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第44話「ちんちくりん先輩」

 穏やかな青空の下。たぶん、「青天の霹靂」とはこういうことをいうんだろうなぁ、と私はぼんやりと考えていた。



「私の話、聞いてるんですか? ()()()()()()先輩」



 私は年下の女の子に、いわゆる「足ドン」をされていたのでした。





 私は不破ふわり!! 西園大学に通う大学二年生です!! 文学部所属で……って、それはいいって? じゃあ私はふわふわな物が大好きで……え? それもいい?


 じゃあさっきのことについて説明しようかな。……えーっと、食堂でお昼ご飯を食べていたら、私の目の前に一人の女の子が座ってきたんだ。


「あの……不破先輩、ですか?」

「え? ……そうですけど……」


 聞かれたから正直に答えると、やっぱり!! と女の子は輝かしい笑顔を浮かべた。その笑顔はなんというか、太陽みたいで。にゃぱーーーーっ、と光を放っていて、私は思わず圧倒されてしまった。


 その子は樋廻ひかい来瑠くると名乗り、私に色んなことを教えてくれた。西園大学の一年生で、同じ文学部であること。私のことは有名人だから知っていたとのこと。どういう点で有名なの? と聞くと、ふわふわ好きで、と答えられた。その視線の先には、私のふわふわバッグがあって。やっぱり私のふわふわ好き、有名なんだね……!! でも一つ下の学年にまで及んでるとは思ってなかったなぁ。


 同じ学部だということもあり、私たちは会話が盛り上がった。というか、向こうがとてもお話が上手なんだと思う。自分が喋るのももちろん、私が喋る時は丁寧に聞いてくれて、相槌を打ったり聞き返したりしてくれる。お陰ですっごく話しやすいんだよね!! すごいなぁ。

 昼食が食べ終わった後もそうして盛り上がっていると、来瑠ちゃんから言われたのだ。


「……実は、折り入って不破先輩にお話したいことがありまして……」

「話したいこと?」

「はい。……その、ここじゃ出来ない話なので……」


 そう言うと来るちゃんはチラッ、と視線を周囲に向ける。お昼のピークは過ぎたけど、まだまだ人は多い。確かに内緒話には向いていない場所だ。


「そっか、じゃあ私、人少ない場所知ってるから、そっちに移動しようか!!」

「本当ですか? ありがとうございます……!!」


 私がそう提案すると、来瑠ちゃんは再び太陽みたいな笑顔を浮かべる。まっ、眩しい~~~~っ!!


 食器を片付け、私は来瑠ちゃんをとある場所に案内する。……それは駐輪場に繋がる道だった。ここは高い建物二つの間で出来た道だから一日中日陰で、あんまり使う人がいないんだ。……私は使うけどね!! だってここを通るたび、ここで初めてゆいくんに会ったんだよね~ってちょっと嬉しくなるんだもん。あ、ゆいくんっていうのは私の恋人で……って、え? その話もいい?


 じゃあ話を戻すね。来瑠ちゃんは「確かに人いないですね~」と辺りを見回して告げた後。


「話っていうのは……」

「うんうん」

「不破先輩、惟斗先輩と付き合ってるって本当ですか?」

「ゆいくん? うん、本当だよ」


 これも正直に答える。隠すようなことじゃないし。

 やっぱりゆいくん、一つ下の学年の子にも知られてるくらい有名人なんだな~。とぼんやり考えていると……私の背中は、壁に押し付けられた。そしてその横に、細くて白い脚。


「……? どうしたの? 来瑠ちゃん」

「率直に言うけど、貴方みたいなちんちくりんじゃ釣り合ってないから惟斗先輩と別れてくれませんかね」


 ……そう言うと来瑠ちゃんは、先程までの人懐っこい笑顔はどこへやら。恨めし気に私のことを睨みつけてくるのでした。



 というわけで、冒頭に戻ります。



「私の話、聞いてるんですか? ちんちくりん先輩」


 もう「不破先輩」とも呼んでくれなくなってしまった。うーん、確かに来瑠ちゃんの方が背が高いし、モデルさんみたいにすらっとした体系だ。対して私はちっちゃいし、平々凡々な体系だと思うけど。そりゃ来瑠ちゃんからしたら私は「ちんちくりん」だよね。

 うーん、だからそれは別にいいんだけど……。


「話は聞いてるよ」

「じゃあ……」

「聞いたうえで、なんで来瑠ちゃんの言うことを聞かないといけないのか、分かんないんだけど……」


 私はそう言って首を傾げる。すると来瑠ちゃんは驚いたのか、目を見開いていた。あれ、そんなに変なこと言ったかな……?


「えーっと、まず『釣り合ってない』っていうのは、来瑠ちゃんの主観だよね? 何を以て『釣り合ってない』と思うのかの根拠も明確じゃないし、例え本当にそうだとしても私もゆいくんも気にしないから、そもそも議論する点じゃないと思うな。次に来瑠ちゃんの言うことを聞く義理は、私にはないと思うな。ましてや来瑠ちゃんに、人の関係に口を出す権利はないと思う。自分の人間関係をどうするか、決めるのはその人自身だよ。……あ、もちろんその人間関係を保つことで何かしらの危険性が生じる可能性があるなら、口を出しても良いと思うけど……」


 そこは臨機応変にする必要があると思う。でも今はそういう状況じゃないと思うし……。


「まあ何にせよ、来瑠ちゃんの言うことは聞けないな。ごめんね」


 私はそう締めくくる。納得してくれたかな? とその顔を覗き込むけど……。


 ……来瑠ちゃんは顔を真っ赤にして、更に鋭く私のことを睨みつけていた。あ、あれ? なんか、怒ってる……?


「……私のこと馬鹿にしてんの!?」

「えぇっ!? 馬鹿になんてしてないよ~~~~っ!!!!」

「この状況でそんな減らず口叩くなんて、馬鹿にしてるとしか思えないんだけど!?」

「思ったこと言っただけなのに!?」

「それが馬鹿にしてるって言ってんの!!!!」

「来瑠ちゃん体柔らかいね……」

「……この状況で言う感想がそれなの?」


 だって、足ドンだけじゃなくて壁ドンもされたから……。なんか前屈してるみたいな体勢になってるから……。


 だけど、ちょっとだけ来瑠ちゃんのムカムカも収まっているみたいだ。これはチャンス!! と思い、褒め言葉が効いたのなら褒め続けよう!! と口を開いた。


「く、来瑠ちゃん可愛い!!」

「はぁ!?」

「来瑠ちゃん近くに来るとその可愛さがいっぱい伝わって来るね!! 手足も長くてまるでモデルさんみたい!! 可愛くてカッコ良くて素敵だなぁ~!!」


 手を叩きながらそう褒めると……来瑠ちゃんは手と足をどけ、きっとさっきとは別の意味で頬を微かに赤く染めながら、照れたように髪の先を指先で巻き始めた。


「そ、そんなこと……あるけど」

「だよね~!! 来瑠ちゃん本当に可愛い!! 思わず見惚れちゃうよ~!! ……あ、私そろそろ次の授業だから、先に行くね!!」

「ふふ……はぁ~い、お疲れ様で~す」


 私がさり気なく後退りながらそう言うと、来瑠ちゃんは朗らかな様子で手を振ってくれる。それを言うことに私は回れ右をすると、ダッシュでその場を立ち去った。



 一方、一人残った来瑠は。


「……って!? あぁっ!! あのちんちくりん……!!」


 上手いこと逃げられたことに気づき、一人憤慨するのだった。

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