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ふわふわ♡ハッピーバレンタイン!【後編】(※)

「ゆいくん、お疲れ様っ」


 授業終わり、私がすぐにそう声を掛けると、ノートやパソコンを片付けようとしていたゆいくんは顔を上げる。そして私と目が合うと、ふわっ、と微笑んだ。


「ふわり、お疲れ様」

「うんっ。……ゆいくん、すごい荷物だね」

「ああ……うん。俺にチョコくれる人、すごい沢山いてさ」


 私がそう言うと、ゆいくんは苦笑いを浮かべる。


 そう、ゆいくんがいつも持っているトートバック。……それとは別に、大きな紙袋があった。その中には沢山のチョコがある。市販のものから手作りのものまで。

 ……そして私たちを遠巻きに見ている人たちがいることも、私は気づいていた。たぶんゆいくんにチョコを渡したがっているんだろう。それが分かっていながら授業が終わってすぐゆいくんに声を掛けた私、ちょっと意地悪だったかな?


 まあそれはともかく。……ゆいくん、本当にモテモテなんだなぁ、と再認識する。きっと私と出会う前も、こんな感じだったんだろう。


「でも、いつもよりは少ないよ」

「えっ、そうなんだ」

「うん。……たぶん、俺とふわりが付き合ってるのを知ってる人が多いからだと思うけど……」

「ああ、ずっと一緒に居るもんねぇ」


 私がそう言うと、ゆいくんは小さく頷く。ちょっとほっぺたを赤くして、かわいいなぁ。

 それはそうとして。私は気を取り直すとゆいくんに尋ねる。


「ゆいくん、今日はサークルなかったよね?」

「あ、うん」

「じゃあ、良かったら一緒に帰ろっ」

「……うん。いいよ」


 私の申し出に、ゆいくんは少し嬉しそうに微笑みながら頷いてくれた。それが嬉しくて、私も笑い返す。


 荷物を片付けるゆいくんを待ちながら横目に女の子たちをチラッと見ると……彼女たちも私が離れないと分かったのだろう。徐々に帰り始めていて。

 ……やっぱり私、少し意地悪だったかな? てへっ。





 一緒に大学を出て、それから私の家に来てくれないかな、と言うと、ゆいくんは少し驚いたように目を見開いてから……こく、と頷いた。


 というわけで今日も私の家にレッツゴー! ゆいくんは来慣れているはずだけど、いつも玄関に足を踏み入れる時は緊張したような面付きだった。


「今日もお母さんは居ないよ」

「ゴホッ。……は、はい……」


 そんなゆいくんをあえてからかってみると、ゆいくんは顔を真っ赤にしてむせる。だけど素直にお返事をするから……期待してるのかな?


 先に私の部屋に行くように言って、ゆいくんが階段を上るのを見届けてから、私はキッチンの方に向かう。

 冷蔵庫を開けると、そこに待ち受けているのは私が昨日作ったチョコだった。それはチョコブラウニー。小さいものを何個か作って、トッピングで差別化を図っていた。


 やっぱり、大学に持っていくんじゃなくて家で冷やしておいて、正解だったな。……私はよくこけちゃうから、それで形が崩れて……とかなったら最悪だもん。サークル無いって前に聞いてたから、こうして家に連れてきちゃえばいいって思ってたしね!!


 丁寧にラッピングしたそれを持って……ふと、その隣に置いていた使いかけの板チョコが目に入る。……。

 少し考えてから、ラップに包んでおいたそれも手に取った。


 部屋に入ると、ゆいくんは床に座り、ベッドに寄りかかって何か本を読んでいた。最初に比べると随分とリラックスしてくれるようになったなぁ、と考えていると、ゆいくんは私に気づいて本を閉じて。

