第48話「少しは認めてあげても良いわ」
来瑠ちゃんはなんだか長い名前のフラペチーノを頼み、トッピングも増し増しにして、すごい色になったそれを仏頂面で飲んでいる。一方私は一番安かったココアを注文し、涙目になっていた。うぅ、高い出費だったけど……仕方ない、迷惑をかけてしまったのは私だ。
丁寧に大切にココアを飲む私の目の前で、来瑠ちゃんはフラペチーノを一気飲みしている。あっという間に中身のうち7割ほどが消滅してしまった。うっ、もしもう一杯とか言われたら……お金足りるかなぁ!?
そんなことを考えて青ざめている私の前に、フラペチーノをドン、と勢い良く置く来瑠ちゃん。そして腕を組み足を組み、じっ……と私の事を見下した。まるで品定めでもするみたいに。
「く……来瑠ちゃん……?」
「……言っておきますけど、貴方の方から私に声掛けたんですからね。私から接触したわけじゃないですからね。だからこれは不可抗力ですから」
「そ、そうだね?」
まるで自分に言い聞かせるみたいだった。よく分からないけど、私はそれを肯定する。
すると来瑠ちゃんは深々とため息を吐き、私を睨みつけた。
「……あんた、惟斗先輩にこの前のこと言うなって言ったよね!? なんで惟斗先輩にその話が伝わってたわけ!?」
「ひぇ~~~~!!!! あれは不可抗力だったんです~~~~!!!!」
その話って、あの話だよね!? だ、だってゆいくん、私が何も言わなくても分かっちゃったんだもん!! 私から言ったわけじゃないもん!!!!
凄まれていて怖いので、私はあの後あったことをバーっと喋ってしまう。あ、もちろん、ゆいくんの頭を撫でたりぎゅーってしたりしたことは伏せて。
話し終えると、来瑠ちゃんはうっとりとした瞳で頬を赤く染めていた。
「はぁ……惟斗先輩、何も言わなくても察してくれるなんて……流石、素敵!!」
「……」
「……なんでそんな素敵な人がこんなちんちくりんと付き合ってんのよ!!!!」
「ひぇ~~~~!!!!」
と思っていたら一転、その赤さは怒りのもに瞬時に様変わり。来瑠ちゃん、本当に表情がクルクル変わる……!!
「惟斗先輩は、あんたの何がそんな気に入ったわけ!?」
「私に聞かれても!? ゆいくんに聞いてほしいな……」
「もう聞いたわよ!!!!」
「聞いたの!?」
え、なんて言ったんだろう。ちょっと気になる……。
そう思いながら来瑠ちゃんを見つめるが、来瑠ちゃんはむすっとしたまま何も言ってくれる気配はない。……聞いても答えてくれなそうだな……。
「羨ましい……私も王子様にああやって守られてみたい……当て馬になりたいわけじゃないのよ……」
「は、はぁ」
「はぁじゃないのよはぁじゃ!!!! もっとやる気出しなさい!!!!」
「ご、ごめんなさい!?」
何に対してのやる気なんだろう!? 分からないけど、とりあえずやる気は十分にあるつもりだよ!! むんっ!!
来瑠ちゃんは私の怒鳴ってすぐにそっぽを向いてしまい、口を閉ざす。え、えーっと……私これ、どうしたらいいんだろう……。
やる気を出せ、と言われたわけだし……うーん……。
「……来瑠ちゃんはゆいくんの、どんなところが好きなの?」
「はぁ!?」
私がそう尋ねると、来瑠ちゃんは勢い良く顔をこちらに向ける。鋭く睨みつけられたので、聞いちゃいけないこと聞いちゃったかな!? と私は青ざめる。そしていつも通り謝ろうと口を開くと……。
「そんな、愚問でしょ!! 惟斗先輩の全部が好きなの!!」
来瑠ちゃんは頬を紅潮させ、身を乗り出してそう告げた。一気に可愛い顔が迫ってきて、私は思わず気圧されてしまう。
しかしここで負けちゃやる気が無いってことになっちゃうよね!! と思い、私はすぐに言葉を返す。
「強いて言うなら、を聞きたいな」
「えぇ~そうだなぁ~……」
いっぱいあるけど、と来瑠ちゃんは前置きをして。
「やっぱり、誰に対しても分け隔てなく物腰柔らかくて優しいところよね!! 困っている人がいたら誰に対しても手を差し伸べるさまは、まるで王子様のようで……!!」
王子様みたい。……その言葉には、とっても共感が出来た。
ゆいくん、デートの時とか自然な動作で手を握って、私が危ないところに行こうとしてたら引っ張って戻してくれるし、重い荷物とかすぐに持ってくれるし、定期的に疲れてないかって気遣ってくれる。喉が渇いた時は水を買ってきてくれたりしたし……。
本当に、沢山私のことに気づいてくれて……カッコ良くて、絵本に出てくる王子様みたいなんだよね!!
