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第41話「変な感じにカッコいいな」

「わっ、弟くん大丈夫……?」

「俺はっ!! ……俺はあんなやつのことなんて、大っ嫌いだ!!!! いつも……いつも俺より軽く上を行くくせに、つまらなそうな顔をして、下のことなんて全然見てなくて、きっと考えたことも無くて。いつも貼り付けたような気持ち悪い笑顔浮かべて、いつも人に囲まれてるくせに、一人になろうとして、俺が欲しいもん全部持ってるくせに、あいつは、あいつはっ……!!」

「……」


 私は弟くんのことを見上げたが、駆け寄ってきた店員さんに一旦視線をやり、ごめんなさい、お願いします。と告げてから。


「驚かせてごめんね、落ち着いて。……ほら、美味しい和菓子食べよ?」

「んぐっ」


 私が羊羹を口に突っ込んであげると、弟くんは素直にそれを受け入れる。……そしてもぐもぐと口を動かして。


「……美味しい」

「ね!! 美味しいよね!!」


 私がそう言って笑いかけると、弟くんはじっと地面を見つめる。そして割れた茶碗を片付けてくれた店員さんに、すみませんでした、と深々と頭を下げて謝った。

 大丈夫ですよ、今代わりのものをお持ちしますね。と許してもらってから、弟くんは席に座り直した。


「……ごめん。あんたに言っても仕方のないことだった」

「大丈夫だよ。気にしないでっ」


 そう言って……ぽふ、と、自然な動作で私は弟くんの頭に手を乗せていた。

 え、と弟くんが顔を上げ、私も思わず固まる。


 ……しっ、しまったーーーーっ!!!! ついその横顔が、しょぼんってしてるゆいくんにそっくりだったから、いつもの癖で……!! うぅっ、私のバカバカっ。


「は、あははは、よ~しよしよしっ!! そんな落ち込んだ顔しないの~~~~っ!!」

「ッ!! 子ども扱いすんじゃねぇよっ!!」


 しかしやってしまったものは仕方がないので、もう可愛がる方向にシフトチェンジすることにした。猫かわいがりしてあげると、彼は恥ずかしそうに首を横に振る。よし、抵抗してもらえた……!! これで無罪放免……え、違う?


「……弟くんは、ゆいくんのことが嫌いなの?」

「……そうだよ。あんなやつ、早くいなくなってほしい」

「……そっか」


 その答えに対し、私はそれだけ返す。すると弟くんは困惑したように眉をひそめた。


「……怒らないのかよ」

「え、なんで私が?」

「なんでって、恋人がこんな風に嫌な感じで言われてて、怒りたくならないのか」

「うーん、やっぱり、わざと悪く言ってるんだね」


 私がそう言うと、弟くんは息を呑んで黙ってしまう。私は微笑みながら続けた。


「弟くんがゆいくんのことを嫌っていようと、私はゆいくんのことが好きだし。弟くんがゆいくんにいなくなってほしいと思っても、実際にいなくなるかどうか決めるのは、ゆいくんだよ。どっちについても、私には関係ない」

「……」

「でもどんな選択だろうと、私は付いて行くつもりだよ。ゆいくんが納得できる方向に。決められなそうなら、決められるまで傍にいる」


 私がするのはそういうことだよ。と締めくくる。弟くんはじっと私を見つめ……そして、目を反らした。


「なんか……」

「ん?」

「……あんた、変な感じにカッコいいな」

「……えぇ!? それ、褒められてるの!?」

「やっぱ気のせいだったかもしれない」

「えぇ~!?」


 人生で初めてカッコいいなんて言われた!? でも変な感じでって何!? と騒いでいたら、カッコいい発言を撤回されてしまった。え~~~~私、せっかくカッコいいなんて初めて言われたのに……。

 でもそんなカッコいい(キラッ)って思われるようなこと、私言ったかな……?


