ドキドキ!? ハッピーホワイトデー!【後編】
今日はふわりと遊びに行くことになっていた。まあつまり、デートである。
「すっいぞっくか~ん♪ すっいぞっくか~んっ♪」
隣に座るふわりは、そんなことを小さな声で歌って体を揺らしている。……いや、電車で体が揺らされているだけか? どっちもでいいか……。
そう、今日行くのは水族館。遊園地と迷ったのだけれど、水族館は基本的に見て回るだけだし、あまり激しい動きはしないだろうと思ってのことだ。
……バレンタインの日、ふわりが「大学に持っていきたくなかった」とわざわざ家まで呼んでくれたことを思い出す。確かに、せっかく作ったのに外出して壊れたら嫌だもんな。俺は……持ってきちゃったけど。でもだからこそ水族館を選んだわけで。俺がはしゃぎすぎなければ大丈夫だろう。
「ゆいくん、楽しみだねっ」
「うん。そうだね。……」
横から話しかけられ、俺はふわりの方を見る。……そしてその膝の上に乗せられたものを見て、思わず黙った。
それは、水族館の館内地図のコピーだろうか。なんか色々書き込んであった。
「私、今日が楽しみすぎて、色々見れるところ調べてきたんだ~」
そう満面の笑みで告げるふわりに、うん、かわいいな、と思うしかなかった。
「ゆいくんゆいくんっ!! こっち来て~!!」
「あっ!! ゆいくん、ヒトデさんだよっ!! おさわり体験だって!!」
「……わ~~~~っ、忘れてた!! 後5分でイルカさんショーが始まっちゃうよ~!! 行かなきゃ!!」
その後、俺はふわりにめちゃくちゃ振り回された。
「ふわり……水族館は薄暗いから、あんまり走り回ると危ないよ」
「はっ、そ、そうだよね。ごめんなさい……。……あっ!! ゆいくん!! 古代魚展示企画だって!!」
「いや言った傍から!!!!」
楽しそうなことを前に俺に注意などあっという間に頭の外に行ってしまったらしく、ふわりはダッと駆け出してしまう。俺は小走りでそれを追いかけた。
個部屋のようになっているところに入ると、ふわりは興味深そうな顔で展示を見ている。泳いでいない魚の模型と文字ばかりの看板しかないところはあまり人気がないのか、そこには俺たち以外誰もいなかった。
「ふわり、だから……」
「あっ、ゆいくん、こっちこっち!! このおさかなさんの説明、面白いよ~」
「いや、ほんとにさぁ……」
「?」
俺は文句を言おうと口を開くが、小さく笑いながら首を傾げられると、なんか……もう何も言えなくなってしまう。我ながら、ふわりに弱い。
ふわりの横に立って、彼女から看板の説明書き受け売りの説明を聞く。にこにこと楽しそうに話すその声と顔を、俺は堪能していた。
「──って感じで!! 面白いよね~」
「……そうだね。やっぱり古代の生き物を見てると、今と通じる部分とかあるし、比べたりその進化の過程を考えると、面白いものがあるよね」
「ね!! ……古代はどんなふわふわがあったんだろう……」
「あ、急にそこに飛ぶんだ……」
「ふわふわは大事だからね」
俺がそう言うと、ふわりは真剣な顔でこちらを見上げながらそう告げる。……ふわりはもし昔にタイムスリップとかしたら、真っ先にふわふわなものを探しそうだな。そう思うと面白くて、俺は思わず小さく吹き出してしまった。
「なんで笑うのー!!」
「いや、ふわりってタイムスリップとかしたら、こっちに戻って来る方法を探すより先に、ふわふわなもの探しそうだな、って思って」
「えっ、そ、そんなこと……あるかも」
「ほら」
俺がクスクスと笑うと、む~、とふわりは頬を膨らませる。俺はその頬をツンツンと指先で突いて。
本当にかわいいなぁ、と思いながらその頬を軽く引っ張ると、ん~~~~っ、とふわりは不満げに唇を尖らせる。その表情を見て、またくすっと笑ってしまった。
そこでようやく頬から手を離すと、その手をそのままふわりの手に絡める。
「……え?」
「ほら、ふわふわは大事だから」
行こっか、と言うと、ふわりはキョトンとしてから……にこっ、と笑って。
「やっぱゆいくん、王子様みたい!!」
あまりにも真っ直ぐな瞳でそう言われたので、思わず照れてしまうのだった。
帰りの電車、ふわりは自分の大きさくらいあるチンアナゴの大きなぬいぐるみを抱きしめながら眠っていた。そして反対側の人の肩に寄りかかりそうになっているのを、慌ててその肩を引き寄せ、こちらにもたれかからせる。すー、すー、と規則正しい寝息が聞こえた。まあ、あれだけ大はしゃぎしてたらな……。
ふわりはほぼ一日中走り回り(俺が手を繋いでからは、俺が手を引くことで阻止できたけど。手綱かなって思いました)、帰りがけにお土産屋を覗くと「大当たりはふわふわBIGチンアナゴのぬいぐるみ!! 一回500円!!」という目立つポップがあり、ふわりは興奮気味にそれにチャレンジをしようと500円玉を握りしめ、なんと一回で当ててしまい、本当に大はしゃぎしていたから……まあ疲れるよね。