 私はそんなゆいくんの隣に座ると……背中に隠していたそれを、彼に差し出した。


「はいっ!! ゆいくん、ハッピーバレンタイン!!」

「あっ……ありがとう」


 すると何故かゆいくんは少しだけ驚いたように目を見開いて。しかしすぐに嬉しそうに笑ってくれたので、私は首を傾げた。

 私のその視線に気づいたのだろう。ゆいくんは、いや、と呟き。


「今日一日、ふわりから何も言われなかったから……忘れてるのかと」

「忘れるわけないよー! だって、付き合って初めてのバレンタインだよ? 大好きって伝えるのに最適な日なんだから、そんなイベント忘れるわけないって!!」

「そ、そっか……ありがとう」


 ゆいくん大好きっ、と抱き付くと、俺も大好き、とゆいくんは小さく返してくれる。えへへ……幸せだなぁ。


「これ、今食べてもいい?」

「いいけど……お家でゆっくり食べなくていいの?」

「……優兎に取られそう」


 どこか不機嫌そうにゆいくんが呟き、あー、と私は納得する。

 ゆいくんの弟くん、優兎くん。たぶん私に気があって……それで、だろうな。


 そういえば優兎くんには何も用意してなかったな、どうしよう。と考えている間に、ゆいくんは袋を開封する。そして中身を取り出して、おお、と呟いた。


「美味しそう。チョコブラウニー?」

「うんっ!! そうだよ~」

「……今日は砂糖と塩、間違えてない?」

「も~っ!! それは恥ずかしいから忘れて~っ!!」

「いたっ、ごめんごめん」


 動物園でのことを引き合いに出され、私がポカポカとゆいくんを殴ると、ゆいくんが笑いながら謝って来る。うう、あの時は本当に申し訳ないことしちゃったけど……!

 でも今回は綺羅ちゃんと日恋ちゃんの監修の元だから、大丈夫……なはず! ドキドキしながらゆいくんが食べるのを見守っていると。


「……うん。すっごく美味しい」

「ほんと? 良かった~!」


 ゆっくり味わい、そんな感想をくれたゆいくんに、私は思わず胸を撫で下ろす。動物園の時のリベンジ成功、だね!! ……いや、本当のリベンジは、料理でしないといけないんだろうけど……。


 一つ口に含むごとにトッピングの色合いまで感想をくれるゆいくんを、私はニコニコしながら見つめる。そういう、本当に丁寧に私の気持ちを受け取って、返してくれるところが……ゆいくんらしくて、大好きなんだ。


 時間を掛けて食べ終わり、ゆいくんは私が入れておいたメッセージカードのみをバッグの中に入れる。そして優しく微笑んだ。


「……ありがとう、ふわり。本当に美味しかったし、嬉しかった。お返し、期待しててね」

「うんっ!! 喜んでもらえて良かった~!!」


 私がそう頷くと、ゆいくんも小さく頷く。それから私から視線を外して。


「……俺のこと家に呼んだのって、チョコのため?」

「え? うん。私よくこけちゃうから、持っていって落としちゃったら嫌だなぁって思って」

「……そっか。うん」

「……」


 二人で黙る。静寂が私たちの間を流れて、不思議と鼓膜がお互いの呼吸音とか、微かな布ずれの音だけを拾うようになる。

 なんだかそれを感じ取るといつも、自分の中のスイッチが切り替わるような音も聞こえるんだ。


 私は冷蔵庫から持ってきていた板チョコを手に取り、それを両手で砕く。そうして一ブロック分だけを作り出して。

 音を聞いて不思議に思ったのだろう。ゆいくんが私の方を見つめる。……私はその一ブロック分を口に含み、自由になった両手でゆいくんの肩を掴んで。


「……んっ!?」


 ゆいくんと唇を重ねる。最初は重ねるだけで。するとすぐにゆいくんの四肢から力が抜けるので、そのまま床に押し倒してしまった。

 そうしたら次に、口の中で軽く溶かしたチョコを舌でゆいくんの口の中に押し付ける。ゆいくんはびくっ、と体を少し跳ねさせたけど、大人しくそれを受け入れた。


 その後はいつも通り、舌も絡めたキスをする。でもなんだか今日は、一つのチョコを二人で一緒に溶かし合っているようだった。


 熱くて、気持ち良くて……それでいて、甘い。いつもよりずっと。


 んく、と時折舌に纏わり付いたチョコを飲み込んで、やがてチョコはなくなってしまった。それと同時に顔を離すと、ゆいくんは顔を真っ赤にして、手の甲で口を覆う。


「……とっても甘かったね、ゆいくん」

「ッ……」


 にこ、と笑うと、ゆいくんは軽く私のことを睨みつけて。


「~~~~ッ、食べ物で遊ばない!!!!」

「え~~~~っ!? 怒られた!? ゆいくん気持ち良さそうだったのに!?」

「な゛っ、そ、それとこれとは話が別!!!!」

「……まだチョコ残ってるんだけど……もうしちゃだめ?」

「……」


 そう尋ねると、ゆいくんは視線を彷徨わせる。あ、これ押せば行けるやつだ。


「絶対零さないから! 無駄にしないから! 約束するから~~~~っ!!!!」

「……あ~~~~もう分かったよ!! 勝手にしろよ!!!!」

「わ~い! ゆいくん大好きっ! はむっ」

「え、ちょ、いつの間に一ブロック分割ったの? ……あ、ちょっ、ふわりっ……!!」





【オマケ2 終】

(※読者の皆様は食べ物で遊ぶのはやめましょう)

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