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第39話「離れないように手、繋ごっか!!」

 その後私たちは予定通り、色々なところを見て回ったけれど……。


 やっぱりゆいくんは、目に見えて元気を失くしていた。新幹線の時以上かも。あの時は、話してもらったことで元気を出してもらったけど……今回は、私も目の前で見ちゃったからな。

 というか私は、過去の自分の言葉を後悔していた。いくらゆいくんを励ますためといえど、「広いところだからそうそう会いたくない一人に会うことない」、なんて無責任なこと言っちゃって……。


 実際は会っちゃったわけだし、二人は……そんなに仲が良くないんだろうな、ってことも、肌で分かった。特に弟くんは……どう言えばいいのかな。ゆいくんを傷つけるために言葉を使ってる、って感じがした。ゆいくんは……それにしっかり傷ついちゃって、心を守るために、声を荒げちゃう。


 ……どうしてこんな……悲しい状況になっちゃってるんだろう。いや、人の家庭のことだし、私が口を出すことではないって、それは分かってるんだけど。

 でも……ゆいくんがふわふわな笑顔じゃないのは、やっぱり悲しいよ。どうにか、出来たらいいんだけど。


 と、ゆいくんはきっと弟くんのことを考え、私はゆいくんをどう元気づけるか考えていたため、一日目はなんだか中途半端な感じで終わってしまった。もちろん楽しかったんだけど……でもどこか、二人とも心ここにあらずって感じだったっていうか。


 出かける前に「帰ったらいちゃいちゃしようね」って話してたのに、結局今日は特に何もしないでお互い布団に入っちゃってるし。


「電気、消すね」

「うんっ、お願いします」


 ゆいくんの言葉に、私は頷く。ゆいくんが電灯のスイッチを押すと部屋の電気が落ちて、窓から覗く薄明るい月の光だけが、部屋の中を照らしていた。

 隣で横たわるゆいくんの線が、よく見える。それは心なしか薄青色の線で、その線はなんだか淡くて、部屋の中の色と溶け合って……なんだか消えちゃうんじゃないかって、私は無性に不安になってしまった。


 だから私はゆいくんの布団の中に侵入し、ゆいくんにしがみつく。いつも私の布団でゆいくん寝ることあるし、今日くらいいいよね!!


「……ふわり?」

「むぎゅっ~~~~っ」


 名前を呼ばれても気にせず、私はゆいくんにスリスリと頬を寄せる。ゆいくんは困惑していたようだけれど、やがて私のことを優しく抱きしめてくれた。


「……気、遣わせて、ごめんね……本当に俺、ダメダメだ……」

「! そんなことないよっ、ゆいくんは駄目なんかじゃ……」


 頭上からゆいくんの、今にも泣き出しそうな声が聞こえたため、私は慌てて顔を上げる。……しかしすぐに聞こえたのは、寝息。


 ゆいくんは瞳を閉じていた。こんなにすぐに眠っちゃうなんて、よっぽどねむねむだったか、疲れていたのかもしれない。……まあ、早起きして、新幹線に乗って遠いところまで来て、その間ずっと弟くんに対する心労を抱えてて、安堵したところで弟くんに会っちゃって……その後一日色んなところを回ったわけだし。疲れちゃう、よね……。

 早く帰れば良かったのかもしれないけど、それはゆいくんにまた気を遣わせたと思わせてしまうかもしれないと思って躊躇っちゃったのだ。でも結局そう思われるなら、無理矢理でも帰らせた方が良かったのかなぁ……と、うんうんと一人で悩み。



 そう考えていた間に、気づいたら私も眠っていたらしい。目を開け、朝になっていることに気が付いた。


 ゆいくんはというと私より先に起きていたらしく、薄暗い部屋の中机の電気だけを点けて、何かを書いているようだった。時折呻いて、消して、そして書いている。


 あの仕草は知ってる。たぶん詩を書いてるんだ。

 あの時は話しかけちゃいけない時だ。ゆいくんは一人の時にしか書けないって言ってたから。そうすると、自分の気持ちにちゃんと向き合えるんだって。


 ……ゆいくんは今、どんな気持ちと向き合ってるのかな……。一番に浮かぶのは、弟くんのことだけど……。


 そんなことを考えながら布団の上に寝っ転がっていたらまた眠気が襲ってきて、気づけば私はまた夢の中に入ってしまっていた。





「ふわふわによるふわふわのためのふわふワールド!!!!」

「わっ!? びっくりした……」


 私が叫びながら体を起こすと、ゆいくんが驚いたような声をあげた。声の方を見ると、ゆいくんは目をまんまるにしてこちらを見ている。


「……ふわふワールドは……?」

「え、えぇっと……少なくとも、ここはふわふワールドじゃないかな……」

「うっ……もう一回寝るね……」

「待ってふわり、せっかく旅行に来てるのに」


 そう言われて体を揺すられ、私はカッ、と目を見開く。

 そうだった、私たち、一緒に旅行に来てるんだった!! 寝てる場合じゃねぇ!! だねっ!!


