24回キスしないと出られない部屋【前編】
頭の中にあるふわふわなヴェールが、重力に任せて剥がれ落ちていくような感覚。それに促されるよう、私は目を覚ました。
まず見えたのは、真っ白な天井。どうやら仰向きに寝っ転がっているらしい。次に感じたのは、痛い頭。私のふわふわ枕は!?
そんなことを思いながら体を起こして、私は辺りを見渡した。……見えるのは、天井と同じで壁も床も真っ白な部屋。真っ白じゃないのは……壁に取り付けられた看板? と、その下にある扉。そして部屋の奥に置かれたベッドだ。
……えーっと、ここ、どこだろう?
「ん、ぅ……」
そこですぐ横から小さく呻き声が聞こえる。私がそちらを見ると、見知った男の子が体を起こしていた。
「ゆいくん」
「ぇ……? ……ぁ、ふわり……? おはよう……」
「うん! おはよっ!」
挨拶をされたので思わず普通に返してしまったけど、絶対挨拶してる場合じゃないよね!?
少し可愛く寝ぼけていたゆいくんだけど、辺りを見回してようやく現状を理解したらしい。いや、正確に言うと、訳が分からない状態にいる、ということを。
「……ここどこ?」
「私にも分からなくて……」
「いや、この状況、まさかセッ……」
「せ?」
「……なんでもないですこっち見ないでください」
ゆいくんが何かを言いかけたので聞き返すと、ゆいくんは顔を背けて勢い良く立ち上がってしまった。そしてズカズカと扉の方に向かう。私も立ち上がって、慌ててそれに付いて行った。
ゆいくんはドアノブに手を掛けて、扉を開けようと試みている。だけど……開かないみたいだ。
「出入口はこの扉だけみたいだし……困ったね」
「……一応、脱出方法はあるみたいだけど」
ゆいくんがそう言って、少し上の方を指差す。その指に付いて行くように顔を上げると……そこには看板。そしてそこには文字が書かれていた。
『24回キスしないと出られない部屋』
「……この扉の先は……24回キスしないと出られない部屋……!?」
「いや!? この中の話だと思うよ!?」
「え!? だって看板って部屋の外に付けないと意味がないものじゃない!?」
「え……いや、まあ、確かにそうだけど……その発想はなかったな……いや違うな……俺が毒されてるのか……」
え? 看板って普通外に付けるものだよね? 私そんなに変なこと言ったかな……。
と思っていると、看板の文字がうごめき出す。わっ、と私が声をあげると、ゆいくんも顔を上げた。……すると、看板の文字の動きが止まる。
『この部屋の中の話です』
「お話が出来るんですね!!」
「喜ぶとこじゃないでしょふわり……いや、俺たちをこの中に閉じ込めて、どうする気なんですか」
意思疎通ができることに喜んでいると、ゆいくんがトゲトゲ~とした冷たい声でそう尋ねる。するとまた文字が変わった。
『いや、だから24回キスしてください』
「……それで何かメリットあるんですか」
『私が嬉しい』
「マジでお前何?」
ゆいくんはそう言ってからハッとしたように私を見て、そしてすぐに気恥ずかしそうに目を反らした。今のゆいくんの砕けた口調、良かったのにな~。
『あ、でも同じところにキスしてもつまらないので、違う場所で一回カウントにします』
「えっ」
『必然的に24か所にキスすることになりますね。どっちからキスするかは問わないので、よろしくお願いします』
「いや、よろしくお願いしますって……」
「ゆいくん」
納得していなそうなゆいくんの服の裾を、私は引く。ゆいくんは私を見下ろした。
「他に出る方法もないだろうし……24回、ちゅーしよう!!」
「そんな意気揚々と!? い、いや、ふわり、こんなよく分かんない人にキスするとこ見られるんだよ!? いいの!?」
「見たところベッド以外の物が無いから、ここにずっと閉じ込められると生命的危機が……ってことを考えると、キスする方が圧倒的にコスパが良いかなって。そもそもキスして本当に開くかも分からないんだから、とりあえず早く指示通りにするのが先決だと思う」
「冷静だ……」
私の肩を掴んでいたゆいくんの手の力が緩まる。そして小さくため息を吐くと、仕方ないな、と呟いた。納得してくれたらしい。
するとまた看板の文字が変わる。私たちは文章が出るのを待って……。
『ちなみに、こちらの都合でR15の範囲でのキスでお願いします』
「そっちの都合とか知らないから!!!! ……いや、そんなえげつないことする予定ないけどさぁ!!!!」
(※こちらの都合=全年齢投稿サイトに投稿するので)
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【余談】
「なんでキス回数が24回なの」
『1d100ダイス(※1~100の目が出るサイコロ)を振ったら24が出たからです』
「え、じゃあ100回キスする可能性も……」
『ありましたねぇ』
「100回キスでも良かったのに」
「ふわり?」




