見つめて。
「というか樋廻さんは……ふわりに近づかないでほしいって、言ったよね」
「えっ。……ちょ、先輩、貴方が呼んだくせに惟斗先輩に何も話通してないんですか!?」
「え? うん」
「何笑顔で頷いてるんですか!! ……わ、私はこの人に呼ばれたから来たんです!! 私から近づいたわけじゃなくて……!!」
「……それは分かったけど、ふわり、いいの?」
「うん!! 私、来瑠ちゃんのこと大好き!!」
「……ふわりがいいならいいや。俺が口出すことじゃないからね」
そう言うとゆいくんは額を抑えてため息を吐く。すごく疲れたような顔だ。大丈夫かな?
そう思いながら尋ねると、ふわり(あんた)が言うな、と何故か全員にツッコミを入れられた。なんで!?
「んんっ。それより……ふわり、お待たせ。一緒に帰ろう」
するとゆいくんは切り替えでもするみたいに軽く咳払いをすると、私に向けて手を差し出す。私は思わず皆の方を少しだけ振り返った。綺羅ちゃんと日恋ちゃんはいつも通り優しく手を振ってくれたけれど……来瑠ちゃんだけは、不満げに頬を膨らませていた。
だけど私はすぐに顔を前に戻す。そしてゆいくんの手を……取った。
「うん、帰ろっか!!」
私がそう答えると、ゆいくんは優しく微笑む。手を握られたので、すぐに握り返した。
そのまま手を引かれ、いざ二人で帰ろうとすると……。
「──惟斗先輩!!」
背中に声が飛んでくる。私たちが振り返ると、そこには立ち上がった来瑠ちゃんの姿があった。
「私……もっと自分のことを磨いて、誇れる自分になれるよう、頑張ります!! だから……もしその日が来たら、その時は……ちゃんと、私の口から、思いを伝えさせてくださいっ!!」
曲がりのない、来瑠ちゃんの真っ直ぐな言葉。ゆいくんは少しだけ私を見て、私はそれを見つめ返すと、笑って頷いた。
ゆいくんは視線を前に戻す。そして少しだけ考え込んでから。
「……分かった。待ってるね」
それだけ言うと、行こうか、とゆいくんは私に告げる。私が来瑠ちゃんの方を見ると……来瑠ちゃんは、嬉しそうに微笑んでいた。本当に、心の底から、嬉しそうに。それを見たら私まで嬉しくなっちゃった。
すると来瑠ちゃんと目が合い、向こうが大きく目を見開く。そしてふいっと目を反らすと、早く行け、と言わんばかりに手で払われてしまった。
来瑠ちゃんにもそうされてしまったことだし、私は歩き始めたゆいくんの背中に付いて行く。もう後ろは振り返らないで。
「ゆいくん、優しいね」
先程彼が返した言葉について私がそう言うと、ゆいくんはキョトンと私を見つめ……そして、どこか呆れたように微笑みながら告げた。
「ふわりのお陰だよ」
「え? 私?」
「うん。……ふわりがいたから、ああいう風に言えたんだよ。俺」
首を傾げる私に、俺が分かってればいいよ。とゆいくんは笑う。だけど理解できないのがちょっぴり悔しくて、私はぶつかるようにゆいくんの腕に抱き付いて、抗議の意を示すのだった。
【ライバル、来る!? 終】