「そうなの!! サークル内でちょっと空気が悪くなった時も、良い感じにその雰囲気を和ませてくれて……」
と考えていると、来瑠ちゃんがそんな風に同意してくる。……あれっ!? 私、いつの間に声に出してたんだろう!?
来瑠ちゃんの怒りを買いそうなことばかり考えてた気がするけど……この調子なら大丈夫、なのかな?
「ゆいくんって本当、さらっとそういうことをしてくれるから、カッコいいんだよね!!」
「そうそう!! ……あんた分かってるじゃん。周りって惟斗先輩の顔とか地位しか見てない人ばっかでさー。内面の話なんてしても誰もピンと来てないんだよねー。こんな話通じるの初めてだわ」
「そうなの? ……そっか……」
確かに、そうかもしれない。ゆいくんはそういった人ばかりよく近づいてきて、だからふわりに迷惑かけるかも、って……私を遠ざけようとしたこともあったもん。
来瑠ちゃんはそうじゃなくて、ゆいくんの内面をちゃんと見てくれてるんだ。
「……来瑠ちゃんは、本当に素敵な女の子だね」
「……え?」
私がそう言うと、来瑠ちゃんは大きく目を見開く。驚いているようだったから、そんなに変なこと言ったかな? と思いつつ……私は続けた。
「ゆいくんのことが本当に大好きで、ゆいくんのいいところをちゃんと沢山見つけられてる。人のことをちゃんと見て理解するって、言葉にするのは簡単だけど、すごく難しいことだと思うから……それが出来てる来瑠ちゃんは、とっても素敵だなって思うんだ!!」
……って、これを言う私が、来瑠ちゃんのことをちゃんと見て理解出来てるのか……分かんないんだけどね!!
でも、来瑠ちゃんが素敵な子だと思ったのは紛れもない事実だよ!!
だから結果的に胸を張って私がそう言い終えると、来瑠ちゃんはしばらく呆然としたまま黙り……ふっ、と吹き出した。
「……あんたって、本当、変なヤツだよね」
「えぇ!? なんで!?」
それ、よく言われるけど……私、そんなに変な子かなぁ?
「だってそうでしょ。あんた、仮にも自分に喧嘩を売ってきたヤツに、『素敵な子だね~』なんて言っちゃうんだもん。普通、そんなこと言えないって」
「えぇ~……そうかなぁ。私は思ったことを言っただけなんだけど……」
「だから、それが変なんだってば」
「えっ。思ったこと、言わない方がいい……!?」
「いや……それはあんたの美点なんじゃない? 気にせず続けなよ」
「えぇ……? じゃあそうしようかな」
「……本当に変なヤツ」
「えぇ!? 今のはどういう観点で!?」
「あんた、さっきから相槌が全部『えぇ』だよ」
「えぇっ!?」
私がそう返事をすると、あははっ、と来瑠ちゃんが大きな声で笑い始める。私は驚いてそれを見つめた。
だって来瑠ちゃんがこんなに楽しそうに笑ってるの……見るの、初めてだったから。
初めて会った時は、なんだろう……確かに太陽みたいに眩しい笑顔だったんだけど……どこか不自然な光、人工太陽みたいって言えばいいのかな? そんな感じがして……。
それは、そう。ゆいくんと初めて会った時のあの感覚に、似てるかも。
でも今は、こんなに楽しそうに、心の底から!! って感じで笑ってくれてる。とってもふわふわだ。嬉しいな!!
「……惟斗先輩があんたのこと好きな理由、ようやくちゃんと分かった気がするわ」
「え?」
「あんたのこと、大して可愛くもないちんちくりんだと思ってるのは変わらないけど」
「うっ……」
「……少しは私のライバルとして認めてあげても良いわ。私、絶対に惟斗先輩のこと、諦めたりなんてしないから。覚悟しなさい!! 不破ふわり!!」
「……!!」
人差し指をびしっと突き付けられる。堂々としたライバル宣言に、周りのお客さんたちから視線が集まっているのが肌で分かった。
……だけど今の私にはそんなもの、一切気にならない。ぎゅーっ、と胸に込み上げるのは、喜びの気持ち。こんなに心がふわふわになって、とっても幸せ!!
「来瑠ちゃん可愛い!! だーいすきっ!!」
「はぁ!? いや、私が可愛いのはそうだけど……今そんな要素あった!?」
私はその衝動のまま、来瑠ちゃんに抱き着く。来瑠ちゃんは戸惑ったようにそう叫んだ。
……そしてだいぶ騒いでしまったからなのか、店員さんが来てちょっと怒られちゃったのは、また別の話。