「……よーく分かったよ。あんたは兄貴のことが大好きで、なんかよく分かんない方向で覚悟が決まってるって」

「よく分かんない方向が私には分からないけど、うんっ!!!!」

「分かんないのに自信満々に頷くなよ……」


 意気揚々と頷くと、弟くんが呆れたようにそう呟く。


 目と目が合って……私たちは自然と吹き出して、笑い合ってしまった。分かんないことだらけでなんか面白いって思ったけど、弟くんも同じように思ってくれてたみたい。


「ほんと……()()()って、変なやつだな」


 ふは、と弟くんは口元を手で抑えながら笑う。それを聞いて私は、大きく目を見開いた。

 今弟くん、名前で呼んでくれて……。


「~~~~ッ、変なやつじゃないもん~~~~っ!!」

「……なんでそう言いながら嬉しそうなんだよ」

「だって、お名前で呼んでもらえたから!!」


 私がそう答えると、弟くんは目を見開く。どうやら、無自覚だったらしい。

 そして少しだけ俯き、何かを考え込んだ後。


「……ふわりもさ、その『弟くん』ってやつ、やめてくれよ」

「えっ?」

「なんか、兄貴の存在ありきで俺のこと認識されてるみたいで、腹立つ」


 ……確かに、「弟」って概念はゆいくん(おにいちゃん)がいないと成立しないものだもんね。

 ゆいくん(おにいちゃん)が嫌いな彼にとっては、嫌って感じるものなのか。


「じゃあ、ゆうくん?」

「……なんか兄貴の呼び方と近くて腹立つ」

「優兎くん」

「……それでいい」


 後者の提案に、弟くん──もとい、優兎くんは嬉しそうに笑って頷いて。


「もっと、俺を見て。ふわり」

「……え?」


 なんだか含みのある言い方だな、と私が首を傾げると。



「──ふわりっ!!」


 そこで聞き慣れた声が背後から響き渡る。



 思わず大きく肩を揺らして、でもすぐに立ち上がって振り返って……すぽ、と、大きな体に私が包まれるのは、同時だった。


「ふわり、良かった、俺、本当にすげぇ心配して……」

「ゆ、ゆいくんっ」


 ぎゅぅ、と強く抱きしめられる。くっつく首筋は少しベトベトしていて、きっと走って探し回ってくれたんだろうなと分かった。……ゆっくりお茶しちゃって、悪いことしちゃったな。

 私は大丈夫だよ、という意味を込めてゆいくんの背中を優しく撫でる。ん、とゆいくんは小さく呟き、私に頬を寄せた。


「……兄貴、なんか盛り上がってるとこ悪いけど」

「……? ッ、なんで優兎がここにいるんだよっ」


 そこで優兎くんが声を出す。するとゆいくんはそこで初めて彼の存在に気づいたらしい。慌てたようにバンザイをして私から離れようとしたけれど、私が離さないので離れることは出来ていなかった。


 私がそのまま頬を寄せていると、私から離れることは諦めたらしい。私の頭に手を置き、優しく撫でられる。嬉しくて、私は余計にゆいくんに頬を寄せた。


「俺が路地裏で『死んじゃう~』って泣き喚いてたこいつを保護してあげたんだから、感謝してほしいくらいなんだけど」

「それは……ありがとう」

「うわ、素直な兄貴キモいな」

「お前な……つーかお前の方が素直じゃないだろ」

「はぁ? 俺はいつも思ったことしか言わない。兄貴の方が、いっつも言いたいことあるって顔して、そのくせ何も言わないから、こっちはいつもイライラしてんだよ」

「優兎くんはゆいくんに素直になってほしいんだねぇ」

「は? 変なこと言うなよ、ふわり」

「……えっ」


 二人が言い合っているのに口を挟むと、ゆいくんが驚いたようにそう声をあげ、私を撫でる手を止めてしまう。ああ、ゆいくんの大きな温かい手で撫でられるの好きなのに……。


「……なんで二人とも、名前呼びしてるの」

「え? 弟くんじゃやだって言われたから」

「俺たちもう仲良しだもんな、ふわり」

「うんっ! 優兎くんと私、仲良しだよ〜」

「……そういうわけだよ、()()()()


 聞かれるがままに答えていると、何故か優兎くんがゆいくんを見つめてニヤリと笑う。しかも私の呼び方でゆいくん(おにいちゃん)のことを呼んで。


 そしてゆいくんはそれを受け何を思ったのか、私のことをギュッと強く抱きしめた。


「……俺とふわりの方が仲良いから」

「張り合うとかみっともないと思わないの?」

「みっともなくても張り合わないといけないことな気がするんだよ」

「へぇ、兄貴にもそこまで言えることがあったんだ」

「……ふわりに関しては、絶対、手放したくないから」

「ふーん」


 ……なんか二人が私についてで言い合ってる!? その間で私は二人の顔を見比べて。

 こ、これはまた、「私のために争わないで」チャンスなのでは!? ……って思ったけど、それよりも。


「……ふふっ」


 私が思わず笑うと、ゆいくんと優兎くんが不思議そうに私を見つめて。二人とも、ほんとに顔がそっくり、と思うともっと笑えてしまった。


 そんな二人に、私は告げる。


「二人とも、ほんとに仲良しさんだね♪」

「「良くない」」


 だけど二人はすぐにそう言い返してくる。……そういうところが仲良しさんだと思うんだけどなぁっ。

 はいはい、と私が笑うと、二人は顔を見合わせ……そして、ふんっ、とそれぞれそっぽを向くのでした。

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