第43話「また、帰ったらな」
「ふわり、俺は一足先に帰るけど、連絡するから。ていうか、ふわりもこっちに帰ってきたら一緒にどっか行こうよ。俺大学にも遊びに行くからさ」
「うんっ!! 私も連絡するね~!!」
「おい優兎、そんな俺の目の前で俺の彼女口説くことあるか……?」
「あ、兄貴いたんだ」
「最初から今までずっといただろ!!」
「あはは、二人とも本当に仲良しだなぁ~」
「「良くない」」
私が笑うと、二人はまたすぐに声を重ねて反論してくる。そういうところが仲良しさんだな~って思うんだけど。
今日は旅行に来てから三日目。優兎くんの夏季特別旅行が終わって帰ってしまう日。私たちは後二日あるから、優兎くんだけが帰ってしまう形だ。
まあ元々一緒に来たんじゃなくて、たまたま会えただけだから、それをちょっと寂しく思うのも変な話なんだけどね。どうせ帰る場所も一緒なんだし。
ホテルのロビーで大荷物片手に友人たちと集合している優兎くんを見つけ、出かけようとしていた私たちがそれを発見。私が声を掛けてもいい? と言うと、いいよ、とちょっぴり不満げにゆいくんが答えてくれたので、こうして別れの挨拶をしている次第だ。
「でも優兎くん、二人っきりで遊ぶのはちょっと無理かな。ゆいくんがいるならいいけど」
「ふわりがそこら辺しっかりしてるなんて……」
「ふわりってそういうとこ無頓着だと思ってた……」
「二人ともそれどういう意味?」
だって……優兎くんはたぶん、少なからず私に気があって、ゆいくんはそれを嫌がっている。私としても、お付き合いしている人がいるのに、その人を差し置いて男の子と二人で出かけるのは……流石にちょっとどうかと思うから。
私、そういうところはちゃんとしないといけない!! ……って思ってるからね?
「……仕方ないな。ふわりがそう言うなら……兄貴も付いて来てもいいよ」
「なんで上からなんだよ。お前が付いて来る感じになるんだろ、この場合」
「は? 俺メインでしょ」
「ふわりは俺と付き合ってるんだから俺がメインだろ」
相変わらず二人は仲睦まじげに話しているので、私はニコニコしながらそれを聞いていた。
……良かった、ゆいくん、もう優兎くんと顔を合わせても全然平気みたい。
そう胸を撫で下ろしていると、優兎~、そろそろ行くぞ~、とお友達から声が掛かる。優兎くんは今行く!! と答え……名残惜しそうに私を見つめた。
「じゃあふわり、俺はそろそろ行くから」
「うんっ、気を付けて帰ってね」
「俺に挨拶は無しかよ……」
「兄貴は別にいいだろ」
「なんでだよ」
ゆいくんは深々とため息を吐き……優兎くんに軽く手を振る。
「また、帰ったらな」
そして微笑みながらそう告げて。
荷物を片手にその場を立ち去ろうとしていた優兎くんは、その言葉に驚いたように固まる。
「……兄貴たちも、気を付けて帰れよ」
ぶっきらぼうにそう告げると、今度こそその場を立ち去った。
高校生集団が一気に移動したので、なんだかホテルのロビーがいつも以上に広々と感じる。それがちょっと寂しいような気がした。
「……優兎とあんなに言葉を交わしたの、久々だったな」
見えなくなるまで手を振っていたゆいくんが、小さくそう呟く。私はその横顔を覗き込むように見つめた。
「もうすっかり仲良しさんだね」
「仲良しじゃ……うん、そうかも」
「あら、素直」
「……何、からかってる?」
「からかってる」
「もう……」
私が笑うと、ゆいくんは私のほっぺたを指先でツンツンとするので、えへへ~、と私は抵抗せずにそれを享受する。
「……ふわりのお陰だよ。ありがとう」
「え、私?」
「うん、そうだと思う。……優兎、なんだか……いつも固い壁でも作ってるみたいだったのに、昨日と今日は、それが無くなってたから」
それを聞いて、私は思わず目を見開く。……それって、私がゆいくんに最初に抱いていた感想と同じ……。
「……やっぱりゆいくんと優兎くんって、似てるねっ」
「……どういう意図か分からないけど……まあ、似てるんだと思うよ。兄弟なんだから」
そう言って微笑むゆいくんの顔は……とってもふわふわで。私は嬉しくなってしまう。
私が何を出来たのかは全然分からないけど、それがこうしてゆいくんのふわふわ~なお顔に繋がったと思えば……いい働きをしたね、私。うん!!
「それじゃあ、出かけよっか」
「うんっ!! 今日はどこに行こっか!!」
「俺としては、今日はここに行ってみたいかも。天気もいいし……」
「そうだね、いっぱい外歩くもんね!! じゃあそこにしよっか~」
「うん。……だったら道を調べて……」
「……そういえばゆいくん、優兎くんの前だとちょっとお口が悪かったの、新鮮だったな~」
「……えっ」
「?」
「あ……や、嫌だった?」
「ううん、嫌じゃないよ。いつもと違うゆいくんも好きっ」
「好っ……んんっ、これからは気を付ける……」
「えぇ~!? なんでなんで!!」
「……ふわりには良く見られたいから、口調にはいつも気を付けてるの!!」
「……えぇ~、何それ、かわいすぎる……」
「……えっ、はっ、どこが」
「全部」
「全部」
「ゆいくんなら何でもかわいいよっ」
「……悪い気はしないけど、なんだろう、男としてどうなんだろう……」
「どんなゆいくんでも、だ~いすきだよっ」
「……俺も、どんなふわりでも好き」
「えへへっ、知ってる!!」
「……は~……はい、道調べたから行くよ」
「ふふっ、は~い」
私たちはどちらからともなく手を繋ぐ。そうして二人でせーので、一歩外へと踏み出した。
【夏休み旅行編 終】




