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オノマトペ組【後編】

 その後は教務部の人にしっかり録音出来ていた音声データを渡し、そして日恋は「そういう危ないことは自分でやろうとしないで」と軽く怒られてしまった。だが、男を蹴り飛ばしたことに関するお咎めはなかったので、胸を撫で下ろして。


 教務部から解放され、さあ今度こそ帰ろう、と日恋が綺羅と合流すると……その先には、先程の少女がいた。


 少女は二人に気づくを顔を上げ……ぱぁっ、と顔を輝かせる。あまりにも嬉しそうな笑顔だったので、心なしか背後に眩い太陽が見えた。それくらい純真な笑顔だった。


「さっきは助けてくれてありがとうございましたっ!」


 そして少女は勢い良く頭を下げる。だがすぐに顔を上げると、キラキラとした笑顔で日恋に詰め寄る。


「あの、さっきの、さっ、びしっ、ばしーん!! みたいな蹴り、本当にカッコ良かったです!! 男の人が、ひゅーんっと飛んでいっちゃって!! 思わず見とれちゃいました~!!」

「……そう、まあ、あの時は貴方に怪我をさせないように必死だったからね。無事で良かった」

「日恋は空手道場の娘だからね。空手の達人なのよ」

「もう、達人って言えるほどやってないわよ」


 少女の感想に、日恋はそう答える。すると綺羅がにやつきながらそう付け足し、日恋は呆れたように笑う。

 ……それを聞いて、少女は再びキョトンとした。


「……中身、違う人……!?」

「いやいや、一緒よ。さっきは猫を被ってただけ」


 そしてそんな結論に辿り着いたらしく、驚いたように声をあげる少女に、日恋は慌ててそう返す。すると少女はまたキョトンとして。


「興味があるフリをした方が、相手は油断するでしょ? そうやって話を聞き出して、綺羅……この子が教務部の人を呼ぶまでの時間も稼いでたの」

「……はぇ~……!! か、カッコいい……!!」


 日恋の言葉に、少女はまた瞳を輝かせる。コロコロ表情が変わる子だな、と思っていたら、少女は照れたように後頭部を掻いて。


「マルチ商法だろうなぁって思ってたんですけど、上手く離れられなくて……そんな中、貴方に割って入ってもらったのはすごくありがたかったんですけど……すごく話を聞いてるから、本当に興味あるんだと思っちゃいました」

「ふふ、私の演技力、なかなかでしょ? ……というか、貴方から狙いが外れてたんだから、逃げれば良かったのに」

「えぇっ!? そんなこと出来ませんよ!! ……いや、今思えばそうした方が良かったのかもしれませんけど……でも、貴方がマルチ商法にハマっちゃうのは駄目だって思ったので!!」


 その少女の言葉に、綺羅と日恋は顔を見合わせる。

 ……つまりそれは、日恋のためにその場に残ったということだ。見ず知らずの日恋を、被害から守るため。……と、それはブーメランかもしれないが。


「……貴方ってお人好しなのね」

「? そうですかね?」


 綺羅が面白そうに告げた感想に、日恋も頷いて同意する。一方少女は、不思議そうに首を傾げていた。


「ねぇ、せっかくの出会いなんだし、私たち、友達にならない?」

「え?」

「そうだね、うん。良いと思う。……私は笑原日恋っていうの。よろしくね」

「私は宝船綺羅。……貴方は?」

「わっ、私は……不破ふわり、昨日入学したばかりの一年生で、文学部所属ですっ。えと、好きなことはふわふわしたものを集めたり触ったりすることで、えっと……何かオススメのふわふわがあったら教えてくださいっ。よろしくお願いしますっ!!」


 そう気合の入った声で言うと少女……ふわりは、勢い良く頭を下げた。まさかそんな詳しい自己紹介をしてくれるとは、と二人は再び顔を見合わせて。

 そしてふわふわ好きという話……だからふわふわなバッグや服を所持していたのか、と納得できた。


「不破ふわりって名前でふわふわ好き……すぐ覚えてもらえそうな名前ね」

「えへへ……ふわふわと言えば私、ってどこでも言われます」


 綺羅の感想に、ふわりは照れたように笑って。そりゃそうだろう、と二人は苦笑いを浮かべた。


「あっ……でもでも、宝船さんはキラキラしてますし、笑原さんはニコニコ~ってしてて、二人も、すごく名が体を示すっていうか、すっごく素敵だと思いますっ!!」


 ふわりはそう言って嬉しそうに笑う。


 綺羅がキラキラ、日恋がニコニコ。……考えたこともなかった。と二人は驚いて。


「じゃあ私たち、オノマトペ組ってこと?」

「え、何それ面白い」

「オノマトペ組……!! 素敵な響きですねっ♪」


 ふわりはふわふわと笑っている。まさに、名が体を示す三人組だ。


「ところで、私たち同じ学年なんだから、敬語はなくていいわよ。()()()

「私たちの呼び方も、名字じゃなくて名前で良いしね、()()()!!」


 綺羅がそう言い、日恋はそう付け足す。驚いたように目を見開くふわりに、二人は輝く笑顔を浮かべて。


「……うんっ!! これからよろしくね、綺羅ちゃん、日恋ちゃんっ!!」



 ──────────



「──と、いうのが私たちの出会いなの。分かった?」

「わ、分かったけど……なんで聞いてもないのに教えてくれたのだけが疑問で……」

「あんたの知らないふわりを教えて羨ましがらせようと思って」

「それだけのために!?」


 戸惑う俺の隣で、ふわりはもぐもぐと「もくもくくもパン」とやらを食べている。口いっぱいにパンを詰め込んでいる様子はまるでハムスターのようで、本当にかわいい……と口が緩みそうになる。


「そんなこともあったね~。あの時の日恋ちゃん、本当にカッコ良かった!!」

「ありがとう、ふわり。今だって、ふわりに何かあったらこの技をお見舞いしてあげるから」

「俺を見ながら言うのやめてもらえませんか」


 俺は何もしないから。……俺は。


 にしても、一年の時にそんなことがあったとは。……確かに祖父が、校内でマルチ商法を働く生徒を捕まえた生徒がいた、みたいな話をしていた気がするが……あまり興味がなかったのか、ちゃんと覚えてないな。


「にしても……あの時のあの男の人、ぜ~んぜんふわふわしてないなって話しかけられた時からビビッと来てたけど……本当に危ない人だと思わなかったから、びっくりしたなぁ。やっぱり、トゲトゲは敵だね!!」


 ふわりはそう言って、うんうんと頷く。口の端にパンの欠片を付けながら。


「……何というか……ふわりって本当、ふわふわで安心するわ」

「そうだね、私も」

「俺もそう思う」

「えぇっ!? なになに、どういうこと!?」


 ふわりが戸惑ったように俺たちのことを見回すが、俺たちは笑うだけで何も答えない。


 それを見たふわりはキョトンとした後……えへっ、とかわいい笑顔を浮かべるのだった。





【オマケ1 終】

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