 私は体を起こし、顔を洗うために洗面台に向かう。道中に見える机の上には何もなくて、代わりにゴミ箱の中がいっぱいになっていた。





 準備完了っ☆ と鏡の前で身だしなみを確認した後、頷く。うんっ、今日もかわいい服でテンション上がる~!


「ゆいくんお待たせ!!」

「ううん、大丈夫。……準備はもういい?」

「うんっ。準備ばっちりだよ!!」


 私はそう言って指で丸を作る。それを見てゆいくんは、優しく笑ってくれた。


 ……昨日よりは多少元気そう……かな? そう思って私は少なからず安堵したんだけど……。


 ホテルのロビーまで降りると、そこには西園大学附属高校の制服を着た人たちがわんさか居て。……私たちはまるで吸い寄せられるように、その人たちの中から弟くんの姿を見つけてしまった。


 ……わ~んっ、空気読んでよ~~~~っ!!!!



 流石に昨日よりはマシだったけれど、やっぱりゆいくんは少し元気を失くしてしまった。惟斗は傷つきやすいから、という柚葵さんの声(※盗み聞き)を思い出す。う~ん、そうなんだろうなぁ、と思う。ゆいくんは結構、繊細さんだ。私は……いつも図太いって言われるタイプだから、そうなんだろうなぁ……と思います……。


「ゆいくんゆいくん、あれ見て~!!」

「……あ、うん、何?」


 ゆいくんは答えてくれるけれど、なんだかやっぱり心ここにあらずというか、ちょっと心を三歩くらい後ろに置いて行ってしまっている気がする。会話もワンテンポ遅いし。

 うーん、今日こそ、無理矢理にでも帰っちゃうべきかな? 部屋の中でも食べられそなご飯とかお菓子とか買って……そうしたら部屋の中でもきっと現地の物を楽しめるよねっ!!


 よし、と思って顔を上げようと思ったが……足元に衝撃。そっちを見ると、そこには小さな女の子の姿が。


「……ママぁ……どこ……?」

「えっ、貴方、迷子なの!?」


 女の子が小さく呟いた声を聞き逃さず、私は思わず声をあげる。慌ててしゃがんで視線を合わせると、私は女の子に笑いかけた。


「私、不破ふわりっていうんだっ!!」

「ふわ……ふわ、り? ふわふわ……?」

「そう!! ふわふわさんだよ~。……ふわふわさん、貴方のことが知りたいなぁ。お名前はなんて言うの?」

「わ……わたしは、あめ……」

「あめちゃんっていうんだ!! かわいいお名前だねぇ」

「……! うんっ、かわいいおなまえだから、だいすきなの」


 私がそう言うと、女の子──あめちゃんはようやく笑ってくれた。私もそれが嬉しくて余計に笑顔になってしまう。


「ゆいくん、この子のご両親探さな……きゃ……」


 私はそう言って振り返り、思わずその場で静止してしまう。


 あれ、ゆいくん……?


 慌てて立ち上がり、私はゆいくんの姿を探す。しかし付近にゆいくんと思しき人は見当たらなかった。ゆいくん身長が高いから目立つはずなんだけど……でも外国人観光客の人も多くて、上手く見つけられない……!!

 ……もしくは、ゆいくんはもう、この場にいない。


「ふわふわおねえちゃん……?」


 ハッ、と目を見開く。私の服の裾を引くあめちゃんがいた。


 ……ゆいくんはたぶん……かなりボーっとしてたから、立ち止まった私に気づかなかったんだろうな……。


 ゆいくんも心配だけど……成人男子とちっちゃな女の子だったら、後者を優先するのは不可抗力!! ごめんねゆいくん!!


「ごめんね、なんでもないよっ!! ふわふわお姉さんと一緒に、お母さん探しに行こっか!!」

「! ほんと……?」

「ほんとほんと!! ……それじゃあ、離れないように手、繋ごっか!!」

「うんっ!」


 私が手を差し出すと、あめちゃんは私の手を取って。





 ……ゆいくんにもきっと、こうしてあげたら良かったんだろうなぁ。

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