というか、ここまでのふわふわ好きだと、大当たりを一回で当ててしまうのか……と思わず感心してしまった。いや、ふわりが強運なだけなんだろうけど。
俺はふわりが寝ていることを確認してから、ワンショルダーのファスナーをゆっくり開ける。……その中には財布、スマホと、一日中入れっぱなしにしていたチョコの箱が入っていた。うん、見た限りでは渡すのに問題なさそう。
結局昨日は、チョコを作ったんだよな。優兎に難しく考える必要は無いって言われたし、だったら最初に考えていたことをやり切ろう、って思って。……お菓子作りはほとんど初めてだったけど、上手くいって良かった。
ゆっくりとファスナーを閉めると同時、降りる駅に着くというアナウンスが流れてくる。顔を上げ、次にふわりの肩を軽く叩いた。
「ふわり、そろそろ着くよ」
「……ん……」
ふわりは俺に呼び掛けにゆっくり目を開ける。その拍子に腕の力が弱まったのかチンアナゴがふわりの膝から落ちそうになり、俺は慌ててそれを支えた。
「……あ、ゆいくんありがとう~」
「うん、降りる準備しようか」
「は~い」
ふわりは目を手の甲でこすり、眠そうにしながらゆっくり立ち上がる。その腕にチンアナゴを抱かせ、俺はふわりの手を引いて電車の扉まで誘導した。
ホームに降り、乗り換えるために別のホームまで移動すると、ふわりの眠気も冷めた様である。チンアナゴを大事そうに抱きしめ、にこにこと笑みを浮かべていた。
次の電車は……五分後か。まだ時間あるな。そう思った俺は、ワンショルダーのファスナーを再び開け、その中にある物を取り出した。
「……ふわり、これ」
「え? ……あ、これって……!!」
「うん、バレンタインのお返し。……そんなに手の凝ったものじゃないけど……いつもありがとう」
ふわりは表情を輝かせ、意気揚々と箱を受け取ろうとする。その拍子にまたチンアナゴを落としそうになっていたので、また俺は慌ててそれをキャッチした。本日二度目……。
俺が代わりにチンアナゴを持ってあげることにして、ふわりは両手で箱を開ける。
「わっ、これマシュマロ?」
「うん、色んな味のチョコでコーティングしてみたんだ。見た目もカラフルだし、マシュマロってふわふわだし……ふわり、そういうの好きそうだと思って」
「うんっ!! 大好き!! ありがとう!!」
そう言うとふわりは早速マシュマロを一つ、口の中に放り込む。……そして嬉しそうに頬を手で抑えた。とりあえずその反応で喜んでもらえたということが分かり、俺はほっとする。色々悩んだけど、これにして良かったな、と素直に思えた。
そこで電車がホームに滑り込んできて、ふわりは慌てて箱の蓋を閉める。そして自分のバッグの中に入れると、後は家でゆっくり食べるね、と言った後、俺たちは電車に乗り込んだ。
ふわりと別れ、俺は家に帰る。リビングに行くとソファの上で優兎がくつろいでおり、俺が入ってきたことに気づくと顔を上げた。
「あ、お帰り」
「……ただいま」
「ふわりとのデートどうだったんだよ」
「……楽しかったよ」
「やっぱ俺も付いて行けばよかった」
「いや、来るなよ」
そんな言い合いをしながら、俺は上着を脱いでさっさと自室に籠ろうと歩き出す。リビングから出て行こうとした俺の背中に、優兎は声を投げかけた。
「そういやめちゃくちゃ悩んでたけど、結局ふわりに何あげたわけ?」
「……マシュマロだけど。チョコをコーティングしたやつ」
教える必要なくないか、と思ったけど、一応アドバイス(?)を貰った義理がある。そのため正直に答えると……優兎は驚いたように目を見開いた後、何故か大爆笑をし始めた。
「な、何」
「や、兄貴、あげるなら意味くらい調べとけよ」
「……意味? あげるものに意味とかあるのか?」
「あるよ。……例えばマシュマロとかだと、『あなたのことが嫌い』って意味」
その言葉に俺は思わず固まる。……そして一気に全身から血の気が引く気配を感じ、優兎の笑い声を背に、俺は慌てて部屋に駆け込んだ。
スマホからふわりに電話を掛ける。するとふわりはすぐに出てくれて。
『ゆいくん? どうしたの~?』
「ふわり!! ……俺、ふわりのこと大好きだから、マジで……!!」
『え? 急にどうしたの~? 私も大好きだよ~』
……その後、俺がマシュマロをあげる意味を説明し、そういう意味を知らなかったから、嫌いって意味で渡したんじゃないんです。本当にごめんなさい、と弁明したのは、言うまでもない。
来年は……来年はもっと早く、ちゃんと調べて準備しよう……!!
【オマケ3 終】




